6 友達には言っておこう
一番難題だった保護者が認めるかは何の問題もなしに片付いた。担任の尾上先生が幾ら反対しても試験自体は受けられる。怖いのは歴史と地理だけだ。地図帳の大平洋ど真ん中に浮上したアトランティスを書き込みながら土曜日のことを考えている。
するとチャイムが鳴り、四時限目の終了を伝える。授業中の内職活動は三年生になってから認められたため何の気兼ねもいらない。今なにの授業だったのかわからなくても咎められないのだ。
「さくら、あんた何しとるんよ」
約束しているわけでもないけれども、友人の高橋朝華が弁当片手に私の前にある来栖君の席を占拠する。
「あー、ご飯か。すぐ片付けるわ」
「それ地図帳? さくらが地図とか明日は雪か槍が降るわ」
私のひどい歴史と地理嫌いを知る朝華は顔を歪ませながらも片付ける私の地図帳に手をのせて止める。
「なんていうか、受験ヤル気になったら志望校に社会科系の試験があることがわかりまして」
「さくらの志望校って平成か英女、遠くて優女あたりやないの? てか何やのこの落書きの量は。人物ならまだしも地図帳に描くとか未発見大陸ありすぎやん」
大口開いて楽しそうに頁を捲る朝華。彼女がいう学校は三科目の偏差値的に正しい。私のレベル帯では五教科の試験がある私立はそんなにないのだ。
「さくらは五科目やるなんてダルいから私立専願だろうとは思ってたよ。それが急に地図帳って何か変わっとる部活にでもひかれたん?」
「学科かなぁ」
「学科って普通科ちゃうの? 大丈夫なん? 無理に社会やらなあかんとこなんかで?」
確かになぁと思う。理数系大学に進ませるために理科が試験に入る理数科なんかを持つ高校がある。当然入試だけの話ではなく卒業まで必修だろう。それを考えると魔法がなんたるか知らないが試験に入る分、三年間必修で留年案件にもなりえる科目に入るかもしれない。もしかしたら就職しても社会科目が必要すぎる進路であれば私の人生社会科系で詰む。力なく朝華の手に渡った地図帳を見つめた。きっと今の私は目が死んでる。
「それで結局どこ受けるん?」
「耳貸して。あんま知られたくないんよ」
不思議そうに首をかしげながら素直に朝華は頭を机に寄せてくれた。
「聖サンドリヨン魔法学院。来年ベイエリアにできる魔法科の新設校」
知らないかもしれないと思ってちゃんと新しい学校だと告げるとゆっくり朝華は頭を上げる。
「記念受験やなくて?」
「マジで。本気と書いてマジで行きたい」
小声ながらも真剣な顔で朝華が聞き直してきた。ちゃんと通いたいと言うとやっぱり小声で話を続ける。
「尾上先生は何ていうてたん?」
「ペーパーは無茶苦茶難しいらしいけど、東京のヤーレで合格した偏差値五十三とかの人の話もしてくれてん。魔力とかの試験がすごい良かったんやって。あと、志望者は魔力発露についての指導があるらしくてそれの出来次第で諦めろとか。合わせるとその魔力発露がうまいこと行けばペーパーぎりぎりで諦めずに受けるのもありかもみたいな。そう言うわけでペーパーぎりぎりを目指しつつ、土曜日にそれを聞いてからってなっとるんよ」
朝華は顎に片手を寄せる。考え事をするときの癖だ。少し間を開けてから朝華は視線を私に戻す。
「その指導さ。志望者にするってまさか全員にするんかね? 記念受験もそうだし、もし受かればラッキーくらいで関西だけやなくて全国でかなりの数が受けるんよね? おかしくない?」
「確かに。でも先生全員やらなあかんみたいな義務みたいな感じやったで? 指導ってなんやろね。先生は魔法使いでもないし、全国でそんなに魔法使いが回るわけもないし。さっぱりわからん」
朝華と同じく私にも疑問だ。一体何をやらせるんだろう。
「まあ、土曜日になればわかるか」
「そやね。あと二日でわかることやもんね」
「何すんのかわかったら教えてよ」
「内容次第やわ」
考えても仕方がないこと。すぐにわかるし私と朝華は漸く弁当箱を広げた。




