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03  /降臨


 その男との出会いは、ルイーザが(とお)にもならないときだったように思う。

 その頃から、ユーデリウスの侵攻はルイーザの住む星にも聞こえていた。

 それは、遠い未来のことではなかった。

 またたくまに星は焦土と化し、生命のなぎ払われた黒ずんだ大地へと変貌する。噂通りユーデリウスは交渉決裂すると、徹底的な焦土作戦をとる人物だったらしい。

 つまりは大虐殺なのだが、後世に伝えられる資料とは記述が異なるであろう点は省く。

 生き残った人々は、無残な光景に絶望しながら抵抗するすべもなく、降伏の文字すら意思表示するまもなく蹂躙された。

 地表をなめていた禍々しい炎が沈静化してきたころ、息も絶え絶えに再び噂が流れた。

(悪魔(ユーデリウス)が降りてくる)

 パニックにすらならない無気力な中、奇跡的に生存できたルイーザは幼心に決意する。悪魔を討つ――!

 

 “……家族の仇?”

 感情のない瞳で、悪魔は少女ルイーザを見下ろした。

 多くの人々が死んで、家族を失って、絶望に背押されて。

 非力でも一矢報いる勇気が少女にはあった。

 だが、あまりにも無力だった。

 “ならば何故、私を殺しそこなったのだ”

 勇気ある少女に、子供を相手にしているとは思えない冷淡な口調が、傷ついた心に冷たい針を刺し通す。

 “――しかし――お前か……そうか………いいだろう…生き延びたのだ。今ある過去を全て捨てろ。そして遠い未来を観るのだ。それがお前の成すべき事”

 遠い未来を――

 

 悪魔の名は、ユーデリウスと云った。

 彼に殴られて赤くなった頬がなければ、ユーデリウスの抽象的で理解を超える言葉に囚われていただろう。

 ルイーザの内面的な変化を知ってか知らずか、彼は戦災孤児のルイーザを警備兵に預けて立ち去った。

 ――あれが人なの……?

 ルイーザのまだ成熟していない心に、ユーデリウスは微かな陰影を落とす。

 彼女はそれを認識した。

『あの人は、ここに生きていない――』

 これからの生活が恐ろしく思ったことは、鮮明に記憶されることとなった。

 できれば二度と会うことがありませんように、という願いは空しく打ち砕かれる。

 ユーデリウスが、ルイーザの身柄を預けた部下の名前をグランスという。

 少し彼女が成長してから事実に驚くのだが、グランスはユーデリウスの忠臣であり、片腕以上の存在だった。あまり人間的でないユーデリウスと比べて、グランスは温厚且つ人間味にあふれる人物である。

 ユーデリウスと同様、妻子は持たないが好い人はいたようだった。

 そしてなにより、グランスにはユーデリウスには無い優しさがあった。

 行き場のない戦災孤児を引き取って、傷ついたルイーザを癒そうと努力してくれた。ユーデリウスと戦場を共にすることが多かったため、留守勝ちではあったが一人残る彼女に心を配ることは欠かさない。

 自然、ユーデリウスへの憎しみに心を閉ざしていたルイーザは、グランスに向かって開放していく。当然の流れといえば流れであった。

 ―――だから、まさかそんなことはあるまいと、考えもしなかった。


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