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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
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Report06:シルクとリン2/チャレンジャー

罍が斬撃を放った瞬間、シルバーホワイトの閃光が周囲のエグザを襲った。その攻撃によりエグザのデバイスが機能停止をしたため、展開されていた武装が消える。その数、5名。体育館の入口に向けて放たれた斬撃が体育館外にいたエグザまで届いていたのだ。機能停止した5名はというと。


「デバイスが止まった!!何で!?」

「見えないように狙撃しようとしたのに、バレたの?」

「え?」

「チートかよ、あいつ。」

「反則でしょ、今の。すぐ調べて、抗議してよ、ナビゲーターなんだから。」


予想外の出来事に文句を言うことしかできなかった。攻撃を受けてから10秒経過しても、デバイスが攻撃可能な状態には戻らない。そのトラブルが何故起きて、どうすれば回復するのかは彼らのナビゲーターでも解らなかった。


「あちゃー、ともちゃん、やっちゃったか。」

「だって、うざいじゃん。コソコソとしてるし。」

「まぁ、イライラするのはわかるけど。でも、ストライクフェイバリットを使う程じゃ・・・。」

「むーっ、もうやっちゃったから。別にいいでしょ!」

(あのシルクっていう人、強いとかじゃない。)


山河はシルク、つまり罍に対する評価をしていた。彼が目の当たりにした攻撃、今までの攻撃とは異なっていた。彼のデバイスのスイレンで使える凌駕攻撃(イクシードアタック)とは根本が違うと、感覚で理解した山河。だが、評価はそれだけだった。


「多分、スイレンのイクシードとは違う。ゴーグルを通して見ても、周りの電子は極端に減っていない。あと、あの光。わずかだけど、色がついているっぽいな。とにかく、武装したスイレンの砲撃とは違う。」

「ヴァンが何か呟いている音声を確認したけど、小さずぎて何を言っているのかわからないや。」

「なにそれ?」

「倉庫の中にいても、現実化(リアライズ)舞台(フィールド)が展開されているから音声は聞こえるんだ。はっきり聞くためには調整が必要だけど。」

「わっくん、もしかして、アイツの場所が解っているんだよね?ねぇ?」

「いや、知らないよ(知っていても言わないし、彼が可哀想だから)。ホントに。」

「そっか~、ならいいんだけど。戦う気がないなら、あたし、ゲームしてていい?」

「暇なら体育館から移動すればいいのに。」

「だって、外は寒いじゃん。」

「あ・・・、そうだね~。さむいよね~。」


通信している音声が相変わらず大きな罍と和久井。その会話を聞いていた山河は1つの作戦を思い付き、実行に移す決断をする。だが、それは今の彼にとって、明らかに最善ではない判断であるのは、彼自身も自覚している。そして、今、まさに、独り言を呟くという彼の癖が出ていた。それは最善でない作戦を成功させるために集中している証拠だった。


「8時17分、残りは約1時間30分。乗り切るためには逃げるのがベストかもしれない。でも、それならトレーニングに参加する意味が無い。だから、逃げる選択肢は今、取るべき選択肢ではない。取るべき選択肢は一撃でもいいから当てにいくこと!有効な攻撃を受けたら、10秒はトレーニングから除外されて、攻撃できないし、攻撃もされない。なら、一撃を当てるために飛び込む。シルクの斬撃は回避できて1回、それも上手に回避しないと追撃される。もし、追撃されて攻撃を受けても、無敵状態の10秒があるということ。だから、その10秒を使って距離を詰める。初撃は当たれば儲けものだと割り切る、次の攻撃からが勝負。あとはこの作戦を実行するタイミング。タイミングは小澤さんがやってくれそうだけど、それは現状だと無理そう。だから、自分で見極めるしかない。幸いにも相手は俺の動きを警戒していない。かえってそれが怖いが、でも、警戒していないと仮定するしかない。攻撃を受けても死ぬわけじゃないんだ。思い切りよくやるしかない。今の俺はチャレンジャーだ。攻撃の時にトライアルはモードBの銃形態にする。でもそれは接近しながら最初の斬撃を避けた後にする。一番の謎は色が付いた斬撃。解らないものは仕方が無い。だから、当たらなければいい話、当たった場合は運が無いと割り切る。他は想定しきれないから、あとはその場の出たとこ勝負!」


この独り言を聞いていた2人のナビゲーターは話を聞きながら動き出していた。1人はナビゲーターの和久井。彼のエグザである罍には要らぬ指示かもしれないが、万が一の事態があってはいけないので指示を出しはじめる。そして、もう1人は部屋を飛び出していた。


「ともちゃん、ついに彼が動く。」

「わっくん、今、手が放せないの。このボーナスステージをクリアすれば、新しいCGが回収できるから真剣なの。」

「え、セーブできるよね?」

「今ならクリアできそうなの。だからいいでしょ?」

「今はトレーニング中だからね、後でやってね。」

(このタイミング!仕掛ける!)

「ヴァンが走った!ともちゃん!」

「あとちょっと~。」

「・・・っ、シルク!!敵だっ!」

「んっ、もう!!」


動き出した山河の様子を見て、和久井が罍に呼びかける。だが、彼女はゲームの攻略に夢中だった。彼女に向かって和久井はあだ名のともちゃんではなく、コードネームのシルクと再度、呼びかけた。すると和久井からシルクと呼ばれた罍は不機嫌ながら、ゲームをセーブせずに終わらせた。そして、罍はゲームを邪魔されたストレスを斬撃にぶつける。


「うわ!」

「避けないでよ!もー、ムカつく!」

「でも、もっと!」

「うざいっ!」

「っ、近づかないと!」


集中している山河は斬撃を回避する度に言葉を発する。その様子に罍は苛立ち、斬撃が粗くなるが、感情に呼応するように威力は上がっていく。しばらくすると、彼女は深く構えた。


「リン、チャージ。ストライクフェイバリット、スタンバイ。」

「ん、斬撃が止んだ。チャンス。トライアル、モードB。」

「セルフカラー、シルバーホワイト。」

「モードB展開完了。って、あの光の色はマズい!」

「も~、うざいって!」


しびれを切らした罍が左手の刀を振りかざす。チャージが完全では無いが、威力はそれでも大きい。山河はそれの直撃を回避はしたが、余波で借り物のデバイスの調子がおかしくなることに気がついた。


「なんで、まだ来るの?しつこい!」

「余波の影響で撃てるのはあと2~3発、モードチェンジはしない方が故障のリスクは減る。斬撃は左手だけだけど、右手は色が濃くなっているし、光も強くなっている気がする。」

「わっくん、やるからね。アイツのデバイス壊れても知らないからね!」

「はぁ・・・、こうなると手が付けられないからなー。」

「なに!?文句あるの?邪魔しないで。」

「もう、ともちゃんの好きにしていいよ・・・」

「ストライクフェイバリット!!!」


5名のエグザを倒した時よりも光は輝き、色は強く出ている罍の斬撃が放たれた。山河は体育館の入口にいる人に気をとられてしまい、ダメージを受けてしまう。だが、彼が受けた攻撃は致命傷とは判断されず、有効な攻撃ではないとみなされた。結果としては10秒間のペナルティは無かったが、彼の借りているデバイスは機能を一時停止、つまり、フリーズしていた。デバイスの機能停止を知った罍や和久井は彼が諦めたと思った。だが、山河は動きを止めず、走り出していた。目線は体育館の入口。


「ヴァンさん!お待たせしましたー!」


山河が罍に一矢報いるための力を手にした小澤が精一杯叫んでいた。


「小澤さん!終わったんですか?」

「はい、だから届けに来ましたー!」

「あの子、誰?あたしのことシカト?」

「はやく!スイレンを!」


小澤は自分に向かって走ってくる山河の叫ぶ声を聞き、すぐに反応した。体育館の床にデバイスのスイレンを滑らせる。投げるとしても上手くキャッチできなかった時に落下の衝撃で壊れる可能性があるからである。山河の右手の銃はそのままの状態を維持。彼の空いている左手でスイレンを拾い上げ、体育館の中心にいる罍の方に視線を移した。その時、罍の両手に握られた刀はシルバーホワイトの光を大きく光らせていた。


「っし。スイレンがあれば。」

吸収(アブソープション)準備(スタンバイ)してますー!」

「スイレン、吸収(アブソープション)起動(スタート)!!」

「何なの?うざいっ!しつこい!」


山河がスイレンで左手に展開した銃をアブソープしながら、罍のもとに向かい走る。ゲームを邪魔された時よりも、さらに強く苛立っている彼女は、その様子を見て、彼が避けきれないほどの大きな斬撃を両方の刀で放つ。それを見切った山河はアブソープを止め、凌駕攻撃(イクシードアタック)で対抗する。


「もうっ!!」

「いけぇー!」


2つの光がぶつかり、激しい音が体育館内に響く。互いに攻撃の余波を受け、武装が一時的に消失。再構築までほんのわずかの時間、互いに武装が無く、無防備になり、音は無く、静かな一瞬。


『えっ?』


8時20分、ポイントになる【有効な攻撃】をしたのは山河だった。罍と和久井は茫然として、言葉が出なかった。互いの攻撃がぶつかる直前になって、一時的に機能停止していたトライアルが使えるようになっていたのだ。スイレンの武装が消失した直後に、トライアルの武装が使えると理解した山河は、トライアルのモードBの銃を彼女に向けた。そして、タイミングをはかって、引き金を引いたのだ。静まり返った体育館では山河が決定打となった右手の銃を構えたまま、冷静に罍を見据えていた。体育館の入口ではその様子を見ている小澤が嬉しさのあまり、泣きそうになりながら言葉を発した。


「や、やった。やりました。すごいです。山河さん。すごいです!」

「小澤さん、騒ぎすぎです。」

「すみません、でも、でもでも。」

「ふぅーー。これがトレーニングでよかった。」

「ムカつくんだけど!」

『あっ。』


山河と小澤が喜んでいる間に10秒のトレーニング除外時間が過ぎていた。罍はリンで再び両手に刀を展開して、すぐに山河を切りつけた。油断していた2人は声を揃えて、驚いていた。そして、山河は10秒間、トレーニングから除外された。


「どっか行って!あたしの邪魔をしないで!」

「あ、はい。」

「ともちゃん、落ち着いて。ヴァンたちにはどこか別の場所に行ってほしい。今のともちゃん、機嫌悪いから。」

「別に怒っていないし!!」

「あー、そうですね。怒っていないですね。」

「わっくん、バカにしてるでしょ!」

「してないから。あと、落ち着いてね。それから、ヴァンたちはこのトレーニングが終わったら話をしよう。」

「えっと、わかりました。」


山河は体育館の入口にいる小澤のもとに向かった。合流した2人は罍に一礼をしてから移動をした。罍はその様子を見ていたが、礼を返さずに見つめていた。そして、しばらく時間がたってから、彼女のナビゲーター和久井に向けて話しかける。


「わっくん、TKOからわざわざ行くのが面倒って言ってゴメン。」

「うん。大丈夫。」

「久しぶりに負けたって感じがする。TKOブロックの中でもあんなタイプ滅多にいないから。」

「うん。」

「ちょっと休んでいい・・・?」

「うん。いいよ。」


体育館では罍が1人、座り込んでいる。相当大きなショックを受けていたが、和久井と話すうちにいつものような元気を取り戻していく。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


体育館から移動し、食堂に向かうことにした山河と小澤。食堂は安全地帯として急きょ、朝の8時に設営されたものである。サバイバルでデバイスのトラブルが起きたり、体調不良などで参加が不可能と判断した時の休憩所として使うことが出来る。周りを見ると、エグザとナビゲーターが打ち合わせをしていたり、エグザ同士がゴーグルを外して休んでいたり、さまざまだった。到着した2人は適当な空席を見つけて座った。


「ヴァンさん、スイレンの使い心地はどうですか?」

「問題ないです。前と変わりないですね。」

「よかったです、うふふっ。」

「何か変ですか?俺の返事。」

「前と変わりなくてよかったです。実はアブソープの集束量を増やしたんです。スイレンの現実化(リアライズ)速度も速くしました。」

「小澤さん、ありがとうございます。スイレンの改良、すごく嬉しいです!」

「う、嬉しいって。あ、あぅ~。恥ずかしいです~。」

「俺はすぐにでも戻りたいんですけど、小澤さんからはスイレンのことで何かありますか?」

「あっ、はい。切り札3つの内、残りの2つの処理速度を速くしました。その分、威力を控えめにしましたけど、今の所は問題ないと思います。その都合で、モード1つ増やしました。」

「はい?」

「切り札の時にしか発動できなかったものが、通常でも出せるということです。前々から増やそうと思ってはいたんですよ。」

「ありがとうございます。(こんな短時間で修理と追加機能をまとめてやるなんて・・・)トレーニングで試してみます。」


話が色々あったのか、2人は9時00分まで話をしていた。2日目、最初のトレーニング終了まであと1時間。借りていたデバイス【トライアル】を小澤に渡した山河は食堂を出ていった。向かった先は小澤に教えてもらった場所の1つ。彼は呟きながらジョギングほどの速さで移動している。


「小澤さんが増やしてくれた3つ目のモード、試すいい機会だ。」


山河は残り1時間のトレーニングでどこまでやれるか、表情には出さないが、楽しみにしている。彼のデバイス【スイレン】が改善された状態で手元にあるので、朝7時の状況とは違うからだ。新しいモードを使って、目立たない程度に暴れてみようと思いつつ、教えてもらったポイントでターゲットを発見した。


「俺と1対1で勝負してください!」

「えっ、何?」


倒されたエグザが逃げ出す中、山河に声をかけられたエグザは驚いていた。

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