04 /「黄金の瞳」(ヒブラ)と呼ばれた日
“――よもやこんな形で再会するとは思ってもいまい?”
約十年を経ての対面である。
「お兄様のためにしたことですが、わたくしの意思ではありません」
秘めていた憎しみに火がついたのか、頬に熱さを感じた。
戸惑いと緊張の中、拒絶の意思を表明したつもりが、あの時から変わらない瞳に思わず視線を逸らしてしまう。
“かまわん。私の我儘だ”
さらりと言ってのけ、肩肘をつく。そしてルイーザを見据えた。
ペリドットの瞳は暖かい光ではなく、冷たい何かを映し出す。
“なるほど、黄金の瞳か……これからにふさわしいものかもしれん”
目を細め、ユーデリウスは恐らく彼の人生においても珍しいであろう、しかし感情の無いやや歪んだ微笑を浮かべた。
ルイーザはつややかな黒髪とは対照的に、金色の瞳を持っている。どこかアンバランスにも見える美しさは、気丈な性質であるよりもユーデリウスに似た、神秘的なものを備えていた。時に彼と同じ冷たさをも現しているかのように。
「わざわざわたくしのようなものをお呼びいただいて失礼ですが、御用がないのでしたら下がらせて頂きたいのです」
さすがに居こごちの悪さで、退出を願い出る彼女に
“グランスは良くしてくれるか?”
と、まったく聞いてない風に言う。
「それは私個人の生活に関わる質問だと思いますので、答えたくありません」
精一杯拒絶してみた。
“フフ……そのような言いようはグランスに悪い。お前を引き取って以来、グランスはただの一度もお前のことを口にしたことはなかった。私の前では、だ。お前の私に対する感情を良く理解していたと見えるな……私としても、特にそういう必要はなかったが”
ルイーザは唇を噛み締めた。
どうせこんな人なのだと。
“――それはやつの配慮だったのか? それとも私から隠すためか?”
思わせぶりな厭らしさが癇に障る。
この男は―――!
「……いったい、いったい何をおっしゃっているのです。お兄様はわたくしの大切な家族です。あなたがわたくしから奪った家族以上にも大切な方です。人の心を想ってくださるお兄様は、踏みにじって捨てるあなたよりも、ずっと立派な方だと、わたくしは思っています」
思わず語気を強めた。
“――個人の感情は私の興味とするところではないが、グランスはお前を大事にしているようだし、お前も快く感じているようだ”
ルイーザの控えめな攻めたてすら、チクリとも刺さらない風で、彼はゆっくり立ち上がった。数歩歩いて右手を空に、ふた振りほど手首を返すように動かすと、宇宙マップが彼の目前に現れた。マップには赤や黄色、青などの光が点滅し、ともすれば美しいインテリアそのものである。
そのまま右手でマップをたどり、彼はルイーザに背を向けたまま言った。
“――だが、私がいつでもお前を必要としていたのは知るまい”
耳を疑うとはこのことだと、そのとき知ったのである。
「これは…笑止な……あなたのような方でも人恋しいとおっしゃる?」
僅かに歪めた唇の端から――どう笑っても、人にはそう見えて仕方が無い――冷笑が漏れた。
“そうだな……生きているのは苦痛なのかもしれん。それでも死を賜れないのは、もっと苦痛――……”
「まるで……誰かの命令で戦争を始めたかのような言い方をするのね。あれだけ非道の限りをつくして? わたくしの星だけではないでしょう!」




