予兆
いつもの日常を終え、いつもの時間に眠りに就いた僕は、真夜中過ぎに何かに呼ばれている気がして目を覚ました。
「何だろう。今まで感じた事のない感じだ」
寝床から起き出した僕は、服を着替え呼ばれている感覚が強まる方向へ、真夜中の街の大通りを駆け抜けた。街を囲む塀を魔力で強化した身体能力で飛び越え森に向かった。
街と街を結ぶ街道が通る森は、昼間はそこまで危険ではない。しかし、日が暮れると状況は一変する。夜に力を増す魔物や魔獣が跋扈する世界に変わった森は、入ったら最後出られなくなると噂されている。もちろん、それなりの実力者の守護者を護衛につけていれば、危険は減る。しかしその報酬額は高額なため、貴族や裕福な商人位しか雇うことはできず、結果貧しい者は何人かでお金を出しあってやっと一人雇うか、昼間に森を抜けるしかなかった。
そんな危険な夜の森に、僕は恐怖を感じる事なく歩を進める。
(この感じ。ひょっとしてこれが契約者と引き合うってこと?)
魔族として産まれた僕は、人に混じって暮らしながら、いつか会う契約者を待ちわびていた。夜の森にも月一回の頻度で修行に訪れているので、いつもと少し雰囲気が違っても怖いとは思わなかった。ただ、まっすぐ気配のする方に進む。そして魔物と魔獣に取り囲まれている、一人の妊婦に出くわした。