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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
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Report04:合同トレーニング2/アークバスターズ

20時40分、残り時間50分。ナビゲーターの小澤から、他のペアの動向を聞きつつ、二景に到着した山河。落ち着くように意識しているが、内心は焦っている。そんな状況で彼は狙うべき的を見つけたのだが、彼は目の前の光景に疑問を抱いていた。


「小澤さん、的が沢山ありますけど?」

「全部破壊しちゃってください!」

「全部って、ざっと見て30以上はありますけど?」

「全部破壊しちゃってください!!」

「はい・・・。」


三景の時よりもテンションが高くなっている小澤。普段の彼女とは違い、積極的というよりも興奮気味に返事をしていることに彼は圧倒されていた。だが、的を破壊しなければ先には進めない。そう思った彼は的を1つ1つ破壊していく。


「的が動く!?」

「どうやら、的を破壊したあとに生まれる爆風のようなものの反動を受けて的が動くみたいです。」

「了解。スイレン、ビームモード!!バレットのままだと当てにくいのなら。」


彼は銃のモードを変え、引き金を引く。そして、ほんの僅かな時間で32個の的をすべて破壊した。だが、ビームモードなのに数発、攻撃を当てることができなかった。その異変にナビゲーターはもちろん、本人もこの時点では気がつくことができなかった。些細なことに気がつかない位に彼らは時間を気にしすぎていた。


「五景の到着予定時刻は出ますか?」

「20時52分です。五景から七景までは8分程移動に時間がかかります。七景から八景の合流地点にいくのに、10分はかかると考えてください。」

「それ、間に合いますか、俺?」

「・・・」


五景への移動途中、山河は思わず立ち止まった。タクシーが捕まらない中、それまではランニングするような速度で移動していたが、彼は時間の無さに驚き、止まってしまった。間に合うかどうかの質問を小澤に投げかけたが、彼女は何も言えなかった。何も言えない状況、つまり間に合わないという暗黙の回答だった。彼女の静かな回答を受け取った山河は


「すぅーーー、はぁーーー。すぅーーー、はぁーーー。・・・フフッ、ハハッ。」

「えっ?」

「ここまで切羽詰まっていると、変に笑ってしまいますね。とにかく、今は走るしかないし、クリアするしかないです。だから、ナビお願いします。」

「あっ、はいっ。」


深呼吸をしてから考えた山河が出した結論はやるしかないということだった。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


20時52分、兼沢(かねさわ)大学体育館。すでに到着しているメンバーの中に矢田大輔と寿真紀がいた。彼らは17時30分にスタートをしており、20時00分に体育館に到着。最初のトレーニングをクリアしていた。しばらくして、体育館で合流した彼らは館内に複数設置してある大型モニターの1つを見ていて、今は彼らの知り合いである山河と小澤のペアの動向を見つめていた。


(つや)ちゃん達、大丈夫だよね?間に合うよね?」

「・・・」

「大輔、聞いてる?」

「DYだ。本名で呼ぶな。」

「聞いてるのなら答えてよ!今、五景に到着して残りは2か所。もしかして、間に合わないんじゃないの?」

「確実に当てる一撃が無い、多くの的を一撃で消すことが出来ない。」

「何?声が小さくて聞こえないけど・・・」

「俺なら間に合う。あとはアイツ次第だ。」

「それは【ダービー】が生み出す武装があるからでしょ、あんな大きなもの振り下ろされたら、的はすぐ破壊できちゃうよ!」

「・・・当然だ。」


寿が言っている【ダービー】とは矢田が持つデバイスの名前である。そのデバイスが作り出す武装は巨大化した自らの腕で、矢田が腕を動かすと巨大な腕も同様の動きをする。腕の大きさや間合いは調整可能。先ほどのトレーニングでは三景、七景の的を短時間でクリアするほどの威力もある。


「あつ、五景はクリアしたみたい。次は七景だけど、的のある場所に着く時間が21時を過ぎちゃう。」

「・・・」

(つや)ちゃん、泣きそうになっていないかな~。どう思う?・・・どう思う、大輔?」

「DYだ、真紀。」

「どう思うって聞いているんだけど、何か言ってよ、もう。」

「・・・知らん。」


矢田はモニターを見ながら思い出していた。彼と寿が山河たちと出会った日、山河の最初の任務だった時のことを。矢田が現実化(リアライズ)舞台(フィールド)に突入した時、山河は危険な行動をとっていた。あの時の矢田はルーキーの初陣で危険だと思い、すぐに情報体へ攻撃をした。それは間違いではない。矢田が巨大化した腕【メガロアーム】を使わなければ、山河はさらにダメージを受けていただろう。


(もし、あの時、俺がいなかったらアイツはどう対処したのか?)


今の彼らの動きを見て、矢田は思う。奥の手があったこと、連携の熟練度、個人としての力など、これから成長していけるのかを踏まえて彼らに対する評価を改めないといけない。そして、間近で山河の動きを見てみたいと思いはじめた。


「真紀、今、何時だ?」

「えっと、21時6分だよ。」


矢田から寿に話しかけたのは、山河が七景に到着したタイミングと同じだった。的の近くには大勢の人が集まっていた。山河が的に向かって接近している様子を見ると、三景をクリアした時と同じことをしようとしていたのが予想できた。


「人の数が多すぎるよ~、何でこんなに人がいるの?」

「あれを見ろ、レベル101だ。」

「私たちがクリアしたのはレベル15と22だったよね、彼らはレベル82を大威力の攻撃をしたことでクリアしたけど、レベル101は・・・。」


レベル101のクリアが非常に難しいと寿が理解したその直後、的の周辺は光に包まれた。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


20時59分、五景から七景に移動している最中の山河。小澤のナビによる誘導を受けながら、移動していて、彼はゴーグルに表示されている時間を確認していた。そして、三景と同様に切り札である凌駕攻撃(イクシードアタック)を使う準備をはじめようとした。


「小澤さん、七景の的に近づいたら、もう1度、イクシード使うんで用意お願いします。」

「はい、わかりましたっ!」

「的のレベルってわかりますか?」

「ちょっと待って下さい。・・・、出ました、レベル100です。」

「了解、吸収(アブソープション)は19秒でお願いします。」

「はい、わかりました。ええと、19秒ですね・・・。19秒ですか?」

「そうです、レベル100ですから。吸収(アブソープション)の限界20秒を越えたらまずいですよね。だから、限界値ギリギリの19秒です。」

「ごめんなさい、たった今、的がレベル101になりました。そっ、それから、悪いお話が・・・。」

「何でしょうか?」

「スイレンの情報処理機能にエ、エラーがあります。凌駕攻撃(イクシードアタック)ができません。」

「ッ!!詳しく教えてください!」


突然のアクシデントに小澤だけではなく、山河も動揺している。表情には出さないが内心は焦っている。今のところ、【確実に発動できる切り札】が使えなくなったからだ。だから、彼は考える。自分自身にできること、今の自分が持っている武装、デバイスの調子など全てを踏まえた上での最速の方法を考えている。すると、小澤が


吸収(アブソープション)が完了した電子情報を維持できずに、撃つタイミングで暴発する可能性があり危険ですが、吸収(アブソープション)をすること自体は可能です。それから今、気がつきましたが、ビームモードでの狙撃で数発ミスがありました。これの原因も吸収(アブソープション)のエラーが関係していると思います。」

「小澤さん、何か案はあります?」

「わ、私ですか?」

「何でもいいです、七景をクリアするための案が欲しいんです。デバイスが不調でもクリアしないといけないんです。」

「う~っ、思いつきませんよ~。チャージ出来ないのでは、連射するしかないですし。」


七景の的がある場所までおよそ200mの地点で、山河は立ち止まった。そして、目を閉じ、深呼吸しながら考える。失敗する可能性がある凌駕攻撃(イクシードアタック)を使うのか。人の数が多いため、攻撃はどこからするのか。制限時間は間に合うのか。わずかな沈黙の後、彼は結論を出した。


「小澤さん、準備お願いします!!俺に案がありますから大丈夫です!!」

「わかりました。スイレンのシステムをオープン、吸収(アブソープション)準備(スタンバイ)!・・・どうぞ!」

「スイレン、吸収(アブソープション)起動(スタート)


山河は走りながら、吸収(アブソープション)を始めた。電子情報が右手にある銃に集まりだしたのを肌に感じながら、彼は次の行動をするために考えていた。そして、当初通りに19秒の吸収(アブソープション)が終わった瞬間、人の波を避けてきた山河は的から6mの位置を駆け抜けていた。


「的から攻撃きます!」

「了解、このまま駆け抜けます!!」

「ええっ!?えーーーっ!」


21時6分、走るのをやめなかった彼と的との距離はゼロになる。その瞬間、右手にある吸収(アブソープション)済の銃を的に投げつけた。投げた後、山河は走っている勢いで的から遠ざかっていく。投げられた銃は的にあたり、大爆発をおこす。そして、爆発の瞬間、的の周辺は光に包まれた。


「あっ、ゲージがかなり減った。これなら僕でも倒せる。」

「私だってこのタイミング狙っていたんだから!」

(あの状態の凌駕攻撃(イクシードアタック)だとクリアは難しい。だから・・・)

「スイレン、現実化(リアライズ)再起動(リスタート)。バレットモード!」

「チャンスメイクありがとう、俺の斬撃なら仕留められる。」


周囲が突然の光に目をくらませている中、光の影響を受けていなかった数人はゲージが残りわずかということに気がつく。山河は的を一撃で破壊することができなかったのだ。そのおこぼれを狙い参加者が一斉に攻撃を始めた。しかし、ここまでの展開を想定済みだった山河の動きが1つ早く、彼の銃弾が的を破壊した。的はレベル102になり、周囲にはクリアを諦める相談をするペアや相談もせずに茫然としている参加者がいた。


「危なかった!小澤さん、スイレンの調子はどうですか?」

「無茶しすぎです。大修復が必要ですよ。」

「すみません・・・。」

「もう少し大切にしていただかないと、いつかデバイスだけでなくゴーグルも壊れますよ。」

「はい。」

「わかっていただけたのならいいですけど。今は体育館を目指してください。21時10分なので、早ければ20分には体育館に到着できます。」

「了解です。」


山河・小澤ペアは指令をクリアして、八景エリアにある体育館までいく。そして、トラブルなく山河は21時23分に体育館へ到着。ナビゲーターである小澤の姿を見つけて、彼は声をかけた。


「小澤さん!!」

「お疲れ様です、間に合ってよかったです!」

「はい、ありがとうございます。ただ、右手を痛めてしまいました。」

「えっ!?だっ、大丈夫ですか?」

「医務室ってあります?後で行きますから。」

「はい・・・」

「大丈夫ですから、湿布をもらえれば治りますから。」


小澤は彼の怪我に気がつかなかった申し訳なさと自らの注意力の無さを自覚し、落ち込んでしまう。その様子に気がついた山河は必至に彼女を慰めた。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


21時30分、体育館内にアラームが鳴り響き、最初のトレーニングが終了した。辿り着いたのは108のペア。108組216名が兼沢大学体育館に集まっている。そして、1人の男が体育館内やってきて、彼の声が館内に響く。


「参加者の皆さん、お疲れ様でした。私は梅田竜輝(うめだりゅうき)。【アークバスターズ】の日本支部、KNG(ケイエヌジー)ブロックの副ブロック長をしています。正直、集まったペアの数が私の予想よりも少なめでした。少しショックを受けていますが、今から日曜日の13時00分までの間、このメンバーでトレーニングを乗り越えてください。」

『はい!』


アークバスターズとは現実世界と電子世界の間に起きたトラブルを解決するための組織である。その名前の由来は【All・Real・Cyber・Busters】の言葉を組み合わせたものになりAllのA、RealのR、CyberのCを組み合わせてARC(アーク)と呼んでいる。世界の主要国には支部があり、その支部が各地をブロックで分けて管轄している。


「さて、皆さんには明日の予定をお伝えしなければなりません。各自のデバイスにメールを送ります。22時30分に受信できるようにしますので、確認をしてください。それと今から1時間は自由時間です。それでは、お疲れ様でした。」


自由時間になり、山河は医務室へ、小澤は彼のデバイスであるスイレンの修復をはじめた。他のペアは食事をしたり、仮眠をしたり、デバイスの調整をしたり、交流のために話をしたり、それぞれの過ごし方をしはじめた。ナビゲーター用の部屋でデバイス修復作業中の小澤の所に、彼女の先輩である寿がやってきた。


(つや)ちゃん、クリアおめでとう。モニターでずっと見て応援していたよ~。」

「先輩、ありがとうございます。失礼なお願いも聞いていただいて。あの情報が無ければクリアできなかったです。」

「ううん、情報があったとしてもクリアできないペアはいるから、クリアできたのはペアの実力だよ。案内役のナビゲーターと実行役のエグザ、2人の連携が取れていないと今回はクリアできないよ、絶対に。」

「私にもっと分析力や情報収集力があれば、山河さんが無茶をしなかったですし、怪我だったすることは無かったと思います。それにデバイスのスイレンだって、故障しなかったはずです。」

「もー、落ち込まない!山河君の怪我は偶然の出来事で、スイレンの故障は、デバイスの機能を使いこなしているからこそ起きるようなものだって。」

「はい、その通りですけど。それでも、私が力不足だからこうなってしまったんです。」


修復作業をしながら、寿と話をしている小澤の声のトーンは低かった。話の最中に時折、彼女は鼻をすすっていたり、眼鏡を外して眼をこすっていた。


「修理は終わりそう?手伝おうか?」

「だいじょうぶです。終わりますし、私がやらないといけないですから。私だけの力で直したスイレンを早く、【ヴァン】に渡してあげたいんです。」

「【ヴァン】って・・・、あーそっか、山河君のコードネームね。」

「実力の無い私みたいなオペレーターが修理で先輩に頼っているとヴァンが知ったら、きっと彼が嫌な思いをします。」

「わかった。私はもう行くから、頑張ってね!もうすぐ22時15分だからね。あと15分したら、次のトレーニングについての情報がデバイスに届くから、それはちゃんと確認すること。」

「はい。先輩、ありがとうございます。」

「うん、またね~。」


寿はお節介なことをして良かったのか、悪かったのか、わからなかった。ただ、ひたむきに修復作業をしている後輩の可愛い眼鏡女子の様子を見て、部屋を出る時には微笑んでいた。後輩の成長をうれしく思いながら、彼女のエグザであるDY、矢田大輔のもとへ戻っていった。

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