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初期 《ゲルマニスク6》

お久しぶりです…僕の好きな小説が中々更新されない…

「ふぅ~、ローマを通って、船でここまで来たが…休みなしで、連続して旅をするのは体にいいものではないな」


アレキサンダーがやれやれと首を振る



ここはヒスパニア王国第二の都市バルセロナ…



「港の船のほとんどは軍艦だな…」


重装備の兵士たちが次々と船に乗り込む。彼らは多分、サラセン朝との戦いに行かされる哀れな子羊たちなのであろう。


「まぁ、今のところ我が国とは関係はない。首都マドリードへ向かうぞ」

後ろに控える部下に言う




後日…



「お初お目にかかる…ヒスパニア国王ロドリゴ。私は…」


「お前の事など興味ないわ!さっさと立ち去れ…」

ロドリゴはめんどくさそうに手を振る


「そういうわけにはいきませんよ。私は国を代表して来ておりますゆえ、立ち去ることが出来ません」

アレキサンダーはにっこりと微笑む


「今貴様らとじゃれあってる暇はない!フランクは自分達の力でどうにかしろ!」

ロドリゴは拒絶する


「そうはいきません。ヒスパニアはフランクと同盟を結んでいる。もし仮にユーロピア最強の軍であるあなた方が来るのを想像すると末恐ろしい。それを回避するために、手を尽くさなければなりません。まずこの書状をお読みください」

アレキサンダーは恭しく巻物を取り出し、ロドリゴ近くに控える女性将軍に手渡す。



女性将軍は一礼して、ロドリゴに手渡す。

ロドリゴはさっと流し読みをしようとして、手が止まる


「おい、お前…これは本当のことなのか…」

ロドリゴは何度も手紙を読み返す



「間違いありません。私が直接アルビオンに赴き、書かせたアルビオン国王エリザベス女王の直筆の書簡であります。他の皆さんにも内容をお伝え致しましょう。アルビオンの海賊船はヒスパニアの船を襲わないと約束してくれました。ですので、フランクと結んだ同盟はもう必要ありません!これで心置きなくサラセン朝と戦争が出来ますよ」



「お前…条件は何だ…」

ロドリゴは剣の柄を握る


返答次第によっては切り捨てるということだ。

もし、殺したら国際問題となり、戦争になるが…サラセン朝と戦っている今のヒスパニアと戦争してもゲルマニスクは良くても引き分けが関の山だろう。



「ゲルマニスクの要求はフランクとの同盟の破棄、及びゲルマニスクとフランクとの戦争に静観を貫くこと、以上の二点です」



「よかろう…貴様は目障りだ。今すぐ消えろ!」




帰りの馬車では


「やれやれ…短気な人であったな…それでも武に関して素人である私でも一目でわかった。あれは怪物だな。自国の三大将と比較しても…あれは違う。幸い、政治や謀略には疎いと聞いているが…」



「武力だけでは超大国に挑むことは出来ません。下には優秀な方が大勢いるのでしょう…」

部下の一人が気を落として言う

「それはそうだろう…だが、今日の成果はとても大きいことだ。ヒスパニアが動かない今、フランク包囲網が完成した。北はアルビオン、西はヒスパニア、東はゲルマニスク、南はローマ…これで動けまい」


アレキサンダーは深く息を吐く


「そして、ボヘミア王国に侵攻するのですね!」

部下が嬉々して言う


「うむ、西部(チェコ)はゲルマニスクが、東部(スロバキア)はローマが戦後統治するという秘密協定だ」

アレキサンダーは満足げに話す



アレキサンダーは目を閉じ、アルビオンへ旅立つ前に交渉に行ったローマのことを思い出す。






「ここが…水の都ヴェネチア…なんと美しい街なのだ!」



「喜んで頂いてもらって、こちらも嬉しいですよアレキサンダー枢機卿。あなたはこの都市には来たことがないのですか?」

ウルバヌス枢機卿が微笑む


「ええ、ウルバヌス猊下。お恥ずかしながら…神に仕える身としてローマで滞在したのは永遠の都であるローマのみでこざいまして…その後はゲルマニスクにおりました故」

アレキサンダーは恥ずかしそうに顔を赤める


「ははは!ならばローマではなくこちらを会談の場にしたのは正解でしたな!見慣れたローマよりもこちらが新鮮に思えるでしょう」


「ご厚意に感謝致します。では、早速…」

アレキサンダーは書類を出そうとして…


「いやいや、アレキサンダー枢機卿。難しい話は後にしようではないが!折角美味しい料理も、お酒もあることだ。料理の質はフランクに劣らないぞ。料理を楽しんだ後で話しても遅くはなるまい」




食後…



「ふむ、話とは?君は枢機卿といいながら我が国ではなくゲルマニスクに肩入れしてるようだが…まぁ、君のお陰でゲルマニスクとローマとの関係は非常に良好だ!その感謝の礼として枢機卿(カーディナル)の称号を与えたのだけどね」

ウルバヌスは茶目っ気たっぷりにウィンクする


アレキサンダーは微笑む



自分は5年前、聖立ローマ神大学の神学科を卒業して、間もなく生まれ故郷のゲルマニスクに赴任した。その後は三年で異例のケルン大司教まで出世し、翌年にゲルマニスクとローマとの同盟の立役者として枢機卿になったが…



それでも目の前にいる50に近づいた枢機卿の長を務めるウルバヌス枢機卿からすれば、取るに足らない存在なのだろうと思うと笑えてくる



「お話とは…今我が国が画策しております対フランク包囲同盟についてです」

まどろっこしい言い方はこの男に悪印象を与える



「ふむ、それはなかなか重要な話だね。今ローマとゲルマニスクはフランク、ヤゲロー、ボヘミアの三国によって包囲されているからね」

ウルバヌスはやれやれと首を振る


「それで、我が国はアルビオンとヒスパニアへ同盟、もしくは中立協定を結びフランクの動きを抑え、包囲網を食い破るために両国でボヘミアへ侵攻しようと画策してる所存です」


ウルバヌスは口許を歪める

「それはそれは素晴らしいですな!それで我が国から軍を出し、その後の報酬は?」


「ボヘミアの東部(スロバキア)を差し上げましょう」

つまり、占領した土地を半分にしようという話である



「ふむ、いいでしょう。アルビオンとヒスパニアはお任せ致します。ローマは今、帝国(ツアラ)との国境で不穏な緊張感に包まれています。それを宥めなければなりませんゆえ」



「それは…穏やかではございませんね…」

アレキサンダーは冷や汗をかく


帝国(ツアラ)に喧嘩を売ることは破滅を意味する。三つあった超大国のうち一つを滅ぼし、残った超大国の半分を蹂躙している帝国(ツアラ)は一番刺激してはいけない国である


「間違っても…戦争だけは起こさないでくださいませ…虫が獅子…いや、竜に喧嘩を売るのと同義なのですから…」

アレキサンダーは吹き出る汗を必死にハンカチで拭き取るが…拭いても拭いても止まらない


「勿論です。今クレメンス枢機卿が必死に過激派を宥めているところですよ」


そのまま不穏な空気に包まれたまま、会談は終了した。


細かい事は全て部下に託し、次の目的地への準備を始めるため、一旦帰国の準備を行う。




そして時は戻り…



「よし、このまま行きと同様帰りも船で帰るぞ」





数日後…



「…以上となります。陛下」


「ご苦労だったアレキサンダー。これで…フィリップ…お前の言う通り、東へ攻めさせて貰おう。お前がどう足掻こうとも、我らの勝ちだ!」

フリードリッヒは満足げに笑い


アレキサンダーは自分が行った偉業の礎作りに満足し、成功を信じて疑わなかった




そう、この残酷な…絶望に叩き落とす終末の鐘を思わせる報告を聞くまでは…





「バルタザール、メルキオール、ガスパール!準備は出来たか?」


三人は一斉に頭を垂れる


「全軍準備が完了致しました!これより…作戦(オペレーター)電撃(ブリッツ)をいつでも始動出来ます」

バルタザールが報告する



「うむ」



この一撃でボヘミアを滅ぼす。ボヘミアには武力ではロドリゴやヒシャームと同じレベルの怪物オタカルと智力ではヒスパニアのディエゴ・アルマグロと肩を並べるヴァツラーフが控えている。それだけでなく、両名を支える万能の副官ハヴェルもいて、そのハヴェルを支える若き将軍を入れるとキリがない 。



正面でぶつかれば、国力の差でなんとか勝つことは出来るが…国家存続危機レベルのダメージを受けることは確実だ。



これを打開する方法はただ一つ…圧倒的なスピードで敵の中枢を落とし、敵が混乱している間に全力で叩き潰すのみ。

そのために、一般人に扮した諜報員などを多数送り、調査に調査を重ね、一年を通して参謀たちと考えに考え、要となる精鋭部隊は訓練に訓練を重ねた。



先ずは第一軍の精鋭部隊である中央騎士団と第三軍の宮廷騎士団と近衛騎士団の重装騎兵と軽装騎兵、そして主力の戦車(チャリオット)部隊で宣戦布告せずに侵攻し、事前に計画した首都までの最短ルートを猛スピードでかけ、首都を落とす。

そして、敵も対応しようと軍を動かすが、それを第二軍の騎兵部隊が撹乱して連絡を断ち、残りの第二軍で各個包囲撃破をする。弱点である薄い兵站は残りの第一軍と第三軍で維持する。

これは長期戦になればなるほど不利になる。故に短期決戦で決める。






「さて、あとはローマからの使者を待つだけだ。彼が到着し、確認出来次第出陣し、侵攻しろ。合流は必要ない!ゲルマニスクだけでボヘミアを落とせ!」


「「「御意」」」




翌日…



「陛下!ローマからの使者が参りました!」


「良し!通せ!」




神衣(カソリック)を着た男が膝を着く


その顔は蒼白になっていた

「ゲルマニスク国王フリードリッヒ陛下…計画は破綻しました…故に軍を引いたほうがよろしいかと…」


「何を言っている貴様!」

フリードリッヒは怒りに満ちた表情で問う



その時、一人の部下が影から現れ、アレキサンダーに耳打ちすると…アレキサンダーは突如崩れ落ちる


「我がローマは災厄を呼び寄せてしまいました…我がローマはゲルマニスクと呼応するため軍を掻き集め、準備をしていましたが…それを一部過激派が扇動し、帝国(ツアラ)に侵攻、ユーゴスラヴィア領の内、スロベニア、クロアチア、ボスニア、ヘルツェゴビナの4地方を併合しました」



フリードリッヒは声にならない悲鳴を上げた






周囲は火に包まれていた…大勢の死体が次々と燃え盛る炎へと投げ込まれる。投げ込まれた兵士は皆ローマ軍だ。



「マルクス大将軍…帝国内にいたゴミはこれで最後です…次はいかが致しましょう」

部下の一人が尋ねる



「まもなく上将軍から指令が来るだろう…」

椅子に座り、死体が燃やされる様子をジッと見つめていた男…フードを目深にかぶった男が振り返る



「伝令!伝令!発ビザンティウム!上将軍より中央将軍へ!大将軍六人は結集せよ!そして、ローマに侵攻し、最後の聖地ローマを奪還せよ!」




マルクスはその報告を無表情で聞き、ポツリと命令する

「行くぞ…」





彼の名はマルクス…


帝国軍にいる六人の大将軍の一人、中央将軍を冠する将軍である。後世の歴史家たちは、彼をヒシャームと共に、この時代最高の名将とたたえている。どちらが優れているかは大きな議論を読んでいるが、未だに決着はついていない。



この時代での受け止め方は少し違う




人々はヒシャームを”常勝の英雄”と讃えるが…、





マルクスは、その戦いぶりから敵味方共に恐怖し、畏怖を込めて、




こう呼ぶ







”不敗の魔人”と…


こいつ誰?ディエゴ・アルマグロ(実在の人物ですが…フィクションです)


ヒスパニア王国将軍である征服者(コンキスタドール)の一人で、序列2位。征服者(コンキスタドール)を束ねる長であるため、他の征服者(コンキスタドール)からは”司令官(エル・アデランタード)”と呼ばれている。そして、戦術家として一流であり、ヒスパニアの最強陣形”テルシオ”を考案し、多くの派生形を作った怪老…各国からは”老人(エル・ビエホ)”と呼ばれ、恐れられている

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