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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
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Report03:合同トレーニング1

金曜日の19時30分、山河はゴーグルを装着している状態で兼沢(かねさわ)駅にいた。兼沢地区は7つのエリアに分かれていて、それぞれ、一景・二景・三景・五景・六景・七景・八景とされているが、駅は一景にあるので、彼は一景にいることになる。


「小澤さん、駅に到着しました。これから指定された順路で各エリアを回って、指令をクリアしてから合流場所に向かいます。」

「はい、お疲れ様です。それにしても、こんな時間帯からトレーニングなんて、上にいる方々は何を考えているのでしょうか?」

「それは俺に言われても分かりませんよ。」

「そういえば周りにも同じKNG(ケイエヌジー)メンバーはいるみたいですね。」

「確かに男も女もそれっぽいのはいますね、ゴーグルつけていますし。」

「ただ、その中にはKNG以外のブロックから参加しているメンバーがいるみたいです。」

「そうでしたね、他のブロックのメンバーのことは気にしていませんけど。」

「最初のトレーニング、無事に終わればいいんですけど、大丈夫ですか?」

「わかりません。ですが、俺にとってはいい機会です!」

「ふふっ、何だか楽しそうですね!まずはこの関門を突破しましょう!」

「ああ!」


1週間程前にデバイスが受信した案内には、KNGブロックのメンバーだけで行うトレーニングという話だった。しかし、前々日になり、他のブロックからも参加するメンバーがいると通知があった。そういうことがあり、彼の周りにはゴーグルをつけた人が20名ほどいた。


(何もかも考えることはやめて、今は目の前のトレーニングをしっかり取り組もう!)


小澤が言った通り、彼はこのトレーニングを楽しんでいる。自分自身の力がどこまで通用するのか、ワクワクしているからだ。彼は勉強や練習が嫌いではなく、むしろ好きな方である。しかし、今回に至っては楽しもうと努力しすぎている。山河は先日の初陣を忘れようとして必死に別のことを考えていた。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


山河・小澤ペアが一景にいる頃、七景では別のペアが連絡をとりあっていた。すでに一景・二景・六景・七景エリアの指令をクリア済で、次は指示通りに五景に向かうための確認をしている。


「いやぁ~、簡単だね♪中には手間取っている子もいるけど、あたしには簡単すぎるかな~。」

「油断するなよー。」

「わ~かってますよ~っと、さて、次に行くけど、どーしたらいいかな、わっくん?」

「次は五景。それをクリアすれば僕等は三景に行って、合流地点の八景にある学校の体育館へいけば指令は終了。」

「合流って、楽しみだよね!ん~、カッコいい人いるかな~?」

「緊張しろとまでは言わないけど、ともちゃん、ちゃんとやってね。」

「わっくん、誰に向かって言ってるのかな~?」


任務のためのペアというよりも友達同士の会話にしか聞こえないペア。五景にいる(もたい)ともみはナビゲーターの和久井新太郎と状況の確認を終えた。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


一景にいる山河は課せられた指令をクリアするための場所にいた。最初のトレーニングの内容は【17時30分以降に兼沢駅をスタートし、7つのエリアのそれぞれで指令をクリアして、八景エリアにある兼沢大学体育館に到着すること。21時30分までに到着しない場合、合同トレーニングの参加は認めない。】ということだった。


「俺は一景、六景、三景、二景、五景、七景、八景の順でクリアしていかないといけないんですよね。順番を守るというルールを破ったらダメだから、それが面倒です。」

「各エリアに設置された的に武装で攻撃を当てるというのが、課題の詳細ですけど、どこにあるのかということから、探さないといけないですし。私の探索速度を上げて、それを早く伝えないと、現場で対応する時間が無くなりますから、私、緊張しています。」

「そうですね、小澤さんの探索が重要なのでよろしくお願いします。」

「はいっ!小澤(つや)、がんばります!」


山河は小澤のナビを受けながら、行動し、一景にある的を見つけた。彼の武装であるスイレンは予めビームモードでハンドガンサイズに現実化(リアライズ)させていた。展開しつつ、エネルギーをチャージしていたので、威力は通常よりも大きい。その結果、銃の引き金をひいた直後、的を正確に破壊した。


「あつ、的を破壊しちゃいました。小澤さん、これ大丈夫ですか?」

「え?えーーっ!?破壊しちゃいました?ちょっと待って下さい。」

「とりあえず、六景に向かいます。破壊のペナルティがあるのなら、その話は移動しながら聞きますので、次の的の探索と同時に調べておいてほしいです。」

「そうですね、わかりました。今、19時42分です。移動時間や残りのエリアを考えると時間にあまり余裕がないです。」

「了解!」


一景から六景までの移動、夜の街を山河はタクシーを捕まえて移動していた。合同トレーニングは2泊3日、その間の着替えなどを入れた荷物を持ちながら指令をクリアするのは体力が必要である。体力温存という点、時間が無い中で正確な移動ができるという点でタクシー使用はメリットが大きかった。タクシー移動の車内で彼は的の探索結果を見ていた。出来るだけ、デバイスを見ながら探すのは避けたいからだ。


「お客さん、どのあたりで降りますか?」

「あのコンビニのあたりでいいです。」


料金を現金で支払い、山河は付近を捜索する。小澤の探索により、おおまかな場所はわかるが、どこにあるかは自分自身の目で見なければわからない。時間は19時58分。焦ってもいいことはないが、のんびりしている時間も無い。そんな状況ではあるが、彼は落ち着いていて、的を素早く見つけた。


「よし、撃ち抜きます!!」


六景エリアにある的を撃ち、2つ目の指令をクリアしたが、休むことなく次のエリアへ進む。次は三景エリアに向かうのだが、その前に小澤から通信が入る。


「どうしたんですか?強制的に応答させるっていうのは、嫌な話ですか?」

「はい、重要な情報がわかりました。今からデータを送りますけど、直接、伝えるべきだと思いますので。」

「まさか、トレーニングに参加できる人数に限りがあって、その枠が埋まったとかですか?」

「あっ、いえっ、それはないです。」

「じゃあ、何についてですか?って、今、タクシー捕まえたから乗りますね。」

「はい、急いで移動して下さい。それで、話の内容はこの的あてについてです。エリアごとによって的が違うみたいなんです。」

「ん?どういうことですか?」

「一景と二景は威力計測、五景と六景は発見してから攻撃があたるまでの時間計測、三景と七景は協力して破壊する協調性を調べるためのテストなんです。」

「協調性?よくわかりませんけど、情報ありがとうございます。」

「落ち着いている場合じゃないです。時間がかかるのは三景と七景です。他のペアはそのエリアで足止めを食らっています。」

「足止めってそんなでもないですよね、20分程度とかですか?」

「短いペアは5分程度ですが・・・、長いペアはええっとですね、2時間越えています。」

「・・・、それ、攻略法ってあります?」


三景の的がある地点にタクシーが着くまで、山河と小澤は話し合っていた。だが、話し合っていても、現場にある的を見ないと何も対処法は出ないという結論になった。


「小澤さん、三景の的のある地点に着きました。人がものすごく多いですけど、これ、的に近づけないです。あと、的の上に数字がありますけど、何ですかあれ?」

「レベル76?ですか・・・、あっ今、破壊されましたけど、的はどうなっていますか?」

「破壊されていますよね、でも、周りの人たちは構えたままです。何だか、他の人の動きを見ているようです。」

「寿先輩から聞いた話ですけど、その的はすぐに復活します。レベル表記の下にゲージが見えますか?それがその的の耐久度、つまり、ヒットポイントを表しています。そのゲージをゼロにすればいいんです。ただ、かなりのダメージを与えないとゼロにならないですし、レベルが高いほど、ヒットポイントは高いです。しかも、倒すたびにレベルはあがります。」

「今、倒されて復活したら77になっていました。レベルが高いと1人で倒すには厳しい、だから協力して倒すということですか?」

「そうなんです。」

「そういうことなら、周りにいる全員がトドメを狙っているのは何故ですか?」

「え!?え~っと・・・」

「教えてもらえなかったんですね・・・」

「ごめんなさい。」

(さて、あのゲージを減らすためには攻撃回数なのか、ダメージ量なのか、どちらにせよ攻撃をしないとわからないか。今の時刻は20時15分。七景のことを考えると時間が無い。)


長く話をしすぎたのか、時間がかなり経過していた。ビームモードの銃で撃ち抜くことを考えていた彼はふと思ったことを呟いていた。


「ん?何で接近してから攻撃をしないんだ?まぁ、やってみるか!」


彼が自問自答して冷静に判断した結果、接近して威力の高いバレットモードで連続攻撃をするという考えが出た。呼吸を1つしておよそ50m先にある的に向かって連射しながら駆け出した。


「あいつ、バカだなぁ。」

「接近しても攻撃されるだけだから危険なのに。」

「知らないまま来たんじゃないのっていう動きだよ、あれは。」

「他の奴らも同じこと考えているみたいだけど、今度は僕が先にもらうからね。いい加減待ちくたびれた。」


山河が連射しながら接近している間、トドメを狙っている人たちの会話が聞こえた。攻撃はヒットして、ゲージは減っていく。クリーンヒットの時にダメージの減り具合が大きいことがわかり、彼は笑っていた。


(狙いたければ狙えばいい、この状況は待つよりも動くべきだ。待って時間を無駄にするなら、攻撃してクリアできるチャンスを増やしたほうがいい。)


そう思いながら山河は撃ち続けた。ナビゲーターからの通信も含め、周りの音が聞こえていないほど、集中しているので、誰が何を言っていても気にならなかった。彼が気にしていたのは的のヒットポイントゲージ。彼が的から5mの距離まで接近する間に的は2回復活した。それは彼が減らしたゲージの具合を見て、トドメだけを狙い、狙い通りに仕留めたからだ。彼らは次のポイントへ移動する時にヘラヘラしながら通信をしていた。


「ラッキー!あと1か所クリアすれば八景エリアに行ける。」

「かわいそうに、あれじゃ、スキを突かれてトドメ取られちゃうよ。ま、どうでもいいけど。」


通信を傍受していた小澤は可愛い容姿に似合わず怒っていた。普段は誰かに対して強く言うことができず、滅多に怒らない彼女だが、山河との通信回線がオンになっている状態で思わず声に出していた。


「ヒドイです。攻撃し続けていることがバカみたいな言い方をしているなんて、ムカつきます。それに、何もせずに待機してチャンスが来たら、横取りをするなんて、嫌な人たちです。」

「小澤さん、それも他の参加者の作戦だから!っと、攻撃!?」

「攻撃?えっ?先輩の話だと攻撃をするということは聞いていません。何があったんですか?」

「周りに待機している人たちが、的から半径およそ5m以内に近づいていないから、試しに5m以内に踏み込んだだけです。そうしたら、砲撃が。」


的からの砲撃を躱し、10mほど距離をとり、山河は深呼吸して、混乱している自分自身を落ち着かせた。今、何が起きたのかはわかった。そして、他の参加者たちが5m以上の距離を置いている理由もわかった。


「小澤さん、分析できました?情報が欲しいです。」

「わわっ、ちょっと待って欲しいです。」

(ん~、俺ができることは、最大出力のエネルギーチャージした上での一撃・・・、それがダメなら・・・)

(近距離で山河さんが砲撃を避け続けながら、攻撃を当てるのは厳しいと思います。チャージチョットでも。残る方法は・・・)


小澤が的の攻撃を分析している間、山河が対策を考えている間にも的は撃ち抜かれ、そして強力になって復活する。いつのまにか的のレベルは81になって、攻略にかかる時間が増えていた。現在、20時20分。合流地点集合時刻まで残り、1時間10分。しばらく考えた山河はチャージショットではなく、一か八かの手段を使おうとしていた。そして、その考えは小澤も同時に思いついた。


凌駕攻撃(イクシードアタック)!!』


2人同時に口にした言葉は山河の持つ切り札の1つ。チャージショットは自らの持つ電子情報のエネルギーだけで放つ高出力弾だが、凌駕攻撃(イクシードアタック)は自らのエネルギーだけでなく、現実化(リアライズ)舞台(フィールド)の内側に散らばっている電子情報を掻き集めて行う攻撃。使用後5分は武装が使えなくなるが、その代償を払ってでも三景での指令クリアは優先すべきだと2人は考えた。


「小澤さん、この空間に散布している情報量だと威力は足りますか?あと、目安はどれ位ですか?俺は準備しますから。」

「情報量は問題ないです。今の的の状態はゲージがおよそ半分です。それと今までの傾向から予測すると10秒の吸収(アブソープション)で何とか足りると思います。」

「10秒で何とか足りるか。今までの吸収(アブソープション)の最長時間は20秒ですよね。」

「はい、それ以上はスイレンの情報処理が追いつかなくなります。そうなると、デバイスが故障しますから、トレーニングに参加できないどころの問題ではなくなります。」

「わかりました。20秒を越えなければいいんですね。」

「はい、あとは私の準備次第ですので。」

「了解、既に俺は的から6mの位置で構えています。だから、小澤さんの準備がよければいつでもいけます。」

「では、いきます。スイレンのシステムをオープン、吸収(アブソープション)準備(スタンバイ)!いつでもどうぞ!」

「スイレン、吸収(アブソープション)起動(スタート)


山河の右手にある銃に電子情報が集まりだす。彼は軽い静電気を感じながら、電子情報の吸収に集中している。フィールド内に突如として現れた光。周りにいるKNGメンバーや彼らのナビゲーターはその光景をただ、眺めていた。今、山河の右手にある武装とフィールド内の電子情報が磁石と砂鉄のような関係になっている。だから、電子情報を掻き集めることができるというのはナビゲーターの小澤と使用者である山河以外は知らない。


「スイレン、吸収(アブソープション)完了(エンド)。では、いきます!」

『えっ!』


山河が凌駕攻撃(イクシードアタック)をしようと引き金を引こうとしたその瞬間、彼の背後から砲撃が一閃。的を破壊した。レベルは82になり、的のヒットポイントゲージは全回復していた。


「ん~、試しに砲撃やってみたけど、しっくりこないかなぁ~。」

「ともちゃん、試しっていう威力ではないけど、あはは・・・」

「だって、わっくんが近接攻撃だけだと応用が利かなくなるから遠距離攻撃もしないといけないっていうからやったのに~。その言い方はないかなぁ。」

「ごめん。でも、これで三景はクリアだから後は八景だけだね。それにしても、七景と同じ位に人が多いけど何でだろ。」

「しらな~い。さて、八景に行って休憩したいからサクサク行きますよー」


三景エリアにある的を狙っていたほぼ全員は、山河の吸収(アブソープション)を見た後に起きた出来事に唖然としていた。突然に放たれた閃光は的を一撃で破壊するほどの威力。破壊した彼女たちの通信は偶然にも周囲に聞こえるようになっていたのだが、試しに撃ったという会話。その会話が聞こえた周りの参加者たちは唖然としていた。やがて、彼女たちが去り、周りがざわつき始めた中で、山河は後ろを見ずに目の前にある復活したばかりの的に目を向けていた。


「スイレン、吸収(アブソープション)再起動(リスタート)。5秒の追加チャージ後に撃ちます。」

「あっ、はい。リ、リスタート??」

「5秒経過、凌駕攻撃(イクシードアタック)!!!」


彼が引き金を引き、銃口からは大閃光が放たれた。瞬間、的は光に貫かれ、崩壊した。崩壊した時、周りにいるほとんどの参加者はナビゲーターと通信をしている最中だった。ただ、通信をせずに茫然としていたあるいは、たった今、的のある場所に辿り着いた参加者だけが異様な大きさの光を目撃していた。


「やりましたーー、すごいです。一撃です!」

「っし!次!!」

「はい。次は二景です。残り1時間です。ここからなら近いです。」


山河は的の破壊を確認して、素直に喜んだ。ただ、時間は無いので、すぐに駆け出した。山河が求めている情報を端的に伝える小澤の声は喜びのせいか、いつもより大きく聞こえた。山河自身も喜んではいる。わずかな時間の通信だが、彼女にも彼の喜びは伝わった。ただ、山河は喜びを顔には出さずに、心の中で喜んでいた。


「しばらくデバイスが使えないから、サポートお願いします。」

「はい!!」


彼に頼られ、小澤の気分は更に高鳴る。興奮しすぎなナビゲーターの指示を聞きながら、彼は次のエリアへ向かっていった。

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