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前期 《帝国2》

遅くなってごめんなさい<m(__)m>引き続きよろしくお願いします

ルキウスはジッとマルクスが出ていった扉を睨み付けていた



「ルキウス君…いや、ルキウスよぉ。マルクスは嫌いかね?」

ガイウスがにっこりとした表情で笑いかける


「…お祖父様、よろしいのですか…口調が普段通りとなっておりますが、どこに目と耳があるのかわかりませんぞ」

ルキウスは呆れる


「クハァァァ、儂は構わんがな。お前は儂の孫であることは変わらん。それより、お前はマルクスが嫌いかね?お前が奴を見る目は明らかに嫌悪を示しておったぞ」



「ええ、嫌いですよ…それ以上に妬ましいですよ」

ルキウスは顔を歪める


「だが、奴を嫉妬するだけ無駄だぞ。お前の天才とは違って、あれは物が違う。人の範疇で比べるのが可笑しいのだよ」

ガイウスは眉を八の字にする


その事はルキウス自信が一番よく知っている。







ルキウスは幼少の頃から偉大な存在である大将軍筆頭の祖父と将軍筆頭の父、上位将軍の母から厳しい教育を受け、軍学校では歴代最高の成績を修めて首位で卒業した。その後の国内の賊の掃討では大活躍を遂げた


そんな彼が初めて挫折を味わったのは初めて外国との戦争で百人隊長を務めてた時である。彼らは敵の罠にかかり窮地に陥ったとき、彼を助けたのが当時マルクス率いる野盗の集団だった。ちなみにマルクスが初めて帝国の一員として戦った戦いでもある。



その時、彼の戦い方を見たルキウスはその常識に囚われない戦い方を見て大きな衝撃を受けた。そして…


彼は祖父に頼み込んで、マルクスと共にいることを願った。勿論周囲は反対した。名門貴族の一員であるルキウスが帝国最大の野盗の頭であるマルクスと行動すると沽券に関わる為だ。


だが、祖父は周囲の反対を潰して無理矢理マルクスの副官にした。ルキウスはかつての部隊、部下、地位、名声を全て捨てたのだ。



彼を一言で表すとマルクスオタクといえる。彼は副官の間、一度も指揮をしなかったのだ。ただ、マルクスの背後で、彼の指揮…いや、用兵の方法をひたすら自らの目で見て、手で書き記したのだ。そして戦争のない時間を利用して、祖父と同じように地図と駒を使ってひたすら彼の戦いを再現し、コピーし、自分のものにし、そして…対策、いやっ、彼に勝つ方法を徹底的に探ったのだ。盤上では、彼はマルクスには必ず勝つだろう。



マルクスの周囲はルキウスの危険性を伝えたが、マルクスは…


「アイツは面白い奴だ…放っておけ。それよりも…」


等と気にかけない有り様であった。




その後ルキウスは祖父の命により、祖父直属の参謀として軍の指揮をとったが、後に軍団長に格下げ、父と母の下で最前線を戦い抜いた。その間も信頼できる部下にマルクスの下へ行かせ、記録を続け、夜な夜な盤面を並べる習慣はやめなかった。




「わかってますよ…盤面を並べれば並べるほど、その差は広がっていくばかりです。どう足掻いても彼の足元には及ばない。しかし、嫉妬するぐらいには私にも力があると自負してます」

ルキウスの目には諦めの色がなかった。



「嫉妬はわかったが…なぜお前は嫌いなのかね?他の頭が固い奴は、マルクスが出自がはっきりしない野盗出身だからだとほざく奴が多いが…そんなのはどうでもいい。使える奴は使うし、使えない奴は切り捨てるだけだからな」

ガイウスはサラリと言う


「ズバリその発想ですよ。彼の戦術は確かに筆舌し難いものですが…それを吟味すると、彼には命の貴賤の価値観がないんですよ。彼にとっては人の死とは数値上の問題なんですよ。それが許せませんし、それを肯定するお祖父様も、嫌いです」


マルクスはその気になれば平然と他の大将軍の首を敵に渡すだろう。


あの時のように…



ガイウスはニッコリと笑う

「なるほど…ルキウスよ。お前にとっての戦争とは何か?勝利とは何か?」


「それは…」


「大将軍にはそれぞれの戦争と勝利がある、マルクスは戦争を数の減らし合いと表現した。いかに犠牲を減らし、相手を多く殺すか。アイツはそれを求めた」


ルキウスは頷く


彼が“不敗”と呼ばれる所以はそれなのだ。戦場でマルクスは不利になると躊躇いもせずに撤退して勝負をあやふやにしたりするが…その戦場で転がっている死体はほとんど敵兵である。仮に敵が戦争で勝ったとしても敵は目も当てられないような犠牲を払うことになるため、勝ったという実感が得られないのも特徴である。




「クラウディア、アイツは戦争を将の殺し合いと表現した。いかに多くの将を殺すか。マキシム、アイツは領土の奪い合いだと、故に決して撤退せずに土地を頑強に守り抜いた。ウェルキン、アイツはもっと面白いぞ。戦争を戦意の潰し合いと言いおった。だからアイツは敵が嫌がることをひたすらこなす」

ガイウスは一人ずつ顔を思いうかべる


「では、お祖父様あなたにとって、戦争とは、勝利とはなんですか」



「儂か…儂は戦争とは国の潰し合いだと思っておるぞ。敵の国を如何に潰して、自国を存続させるか…それが答えだ。故に見ろ、この盤面を。ここには多くの戦場がある。仮に全て敗北しても国に大きなダメージを受けなければ儂らの勝ちだ。儂にとって盤面の戦争など勝っても負けても変わらん。常に次の手、またその次の手、そしてまたその次の手。指す手は無限にあるからな。では、もう一度問おう。ルキウスよお前にとっての戦争とはなんだ」


ルキウスは目を閉じる


そして、ゆっくり瞼を上げて

「私にとっての戦争とは大儀とのぶつかり合いです。攻めるのにも守るのにもそこには大儀があります。そして一度掲げた大儀を決行するためにお互いは全力を尽くします。大儀の維持が不可能になった国が敗北するのです」



ガイウスはにっこりと笑う

「それでいい。お前が信じる道を行けばよい。今日はもう遅い。明日は早いぞ。寝るが良い」


ルキウスはお辞儀をする


そして静かに出て行った。



「…ルキウスよ…儂は別にマルクスを好んではおらぬ。むしろ嫌い…いや、憎んでおるわ。それも皇太子様と同じめに合わせたいぐらい、殺したい」

ガイウスは目の前に広げられた地図に悠然とたたずむ駒を睨み付ける。




…その駒には、



マルクス率いる部隊の名が書いてあった。




「…」


屋根裏でガイウスの独白を聞いていたウェルキンゲトリクスは苦笑して、姿を闇に溶け込ませる



「さぁーて、仕事しますっか」



彼の眼には、全身黒で身に包んだ集団が見えていた。



彼は聞こえない”声”で号令をかける。




戦争が始まる前に戦いは始まっていた。

戦争はまだ先になりそう((+_+))

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