休息
魔力が渦巻き、僕を包み込む。暫くして魔力の渦が晴れると、僕の姿は少年から二十歳位の青年に変貌を遂げた。
「よし、とりあえず成功かな。でも余り長時間は持たないから急ぐか」
変化した姿を確認し呟いた僕に、妊婦は口を大きく開けて絶句していた。そんな彼女に構わず、僕はおもむろに彼女を抱き上げ結界を解除すると同時に漆黒の翼を広げその場から飛びたった。結界が消えた事で襲い掛かってくる魔物に、魔力の固を叩きつけ押し潰す。そのまま街の方に進路を取り、森を後にした。
固まったままの妊婦を抱え、空を飛ぶ事数分。僕は自分の家の庭へと着陸した。
翼を仕舞妊婦を客間の椅子に下ろした所で、術の効果が切れ僕の姿は元の少年に戻った。
「ギリギリセーフか。でも余り疲れて無いな。さて、お姉さん何でこんな時間に森に居たの?守護者だったのなら、夜の森は危険だって知ってるはずだと思うんだけど?」
僕の変化に思考停止していた妊婦のお姉さんは、問いかけに漸く復活して口を開いた。
「昨日から何かに急かされてるみたいに、心が落ち着かなくて。気づいたら宿を引き払って森の中を歩いていたの」
お姉さんの言葉に僕は、思わず頭を抱えた。
「お姉さん。犯人、お腹の子だね。普通は4~5歳で目覚める力に目覚めて、本能的に僕の存在を感じて契約しようとしたんだ。本能的に振るった力で、母親であるお姉さんが動かされてしまったんだろうね。想像だけど」
「言われてみれば、そうかもしれないわね」
「母親であるお姉さんの身が危なくなって、慌てて僕を呼びつけたってところかな」
「でしょうね」
「生まれる前から問題児決定か~。これは、苦労しそうだな」
「なんか、我が子ながら申し訳ないとしか言いようがないわ」
「取り敢えず、生まれたら速攻で力全部預かることは決定でいいよね?持たせたままだと厄介なことになるのが確定だし」
「そうね。すでにやらかしてくれてるし。力の使い方以外を徹底的に叩き込むのが先ね」
「さて、もうすぐ夜明けだけどお姉さんはこの部屋で休んで。僕は、隣の部屋で寝るから」
「ありがとう。そうさせて貰うわ」
「詳しい話は起きてからってことで」
「そうね。そういえば、まだお互い名乗ってないわね。私は、リーアよ」
「リーアお姉さんだね。僕は、ルクス。ひとまずおやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
お互い名乗りあい、挨拶をかわして僕たちはしばしの休息をとった。