出産
家を飛び出した僕は、数件隣に住むベテラン産婆のトシばあちゃんの家に走った。
「トシばあちゃん、朝早くからごめん。産気付いた妊婦さんがいるんだ」
玄関のドアを蹴破る勢いで開け、中に向かって叫ぶ。
「ルクス、直ぐにその妊婦の所に案内しな」
突然開けられたドアに、驚いた様子も見せず既に道具一式を持ち椅子に腰掛けていたトシばあちゃんはそう言って立ちあがった。
「わかった」
僕はそうトシばあちゃんに答えると、ばあちゃんに近づきその体を抱え上げた。玄関を潜り、魔法で鍵を掛けると家にとって返す。家の客間のベッドでは、リーアお姉さんがお腹を押さえて横たわっていた。
「ルクス、直ぐに湯を沸かしといで。後、タオルも何枚か持ってきな。こいつは、後ちょっとで産まれるよ」
僕の腕から降り、リーアお姉さんに近づき状況把握魔法を展開したトシばあちゃんは、道具を広げながら指示を飛ばす。僕はすぐさま台所に向かいやかんを火にかけた。そして風呂場からバスタオルやハンドタオルの束を片腕に抱え、もう片方でお湯の沸いたやかんを持ち、客間に戻る。
「しっかりしな!もう頭が見えてるよ」
そこでは既に出産が始まっていた。トシばあちゃんの声にリーアお姉さんは辛うじて頷く。僕は、盥に湯を入れその横に持ってきたタオル類を置いた。