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ブルーアイデンティティー  作者: 三笠聖
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Report01:佐々木地区での初陣1

「やっと着いたか・・・、それにしても、まだ眠いな」


目を擦り、小さなあくびをしてから見渡すと目的地である佐々木にバスが到着したことを改めて認識する。佐々木という場所は人口密集エリアの都会から離れている過疎地域の一つである。海が目の前にあり、漁港もあり、近隣住民の仲がよい地域でもある。11月という時期だが、予想よりあったかいことは、眠気をさらに強くしていた。


「場所はこの辺りのはずだけど」


目を擦りつつ、ある建物を目指して、一人で歩いていく最中。ふと、つぶやいた時に交差点を左に曲がると50mほど前方に


「佐々木地区観光協会っと」


都会から1時間かけて辿り着いたこの場所で仕事をしていくと考えると気持ちが自然と高ぶる。

新しいことを始める時はいつも、そんな気持ちになる。今回もいつもと同じように気持ちは高揚している。しかし、いつもと違い、決して顔には出さない。


「遊ぶために来たわけじゃないし、早く行きますか」


建物の入口から入り、事務所がある2階へと向かう。その階段を昇るわずかな時間ではあるが、自らに言い聞かせた。守る為にこの地に来たんだと。そう、この場所を選んだのは自分自身。為すべきことのために決めた覚悟なのだからと。


「すぅーーーー。ふぅーーーー。すぅーー。」

「よし!!」


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


協会の事務所の扉をノックした。3回ノックすれば反応するかと思いきや、反応が無く戸惑うと


「中に入って大丈夫ですよ!」

「えっ!?あ、ありがとうございます。」


後ろから声をかけられ、一瞬、警戒したが、声をかけた本人はというと事務所へいつの間にか入っていた。戸惑いつつも、約束の時間まで、余裕は無いので、改めてノックを3回して扉を開けた。


「こんにちは。」

「あっ、こんにちは。今日からこの佐々木地区観光協会でお世話になる山河と申しますが。岬さんを訪ねるように言われているんですけど・・・」

「少々お待ちいただけますか。岬さ~ん?」


対応をしてくれた方は部屋の奥にいる男性に声をかける。岬さんには何度かは会っているので、顔は覚えていて、奥にいる男性の内の1人が岬さんだと、物覚えが悪い自分でもわかった。

岬さんは役職の高そうな方々と話をしていたのだが、話しの途中でこちらにやってきた。


「こんにちは。ちょっと、打ち合わせ中だから、山河さんは2Bの部屋に入ってもらって、待っててください。」

「わかりました。」


言われた通りにするため、事務所を出て向かいの部屋になっている2Bへ入る。部屋の電気は点いていないので、中に人はいないはず。だが、はじめて入る部屋なのでノックを3回してから入ることにした。

部屋は10人位がミーティング出来そうな空間で、観光協会っぽさが出ている部屋だった。協会が行った事業の歴代資料から、地域に関する資料もあり


「あれは・・・、ゆるキャラの【ぶりタイがー】のストラップ。・・・なぜ、この部屋に?」


予想外の出来事に、思わず呟いてしまう。事前に調べていたが、早くもその知識が役に立つとは思わなかった。【ぶりタイがー】とは佐々木地区のオリジナルのキャラクターである。そのネーミングは魚の鰤と鯛に由来している。見た目の通り、頭が鰤で、胴体が鯛ある。佐々木地区が魚を使って地域活性化をしようとした時に作ったのが、このキャラである。ちなみにプロレスが趣味の1つなので、いつでも披露出来るように、プロレスができる格好をしている。


「鰤や鯛が特産物ではないのに、ブームに乗ってしまったのか。着ぐるみまであるよ・・・」


ストラップ以外にもイベントで活躍するであろう着ぐるみ、ガチャガチャ用の景品、マグカップからキーホルダーまで色々なキャラクターグッズがあるというのは2Bの部屋を見渡せば誰にでもわかる。書類棚の上に様々なもののダンボールが置かれていれば誰でもブームにのったことは予想できる。


「ずっと待っていると眠くなるなぁ~。トイレに行って気分転換することもできないし」


あれこれ呟きながら考えていると、ノックが2回。音がした方を振り返ると岬さんともう2人が部屋に入ってきた。1人はいかにも役職についているであろう雰囲気。貫禄がありつつも、見た目から優しく温和な人間だとわかる男性。もう1人は細身でスラっとしている顔だちの良い女性だった。2Bの部屋に4人が揃った所で岬さんから協会についての話や担当する業務の話などの説明があった。そして、長い話が終わり・・・


「これ、すぐに覚えられないんじゃ・・・、っ!あっ、失礼いたしました。」


一瞬、頭の中で考えたことを呟いてしまった。そして、3秒程の沈黙で部屋全体が静かになった所で


「まぁ、そうだよね。ちゃんと仕事を覚えてくれればいいから。」

「すみません。」


温和そうな男性は本当に温和だった。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


説明後は事務所の部屋に戻り、配属された部門での仕事を教わりながら、1つ1つやっていく。というものの、最初は電話応対と先輩のお手伝いしかできることは無く、昼休みになる。昼休みになると電話当番以外は休憩室で食事をしたり、飲食店でランチを楽しんでいる。


「仲村渠さんは前の仕事は何をしていたの?」

「私は写真館で働いていました。お子さんを連れた家族が多く来店されて、すごく忙しかったんです。残業もしていましたし、土日は出勤していました。」

「へぇ~、大変だねぇ~。観光協会はイベントの日以外は土日祝日休みだから、今までの仕事よりかは不規則じゃないと思うよ。」

「はい、ありがとうございます。」

「山河君が前にしていた仕事は?」


温和な男性の下山さんが質問を投げかけてくる。どの場所にいても新参者には必ずといっていいほど、このような質問がされる。同じタイミングで協会の職員になった仲村渠裕子は質問に対して明るく答えていた。その次に答えることになった山河は予測できていた質問に対して、確実に答えるために、準備していた回答をする。


「前は営業や映像編集、イベント会場の設営をしていました。3時間近くかけて通勤する時もありました。今までは、ほぼ平日休みだったんですが、土日が2日続けて休めるのですごくうれしいです。」


答えた時の顔はにこやか。だが、内心は面倒な質問だから早く終わらせてしまおうと思っていた。だが、答えた本人の軽い願いは叶うことなく、質問は続いていく。


「じゃあ、イベントは好きなんだね?」

「はい、イベントは参加するのも、運営するのも好きです!」

「そうか~、観光協会が関わるイベントは必ずあるから、頑張ってね。」

「はい!」


質問に対して無難に答えた。山河は安心したことを決して顔には出さなかった。話の全部が本音という訳ではなかったからだ。100%本当のことを喋っても、自分自身が得をするわけではないし、自分の話を聞いた他人が本人のいない場所で話すかもしれない。そう思うと見返りも無しに本音を簡単に話したくない。


(簡単に本音を話すわけにはいかないし、全てが本音ではないことがバレてもいけない。)


彼は昼休みの間、休憩室で職員と話をしながら、このことだけを考えていた。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


館内のチャイムが鳴り、就業時間の終了時刻になると、他の職員は事務所に残ることなく、すぐに帰宅する。協会への通勤は自家用車でも可能なので、ほぼ全ての職員が車やバイクなどで通勤している。そのことが山河にとって都合が良かった。


「お疲れ様です。お先に失礼します。」

「お疲れ様~」


(やっと1人になれたから、これで自由に動ける)


山河は建物の外に出て、バス停に向かった。彼の歩く速度はゆっくりとしていた。周囲に気を配りながら、建物の場所や道を早く覚えようとしていたのである。さらには、人目につかない所、目立ちやすい所などもチェックしていた。


「意外と明るい道もあるし、商店街では夜に営業しているお店もあるのか。」


山河は人がまばらにいる商店街を歩きながら、1人呟いていた。1人で呟くのは集中の度合いが高いと出てしまう彼の癖である。そうして約1時間、佐々木地区の観光協会付近、下町商店街と呼ばれているバス停付近の商店街を調査した。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


2日後、山河は仕事が終わり外へ出る。ふと、雨が降りそうなことが臭いでわかり、曇り空の様子を見ても、傘を持ってきていないということがダメだと彼は認識していた。


「マジでか~、頼むから雨にはなるなよ」


誰もいないことを確認してから、呟いた。彼は呟いて呼吸を1つしてから小走りでバス停まで移動した。彼の願いは叶わず、走りはじめてすぐに小雨が降りはじめた。アレは防水仕様だから平気だが、体は濡れてしまう。濡れるのを最小限にしつつ移動し、バス停についた。それから、待合所の屋根で雨宿りをして、帰りのバスを待っていると仲村渠に声をかけられた。


「お疲れ様です、山河さん。」

「お疲れ様です。」

「バス、間に合わなかったんですか?私よりも先に出ていましたよね?」

「バス停に着いたのが、運悪くバスが出た直後だったから、待つしかなかったんです。」


今日は運が悪いと山河は思った。雨に降られ、顔見知りに会ってしまうという2つの悪いことが重なったからだ。帰りにバス停で会ってしまうと、目的地である駅まで一緒になる。バスの車内が全員知らない人なら、気にせずアレの調整をすることが出来る。彼が何をしているのかの理解ができないし、興味も出ないし、情報を見られることもない。だが、顔見知りだと少なからず興味を持たれる。彼にとって、調整しているものに興味を持たれることはものすごく嫌なことである。


「協会の仕事には慣れました~?私が前に働いていた写真館の仕事とは感覚が全然違うから、私はまだ慣れていないですけど。」

「私も慣れていないですね。協会という特殊な立場なので、役所の方々や下町商店街、上町商店街の皆さんと関わっていく必要がありますよね。それなのに、まだ、顔と名前が一致しないし、電話がどこの誰なのかが声を聞いただけで判断できない。かなり、苦労していますよ。」


山河は仲村渠とバスの中で雑談をせざるを得なかった。彼はあまり関わりを持ちたくないという本心を隠した上で、彼女がする話に相づちをうっていた。バスが駅に着くまでの辛抱だからと思いつつ、仕事を中心とした雑談をしていた。


「次は終点、佐々木駅。ご乗車の皆様、お疲れ様でした。」

「仲村渠さん、もう駅まで来ましたね。話をしているとあっという間でしたね。」

「そうですね、一緒のバスで良かったです。」


バスのアナウンスが流れた後に仲村渠に話をした山河は、安心した。それは彼女との会話で彼がものすごく疲労していたからだ。会話で疲労していることがバレないように、話をしている最中の表情は明るくするように意識していた。ポーカーフェイスとまではいかないが、疲労の色を出さないようにしていた結果、彼女に不快感を与えずに済んだ。


「次に出る電車の時刻って何分ですか、山河さん分かります?」

「今は18時30分だから、5分後に電車が出ているはずですよ。」

「ありがとうございます、電車を長い時間待つことになったらどうしようかと思いました。」

「長い間電車を待っていたら、雨に降られちゃうかもしれないですよね。私は雨が止んでいる間に帰りたいのでラッキーでした。」


バスを降りた後、駅の改札口を通る直前に交わした会話。山河は自分のスマートフォンで時間を確認しながら、返事をしていた。確認が終わったスマートフォンをスーツの上着の内ポケットに入れた後、着信メロディが鳴りだした。彼は冷静にスマートフォンを入れたポケットとは反対側の内ポケットを探り、デバイスを取り出して、メッセージを確認した。


「っ!!」

「どうしたの?電話?」

「いや、メールですよ。友達からちょっと驚きの報告が来たものでして。ちょっと電話をかけるので、先に帰っていただいて大丈夫です。」

「わかりました、お疲れ様でした~。」


山河は動揺していたことを隠し通せず、彼の動揺に気が付いた仲村渠に質問をされてしまった。彼はごまかすために少し早口になってしまったが、何とかやり過ごすことができた。彼女が改札口を通って姿が見えなくなった直後


「初陣になるのか・・・」


佐々木駅前のバスロータリーで、山河はスマートフォンに見た目が似たデバイスを握りしめた。彼は緊張している。そして、胸の鼓動は早くなり、体が熱くなっていく。止んでいたはずの雨は知らぬ間に降りだしていた。雨で周囲の空気は冷えていた。その冷たさが彼の体の熱を程よく冷ましていた。


「デバイス、ゴーグルの準備良し、気持ちの準備も良し!」

「場所は、さっきバスで通ったY字の交差点かよ。バスで5分ほどの所って地味に遠い…」


彼は気づかぬうちに、気持ちを声にだしていた。深呼吸をして、準備確認をした後にデバイスに表示された【具現警報(アラート)】とその出現予測ポイントを確認する。この状況になったので、クセを気にしている場合ではない。


(タクシーがある!!)

「すみません。廃校になっている高校まで。」

「えーっと、佐々木高校の所?」

「Y字の交差点の所にある学校です。」

「佐々木高校ですね、わかりました。」


時間が無いので、迷わずロータリー前に停車しているタクシーに乗り込み、目的地を告げる。年配の運転手に目的地を聞き返されてしまう事態があったが、タクシーは目的地へと向かう。スーツ姿の男性が夜に、廃校に向かおうとしているのは、不思議に思われても仕方が無い。ただ、運転手の男は山河の必死な表情を見て、慌てている状況だと判断して、それ以上は何も言わずに車を走らせた。


「着きましたよ!」

「ありがとうございます。タクシー代はカード使えますか?」

「ごめんなさいね、このタクシーでは使えないから現金でお願いします。」

「あーーーっ。わかりました、領収証をください。」


過疎地域の個人タクシーに乗ってしまったためか、クレジットカードが使えない。時間が無いこともあり、山河は苛立ちを隠せず、最後は怒鳴るような感じで、さらに早口で返事をしていた。


「っし、ポイント到着。まだ、出現していないよな。」


廃校の校門をよじ登って、校庭に辿り着いた彼はあたりを見回して現状を確認した。周りは暗いので様子がはっきりとはわからない。だが、現実世界に出現していないのは確かだった。彼はリアルワールドの安全性を確認した後に、ゴーグルを装着。そして、再度、周囲の状況確認をした。


「サイバーワールドは・・・、校舎の方に情報が集中しているのが気になる。」

「そうです、あの情報体は早くデリートしないと、進化してしまいます。早めの対処をお願いします。」

「うわっ、誰ですか!?」

「私はキミの初陣をフォローするナビゲーターの小澤(つや)です。詳しいことは後で説明しますから、まずは集中してください。今回は初陣ということで応援要請を出しています。他の地区からやってきますので、あと15分程は、お1人で耐えて下さい。」

「了解!って、言っても、この位の規模なら講習会で見たものとほぼ同じですし、15分は動かないですよね?」

「それはわかりません。とにかく、まずは現実化(リアライズ)舞台(フィールド)展開をお願いします。」

「そうでした、現実化(リアライズ)舞台(フィールド)展開!」


独り言を喋っていたら、小澤からの通信が急に入り、山河は慌てていた。通信の相手がナビゲーターであることが分かった瞬間、彼は落ち着きを取り戻し、彼女から伝えられる情報を確認していた。そして、フィールドの展開をするために、彼はデバイスの画面に親指以外の4本の指をのせて、スワイプした。


現実化(リアライズ)舞台(フィールド)展開申請を受諾、人工衛星アンジェが申請者の座標を確認。申請地点から半径100mに球体型の現実化(リアライズ)舞台(フィールド)を展開します。」

「了解!」


現実化(リアライズ)舞台(フィールド)が展開完了するとゴーグル越しに見ていたサイバーワールドに情報体の姿がはっきりと見えるようになった。ゴーグルだけだと霧がかかっていた場所も現実化(リアライズ)舞台(フィールド)が展開することではっきり見えるということに、山河はちょっと驚いていた。だが、驚きを顔に出すことはせず、目の前のターゲットに向き合っていた。


毬藻(まりも)?」


現実化(リアライズ)舞台(フィールド)により、姿をはっきりと確認できるようになった情報体は見た目が毬藻だった。ターゲットが毬藻っぽいといえ、山河は油断しなかった。というより、油断する余裕がない程に緊張していた。


「すぅーーー。はぁーーー。応援早く来ないかな・・・」


彼はデバイスを握りしめながら、待機していた。毬藻には刺激を与えずに応援のメンバーが来るまで待ち、合流後に対応をするという考えがあったからだ。今の自分の状態では1人で戦っても絶対に勝てないと彼自身が自覚しているからこそ選ぶことができた選択肢。彼がゴーグルを通して得た情報の中で1番、重要なことである。


「小澤さん、応援にやってくるメンバーはあと何分で到着しますか?」

「現在地から考えて、あと10分はかかるみたいです。10分間は下手に刺激を与えないでください。」

「10分ですね、18時50分ごろかー、了解。ちなみに小澤さんにはこのフィールドの様子は見えているんですか?」

「はい、見えていますよ。現場にいる皆さんのゴーグルの映像が1つ。アンジェが現実化(リアライズ)舞台(フィールド)の様子をスキャンし続けているので、そのスキャン映像が1つ。あとは現場で小型の専用機械を設置していればその映像をこちらで確認することができます。」

「じゃあ、目の前の毬藻が沢山の触手をうねうねさせているのも見えます?」

「・・・、はい。発見時に比べて動きが活発になったのもわかりますよ。」

「・・・、これは装備を展開しないとマズイですか?」

「・・・、そ、そうですね。初陣ですけど1人で対処することになりそうですね、あはは」

(早く、いや、すぐに来て。そして、この状況をどうにかして)

(助っ人さん、早く現場に到着してほしいです。)


小澤の乾いた笑い声の後に、2人は心の中で助っ人に早く来て欲しいと願った。毬藻が本格的に活動する前に応援メンバーが到着するのは不可能だと判断した山河は与えられた武装を展開する。


「スイレン、現実化(リアライズ)起動(スタート)


彼が武装の名前を口にした直後、右手にハンドガン程の大きさの銃が現実化(リアライズ)した。応援メンバー到着まで残り時間はおよそ7分。武装を展開させて、待機をしている彼の表情は落ち着いているように見えていた。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


18時30分、八山地区。【具現警報(アラート)】を確認した矢田大輔はデバイスを使い、ナビゲーターに連絡をしていた。八山地区の隣に位置する佐々木地区での【具現警報(アラート)】なので、向かう必要がある。だが、向かう前に確認しなければいけないことが少々あった。


「こちらDY。状況は?」

「佐々木地区の佐々木高校という廃校に出る予測。八山地区が一番近いからすぐに行ってほしいんだけど。」

「誰もいないのか?」

「いるんだけどね・・・、ルーキーで初現場だよ。ランク低めの彼だとちょっとマズイと思う。」

「わかった。今からバイクで向かうから、ナビゲートを。真紀、頼む。」

「うん、よろしく。ナビは任せて!あと、予測がでた瞬間から、応援要請発令していたみたいだから、急いで行って。」


矢田はバイクに乗り、ナビゲーターの寿真紀からもらったデータを確認。もう少し情報が欲しいと思いながらも、道を急いだ。八山地区や佐々木地区は過疎地域だから、道は混雑しないと思いがちだが、矢田は裏道ばかりを選んで運転していた。18時35分、会社員の帰宅時間帯。過疎地域の住民はバスや自家用車を通勤に使う場合がほとんどで、そのために道路が渋滞する時間帯でもある。裏道を使うと遠回りになるが、渋滞につかまるよりは早く現場に着く。彼の経験に基づくその時の判断は正しかった。


「大輔、急いで。現場のターゲットが動き出している。」

「了解。あと、真紀、任務中だからコードネームで。」

「ごめん。」

「・・・、もうすぐ佐々木駅のロータリーを過ぎるからあと7分位で到着する。」

「わかった。」


18時45分、寿が矢田に現場の状況を伝える。彼女は焦っていたのか、矢田をコードネームのDYではなく、普段の呼び方で呼んでしまった。細かい所ではあるが、気になってしまった事は指摘せずにいられなかったので、矢田は彼女に注意した。


△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


18時45分、佐々木高校の校庭にいる山河は触手を動かしている毬藻の変化に気がついた。校舎の壁に張り付いていた毬藻が壁を離れて、触手をうねうねさせながら、浮いて移動している。校舎の2階程の高さに浮いている毬藻は、運動会の大玉転がしで使う大玉程の大きさまで成長していた。


「小澤さん、あと5分程で来るんですよね?」

「ちょっと確認しますから待っていて欲しいです。」


短い会話を交わした彼は、いつものように深呼吸をする。いつもならば落ち着くのだが、目の前で動いているものから目を離せないので、緊張は解けない。汗がうっすらと頬を流れ、よりいっそう緊張が増した。


「シャアーーーーーーーー」

「っ!!」


一瞬だった。目を毬藻から逸らした直後、毬藻は彼に向けて触手を伸ばしてきた。複数の触手は明らかな攻撃意識を持って彼に迫ったが、山河は右にローリングして避けた。上手く避けた後に彼は毬藻から距離を取る。およそ25m、その場をやりすごした彼はすぐに確認をとる。


「って、オイ!オイ!今、襲われましたけど、小澤さん?」

「ええ、見ていました。状況は悪い方に向かっています。」


現実化(リアライズ)舞台(フィールド)を展開しているので、毬藻の姿はフィールド内にいて、ゴーグルをしている人にしか見えない。毬藻のような情報体が一般人を襲わないように、情報を集中させているのが現実化(リアライズ)舞台(フィールド)の役割の1つである。現実化(リアライズ)舞台(フィールド)に出た情報体はフィールド内にいるモノや人を認識できるようになる。だから、毬藻が彼を襲うのも当然の行動である。


「スーツ汚したし、スーツだからあんまり軽快に動けないし、革靴なので走りにくいし。とにかく、この状況はマズい。もうやるしかない!!」

「お願いします。既に毬藻の構造はスキャン済みで、コアの場所も割り出しました。データを送ります。」

「了解!」


山河は覚悟を決めて、毬藻に銃口を向けて、1発を撃った。だが、外れてしまい、そのことで毬藻に気づかれてしまった。


「当たらないなら、モードを変えるしかない。スイレン、ビームモード!!」


音声認証によりバレットモードからビームモードへと銃の形態を変える。威力の大きいバレットモードよりも威力は落ちるが追尾可能なビームモードにした方が確実に当てることができると山河は判断した。そして、彼の右手にある銃はモードチェンジに伴い、わずかに見た目が変わっていた。


「当たれーっ!」


ゴーグルを通して照準を合わせた銃口からビームを数発撃つ。全て毬藻にヒットしたが、コアまでは届いていなかった。貫いた箇所はすぐに回復してしまうので、今のままの威力では破壊できない。


「もっと連射するか、接近してバレットモードで撃ち抜くか」

「先ほどの様子から推測すると、連射でしたら倍の数は撃たないとコアまで届きそうにないです。接近する方はやるにしても味方の援護無しではできないと思います。」

「どっちもダメですか~。じゃあ、どうすればいいんですか?っと、避けるのもそろそろキツイです。」


山河は回避しながら小澤と通信をしていた。彼は彼なりに考えた策が小澤の言葉で選択肢から消える。ずっと避け続けている山河の体力はあと少し、持ちそうだった。しかし、触手の攻撃が予想以上の速度だったので、普通に回避するよりもさらに体力は消費していた。ふと、ゴーグルに表示されている時刻を見ると18時50分。応援メンバーの到着予定時刻だった。


次回へ続く


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