初期 《邂逅3》
本日二本目の投稿
「さてさて、お久しぶりですねぇ…レムリア…お元気そうで!そして、二人とも初めまして、カルタフィルスこと『彷徨える者』です」
カルタフィルスが握手を求める
アーカムはその手を握ろうとして…
「うぁぁぁぁ」
後ろにのけぞる
「…こいつの狂気に当てられたか…」
先ほど、充満していた血の海の匂いがさらに凝縮されてあたりを漂う
「『彷徨う者』…貴方は何故、セイラムをレムリアって呼ぶの?そして、アビス様の呪いって何かしら…」
ミスカが躊躇いがちに聞く
「それはですね…セイラムの魂は、レムリアという魔女の転生した魂だからです。私はレムリアが生きていた時代…2000年以上昔の人ですからねぇ」
カルタフィルスはしみじみとした表情で語る
「そして、こいつはそのレムリアを殺した男だ。当時は『黒の聖女を殺した彷徨える罪人』と呼んでいたな」
「ええ、その当時の私は異端審問局所属の祓魔士でしたからねぇ。魔女は特に浄化の対象でしたから、その後、彼女の姉である魔女の宴の創始者であるアビスに呪いをかけられたのですよ。こうして今もこの時代を彷徨っています」
カルタフィルスは嬉々として語り、突如歌いだす。
ああ、愚かな魔女よ
捕まった魔女よ
まず、呪いをかけられないように目玉を抉りましょう
次に、呪文が唱えられないように喉を切り裂きましょう
そして、印が結べないように指を切り落としましょう
ああ、逃げないように足も切り落としましょう
君処女?
だったら犯しましょう
最後は綺麗な体でいたい?
だったら後ろの穴も犯しましょう
死にたい?
だーめ、君に魂の安息はないよ
この棺桶の中で眠りなさい…生を受けたことを後悔しながら…そう、永遠に…
ミスカは足元がグラつくのを感じた
アーカムは全身を硬直させている
「こうやって、私は他の魔女と同様に、レムリアをこの手で犯し、殺したのですよ。彼女を殺した後、私は彼女に対しての信仰心を抱き、アビスによって、洗礼を受けたのです」
カルタフィルスは顔を赤らめなが身を快感に悶える
「やっぱり、狂っている…これが五帝なのね」
ミスカは下を向く、自らの主であるセイラムも彼らと同類なのだ。
ミスカはまだ狂人の道に踏み込んだばかりなのだ
「あなたの力は不死なのですか?」
アーカムが尋ねる
「う~ん、そうですねぇ~私の力は確かに不死ですよ」
カルタフィルスはにっこり笑う
「アーカム、不死だけでは五帝にはなれませんよ」
いつもの優しい?セイラムがアーカムに話しかける
「あれ?この人誰?こんなせいかくでしたけ?」
カルタフィルスは不思議そうな顔で眺める
ミスカも顔をしかめる
「ちなみに私も不死ですよ。世の中にはいろんな不死がありまして、必ずしも強いわけではありません」
セイラムは自愛の満ちた笑みを浮かべる
「セイラムの不死は…」
「魂の交換ですよ。あとは肉体の再生ですね。仮に死んだとき、あらかじめ保有している莫大な量の魂のうちの一つを死体…つまり死んだ自分の体に入れる…う~ん、わかりづらいですね。つまり死んで役に立たなくなった魂と新鮮な魂を交換するんですよ。こうすれば動く屍体が、完成。そして肉体の再生とは生物無生物問わず、あらゆるものを吸収し、それらを肉体の再生に使うんですよ。この再生は眼球、内臓、脳までも完全に再生させますからねぇ」
死ぬと、魂は肉体とつながっていた精神の鎖が千切れ、肉体から飛び出す。運良く肉体に戻り精神の鎖をつなぎ直せば生き返る
セイラムはそこに着目した。死んで魂が肉体から飛び出す前に、新しい魂と交換して生を維持し、古い魂は吸収して自己の肉体の再生のための燃料に使うのだ。
これらはもちろん、禁術である
「それよりも、ヨセフ、お前の不死の原理がわからん!そこで寝転がっているお前の死骸を集めて、いくら調べてもわからん。おかげでそこら辺の適当な霊と定着させて雑用させる以外、使い道がないぞ」
セイラムはため息をつく
「ちょっと!酷いですね!私の体をそんなことに使わないで下さいよ。私の不死は後で教えましょう」
カルタフィルスげんなりする。
「話を戻しますと…確かに不死だけでは心細いですから、私は教会で奇蹟と秘儀を会得しました。奇蹟とは祓魔士が魔女や悪魔と戦うときに必要な15つの刻印のことですよ」
コホンと咳をして
「秘儀とは、10つの聖体拝領を行って手に入れた10つの力のことですねぇ」
「ちなみに、私が補足しよう。奇蹟とは元々、4人の聖人と11人がそれぞれ一つづつ持っていたんだ。それをヨセフは残りの14人を殺害し、強奪した。これだけで、Sランク相当上位の力を持つことになるが、この男はそれだけでは足りず、聖杯まで手を出したんだ。聖杯は全部で10あり、ⅠからⅩまでの番号が刻み込まれていて、順番に聖杯の中にある聖血を飲み、聖肉を食べなければならないが、普通の人間は一つでも飲み食べたら咎を受けて、おぞましいものに変貌するのだが…」
セイラムはカルタフィルスをチラリと見る
カルタフィルスの姿は人間そのものだ。
「私は全ての試練に打ち勝ち、神を名乗る愚かな上位者と同じ力を手に入れましたね。ここで、ネタばらしを差し上げようではありませんか」
カルタフィルスは相変わらずにこやかなままで言う
「いいのか?私に教えるということはどういうことか知っているんだよね」
セイラムは確認をとる
「構いませんよ。ていうか、前回・・・200年前会った時に約束したじゃないですか!再び会ったら答え合わせをしてあげようと…あの時、あなたが考えた、平行世界の私をこの世界に呼び寄せるというのは残念ながら間違いですね。これの正体は永劫回帰です。つまり、死んだら時間が巻き戻されるのですよ。そう、アビスに呪いをかけられた日にね。そして2000年の時を過ごして再びここに来るのですよ。この死体は目印ですね。この死体の先には二つの道があり、一つは振り出しへ、もう一つはその先へと繫がっています。ちなみに私はどちらが正解なのかはもう知っていますから。長い時間をかけて…一度紡がれた運命は捻じ曲げることはそう、容易ではありませんので。途中で道を踏み外しても、その先には必ず死体があり、選択を迫られる。私は先を進むしかない、死んだとしても進むしか出来ないのだから…私は今まで何回?何十回?何百回?何千回?何万回?死んだのかはわかりませんが、魂はもう何億の時を過ごしたと思います」
「つまり、お前は過去に戻ってやり直しているのか?」
カルタフィルスは首を振る
「私が過去に行くんじゃありませよ。この世界が過去にいって、私がやり直すのですよ。あなた方は記憶がなく、紡いだ糸の上を歩んでいるため、基本何も変わりませんが…私は死ぬたびに新しい道を歩もうと努力してます。まぁ、その努力は無駄ですけどね。こうして前の時間軸で死んだこの死体を目の当たりにするのだからねぇ」
ミスカは身震いをする。この男は…普通ならそんな悠久の年月を生きたら狂人になるはずなのに、この男は…笑っている。正気を保っている。
「で、この不死を活かして聖杯を手にしたのですよ。神の血と神の肉の抗体を作るために何回死んだのやら、それよりも他の者が持っていた奇蹟を奪うために争ったとき何回殺されたのやら…まぁ、私はこれしかありませんから、五帝最弱と名乗ってますけどね」
そのあと、和やかな雰囲気のまま別れた。
カルタフィルスは別れ際に
「ああ、そうでした!忘れてました!レムリア…『反逆せし者』と『断罪の執行者』の両名があなたを探してましたよ。前者は今後について話し合いたい、だそうで…後者は相変わらず貴女を牢獄に連れていきたいそうなのでお気をつけて…特に後者にはくれぐれも気を付けてくださいね…この間、捕まりまして、貴女の居場所を吐かせるために拷問を喰らいまして、何回かは忘れましたが物凄い数の死を味わいましたので」
その言葉に、セイラムは頭を抱える
ここは…自由都市ネーデルラント同盟市の主都ブリュッセル
この町の中央にそびえ立つ巨大な建物…人々はこれを
グランドロッジ
…と呼ぶ
このグランドロッジは、ユーロピア各地に拠点を構えるあらゆるギルドを束ねるロッジと呼ばれる支部局を束ねる、いわばギルドの総本部である。
このグランドロッジのマスター、グランドマスターはいわば、どこの国も、どこの権力も介入を許さない自由都市…いや、自由の国の主である。
そのグランドマスターは頭に日本の長い角を生やした美しい青年であった。彼は静かにペンを走らせる
彼の眼の前には、黄金色に輝き、宝石がふんだんに使われた玉座に、だらしなく寝そべった少年である。初年は毛皮のマントを身につけ、これも豪華な王冠を被り、胸にはたくさんの宝石が散りばめられたネックレス、指には巨大な宝石がついた指輪を全ての指に付けている
「おい、『反逆せし者』よ…『魔界商人』はどこにいる…答えなければお前も連れていくぞ…」
五帝の一人『反逆せし者』と呼ばれた青年は、眼鏡をはずし、少年を見据える
「済まないな。『断罪の執行者』よ。私たちも探しているところだ。最後に手紙を貰ったのは10年前で、それ以降行方がわからない。けど数年前に現在自由都市としたハンガリア公爵領の主都イシュトヴァーンで姿を確認したが、今はいないだろう」
こちらの少年も五帝の一人であった
「ふん、ならここに用は無い!待ってろよ…あの売女め、確実に牢獄にぶち込んでやる」
彼は指をパチンと鳴らすと姿を消していった
「やれやれ、彼女は大変ですね。うちの優秀な商人ですからね。なんとか逃げてくださいよ…もし捕まるのなら借金は必ず返してから捕まって下さい。ああ、すみませんね。もう出てきてもいいですよ。『観測する者』よ」
奥の扉が開き、一人の…少女が現れる。外見はまだ15.6にしか見えない。清楚で妖艶な傾国の美少女とは彼女のことを言うのだろう
彼女は退廃的で背徳的な気を吐きだしながら歩き、口を開く
鈴がなるような…全ての生物を魅了させる声で
「お茶をくれるかしら?」




