表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

09  /暁の彩り


 “私を憎んで己を迷わすな。呪縛は解かれるまでついて回る。………――ルイーザ”


『はい』


 “………私も人であったのだろうな――”


『…!?………』

 

 黄金の瞳(ヒブラ)はいつも……――


 光の向こうで


 私を責め立てる……

 


 ユーデリウスが、微かに光に溶け込んで、薄れていくようだった。

 あの人が、そんな儚げなことを言うなんて。

 己れの死期を悟った上での言葉だったか、(ことわり)の深淵を知りすぎたゆえの言葉だったか、定かではない。

 このところ毎日、長時間をユーデリウスの元に詰めているルイーザは、精神的な疲れを癒すべく、柔らかなデイベッドに身を任せて嘆息する。

 休息の息をつく間もない。眠ってさえもユーデリウスの意思は語りかけ、絶え間なくルイーザは幻影を見続ける。もはや彼女はグランスとは違う意味で、ユーデリウスのパートナーだった。片時も離そうとせず、彼女の時間は彼の時間であり、プライベートなどありはしない。

 そしていつもの通り、ラントゥール星の館にユーデリウスと対話をしながら、夜が明けてしまった光の中で、彼はふと洩らしたのだった。

 危うく感情を抱きそうになって、ルイーザは沈黙する。

 彼の個人的な魂の叫びは聞くにあらず。

(誰かに同情することも――悲しい運命に触れて泣くことも、憤りを突き刺すことも、愛することや恋ですら、私たちには叶わぬこと――)

 彼の影にもなれぬ(むすめ)の存在を思い出した。

 深窓に育って宇宙の広さを知らないような、たおやかな花。

 熱を帯びた眼差しは、ユーデリウスにのみ向けられて、絶えることが無い。

 

(このままで良いのです――)

 果実を得られぬ愛情を密かに宿しつつ、現状を受け入れているかのようだった。

(あの方は、人を愛する、お暇などございませんもの)

(誰がユーデリウス様を恐れ、憎み、忌避してもわたくしは何処までもお慕い申し上げます)

 陽炎のように、ルイーザに微笑んだ。ただ彼を愛していることが、自分の存在証明であるような揺らめき。その表情を受けてルイーザは思うのだ。

 彼女のような立場に育ったならば、彼を愛しただろうかと。

 そして、女とは斯様にも自らの感情をよりどころにし、それだけを生きる糧にするのだろうかと。

(私にはあの方しかおりません)

 夢見るような口元とは裏腹に、瞳は微かな陰影(とげ)を含んでいた。

 

 ――呪縛――

 ユーデリウスが云った言葉が浮かぶ。

 幼い頃にはユーデリウスに自由を説いて叫んだと言うのに。あれは幻だったように思えてならない。

 わたくしも、魂を解放することはできないでしょう――

 暁の光はルイーザにも、差し込んでいたのだった。

 

 

 かわいそうな(むすめ)は、

 人を超えてしまった大公(かれ)を取り戻そうとした。

 運命への抗いを知らぬばかりに、

 抗い方を取り違えて、

 大公かれの血を流した。

 

 それから、

 初めて自分の意思で言葉を放ったのだ。

 

 “愛しておりました”

 

 しかし広げた翼は翼にあらず、

 大空(てん)は女を受け入れなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ