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7 三者懇談してもらおう

 土曜日は午前中の授業で終わる。オトンの学生の頃は丸々休みやったらしいのに。クラスメイトが部活や遊びに向かう中で、教室に鞄を置いたままオトンの登場を待つ。一人だけ違う行動をするのは目立つなと思いながら待っていると先に尾上先生が職員室から取ってきたらしい紙束を持って帰ってきた。


「先生、それが噂の指導って奴ですか?」


 どうにもプリントだけにしか見えない。全国で受けられるであろう指導に疑惑や期待を溢れさせていたのにあまりのショボさにがっかりへこむ。


「そやで、これが『魔力発露についての指導』になる。親御さんが来て、同意を得れて初めて見れるんや。勝手に触ってもあかんで」


 机を組んでその上にプリントの束を載せてから先生はポンポンとそれを叩いた。見るからに分厚い。勉強と平行であれだけの物を暗記するのだろうか。道のりは遠い。ガックリへこまされながら席に座りオトンを待つ。


「すみません。遅くなりました。山河さくらの父です」


 入りやすいように開け放たれた教室の入り口からオトンが頭を軽く下げている。


「どうぞ山河さん。担任の尾上です。予定より早いくらいですよ」


 父を空いた席に座らせてから先生はドアを閉めた。


「さてと、本日はお嬢さんの進路についてお呼びしました。失礼ですが、ご家族ではどこまで話はお聞きになっていますか?」


 先生の発言は確実に何も話してないだろうと言っている。その通りだ。良くわかったな、先生!


「行きたい学校ができたとか。ちょっと他と違う部分があるので早めに三者懇談したいとは聞いております」


「ちょっと」の部分で聞いている先生の眉が動く。ちょっとじゃないね、すごく特殊な学校だよね。先生とは目線が合わないように先に視線をずらしておく。


「山河さん。是非娘さんから志望校を聞いてください」


 視線を合わせない工作は無意味と化した。大丈夫だよね? この前何だって好きにしていいと許可くれたもんね? オトンを見るときょとんとした顔をしている。


「聖サンドリヨン……魔法学院大阪校」


 言い切ったがオトンの表情は変わらない。少し首を曲げたかもしれない。リアクションが無いからか先生がプリントの下からウチにも届いた聖サンドリヨンのパンフレットをオトンの前の机に載せた。


「聖サンドリヨンは三年前に東京にできたヤーレ魔術学校の関西版のようなものです。資本や校風は別物ですが、何れも魔法連合国の名門校で日本政府の肝いりでできた魔法科があり分校。将来は魔法使い以外に選択肢はないような学校です。ここまではよろしいでしょうか?」


 オトンは先生の話を聞きながらあの合成なのか本気なのか良くわからない写真を見つめる。


「さくらは魔法使いになりたいんか?」


 我が父ながら謎の反応だった。私たち日本人が知る魔法使いは魔法連合国家からきた凄く見た目が違う外国人しかいない。公務員になりたいのかとか、看護師になりたいのかというかの如く、ごくごく普通に聞いてきた。先生も意外だったのかちょっと目を見開く。私はコクコク首を縦に振り、この当たり前のような流れに乗ろうと必死にアピールをする。


「それは知らんかったわ。ヤーレは聞いたことあるけど、聖サンドリヨン? ここ以外に魔法使いの学校はないんですかね?」


 パンフレットに目を落として学校名を読み上げたオトンは途中から先生に質問する。


「はい。ヤーレと新設の聖サンドリヨン。この二校しか日本人が魔法使いになれる学校はありません」


「では聖サンドリヨンが第一志望、ヤーレが第二志望になるんかな?」


 再びオトンは私を向いて聞いてくる。え、ヤーレも受けていいの?


「お父さん、ええのん? どっちも私立やから学費とか、たっかいねんで?」


「何のためにお父さんお母さん働いてる思うとるんや。さくらと大地が好きなように大人になって楽しく稼いで楽させてくれる日を夢見とるんやで」


 良い話が途中からずれてしかも滑った。受験生に滑り芸とかやめてほしい。先生が気まずそうに咳払いをした。ありがとう先生。


「ええと、まぁ、おうちの方ではお嬢さんを応援してくれるということで。

 では聖サンドリヨンの受験の話になります。はっきり言いますとお嬢さんの代が一期生になる新設校ですので確実なのは試験内容のみです。五教科のペーパーテストと小論文に面接、内申書が必要で、加えて魔力測定という特殊試験があります。全国で二校の特殊学科の学校ですから参考になるのはヤーレの合格者になります。そこからお嬢さんの成績を見ますと……」


 先生は私の成績表を出してきた。はっきり言って歴史と地理がガクンと下がり、他は悪くない。社会科系は悪いがそこまで恥じるひどさではないのだが、先生はヤーレを基準にビシバシ私を叩いてくる。


「さくら、受験は全体だけやなくて科目毎に最低合格の足切り点があってやな……」


 オトンは何を言われてもこの社会科系だけが気になるらしい。小さくなるしかない。私、貝になる。


「まぁ、今から上げれば最低合格に滑り込みが出来ないこともないかと。ただし、魔力測定の点数が大事ですが」


 先生はヤーレであった魔力測定の点数が良くて合格した人の話をして、学力テストより魔力が大事なのかもしれないとあくまで予想の話をした。それでも学力の足切りがあるかもしれないので今後精進するようにとお説教を切り上げて、いよいよ魔力発露についての話が始まる。


 先生の話によるとこのプリント自体に魔法がかかっているらしい。日本政府も魔法連合も真面目に働く魔法使い以外の魔力発露者を出すと魔法犯罪が発生する土壌が警察組織に追い付かずできてしまうと、それはそれは恐れていた。簡単にいうとロックがかかっている状態がこのプリントの山であるらしく、先生自身中身を知らない。色々条件がかかっているので今から私と父が同時に捲り、合致したら何かが起きる。ダメだったらもう別の学校を選ぶしかないとワクワクして良いのかハラハラして良いのかわからない状況だ。


 ごくりと唾を飲む。オトンは心配そうに私を見ながらプリントを受けとり、私が捲れるようにこちらに差し出した。


「さくら、大丈夫か?」


「やらなきゃ進めんよね? やるしかない」


 女は度胸。深く息を吐いて紙に指を乗せる。そして息を止めてその端を捲った。

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