性別
盥のお湯で湯浴みさせ、僕はリーアお姉さんに赤ん坊を渡す。受け取ったリーアお姉さんは、さっそく赤ん坊にお乳を飲ませ始める。トシばあちゃんは道具を片付けつつ、赤ん坊の様子に気を配る。僕はそんな二人を見つつ、預かった魔力を体に馴染ませる事に集中する。金庫を開け、少しずつ魔力を取り出し体に巡らせていくが、ちょっとでも気を抜くと魔力が暴れだす。
「うーん。思っていた以上にじゃじゃ馬な魔力だなぁ。魔力はその人の本質を写す鏡と言われるけど、どっちにしてもお転婆かやんちゃ坊主決定かな」
漸く魔力を体に馴染ませた僕は、思わず苦笑混じりにリーアお姉さんを見た。
「えっと、どういう事?」
僕の言葉に、不思議そうな表情をしたリーアお姉さんの問いにトシばあちゃんは面白そうな笑みを浮かべてこっちを見る。
「あ~、リーアお姉さんは知らなかったんだ。その子、聖族だよ。魔族や聖族は産まれた時はまだ性別が決まってないんだ。正確には未分化なんだけど」
「そうなの?」
「うん。契約者と引き合って初めて性別が決まるんだ。契約者の魔力を感じ取ると体が変化するんだよ。それまでは、自分の好きな性別で過ごすけど契約者の魔力を感じて変化する時は、大抵異性になるんだ」
「ルクスは今男の子よね?」
「今のところはね。まあ、契約者のその子も聖族でまだ未分化だから暫くはこのままかな。その子が守護者としてデビューする時に決まるかな」
「そうすると、名前が難しいわね。どちらでもいけるのにしないと」
「そこまで深く考えなくてもいいよ。僕のルクスも通称だし」
「そうなの?」
「うん。女性としての名前は、リシェルだし。まあ、無理やり読んでだけどね」
「ひょっとして、綴り一緒で読み方変えただけ?」
「そうだよ。だからインスピレーションで決めたらいいと思うよ」
僕の言葉に、満腹になったのか眠り始めた赤ん坊を抱いたリーアお姉さんは、優しい笑顔で寝顔を覗き込み名前を考え始めた。