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07  /確信は、愛の別れ



 “降りる”

「! …お待ちください。降りられるのですか?」

 唐突なユーデリウスの言葉に、グランスでさえも驚いた。

 “理由を言う必要はないが、わたしはこの星に降りる必要がある”

 彼を見もせずにユーデリウスはその場を出ようと歩を進めたので、慌てて警備部隊を編成し船体を地上に降ろした。

「大公が立ち寄られるのはかつてない話ですね。グランス閣下」

「あの方のされる事にはついていくしかないが、我々には無謀すぎるかな……」

 ようやく探し当てたのだろうか……。

 グランスはルイーザと十年前に出会う前から、彼が何かを探していること、それらしい存在をユーデリウスの言動の端々から感じていた。どこの星にいるかも、どんな容貌でどんな声で話し、男なのか女なのか、人間なのかも分からなかったが、ユーデリウスがある星を攻略した際に、極めて珍しい行動をとった。

 大体においてユーデリウスの戦争の仕掛け方は、本人の性格同様冷淡なもので、ある程度片がつくとさっさと部下に戦後処理を任せて次の目的地へと去る。

 だから、自分が攻めた星に降り立つなど考えられないことだった。それが、周囲の反対をも押し切って、生身同然に焦土に足を降ろしたのである。其の時、グランスは彼の印象深い言葉を聴いている。

 “待ちかねた。――会わねばならん”

 ほどなくしてユーデリウスは旗艦に戻り、迎え出たグランスの元に少女が投げ出されるようにつれてこられた。

 

 “ルイーザと云うそうだ”

 彼女に関しての情報を一言告げると、ユーデリウスは未成年を保護する義務を押し付けて自室に消えた。後には幼い顔に似合わない憔悴感を載せた少女が佇んだ。

「ルイーザと言われるか」

 正直、子供の扱いは不慣れではあるが、なるべくは丁寧な声音で硬直した少女の心を砕こうと、細心の注意を払う。

「………はい」

 か細い声で少女は答えると、涙にできないほどの苦しい悲しさを、全身から放出した。

「ルイーザ。憎い敵方ではあるが、何かの思し召しであろう…そなたは今より私の家族となる。良いか?」

 頷くことすらできない様子に、グランスは片ひざをついて腰を落とす。

 視線を少女より低くして、彼女の小さな手を取った。

「このような形で出会ってしまったのは辛いこと。しかしこれからも、そなたや私は生きてゆかねばならない。だから私はこれ以上にそなたを悲しませることや、恐ろしいことはしないと約束する。どうか私の手を握っていただけぬか」

 精一杯の優しさを示したのが功を奏して、少女はようやくグランスの瞳を見つめた。

「おじ様のうちの子になるの――?」

 掠れながらも一生懸命に自我を保とうとしている健気さが、自分の居場所を確認する意思を起こした。思わず笑みがこぼれて、グランスは多少ほっとする。

「左様。ルイーザは私の娘そして妹として、ライ家の淑女として恥ずかしくない教育を施そう。――――ようこそライ家へ。ルイーザ」

 歓迎の意に、グランスが取ったルイーザの手に力がこもった。

 グランスはその幼い淑女に、最大の敬意を表した。

 ほぼ形骸化していた想い人よりも、過剰気味に愛情を注いだやもしれない。少女の神秘的な髪色と瞳の色のコントラストが、彼の眼を捕らえて離さなかった。半ば親であるかのように穏やかに慈しみ育てた。ユーデリウスからの預かり物であることを除けば。

 しかし彼は、出逢いが宿命であることを思い知らされる……。

 



 “喜べグランス。私はついに求めていたものを手に入れた”

「と、申しますと――」

 “私の未来はそう遠くない日に終わる。そのために私の意志を継ぐものが必要だが、そうだな……後継者ができたということであり、十年の歳月はねぎらうべきか。グランス、黄金の瞳(ヒブラ)を私の元へ上げよ”

「時が満ちたのでございますね……」

 “私とて、人の血は流れている。黄金の瞳(ヒブラ)が必要だ。許せグランス”

 果てしなく孤高の君主は、薄いグリーンの瞳で忠実な友人を見やった。

 グランスは、自分がその運命の渦中に定められていたのを改めて思う。だからこそ、

「いいえ大公。無意味な戦いであったと、返って思いたくはないのです。ですから彼女も理解するでしょう。……運命であると――――」


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