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5 保護者に話そう

 我が山河家のオカンは土日は休日なんぞないというサービス業に従事している。逆にオトンは土日が休みのサラリーマンで、誰も家にいない土曜の午前はゴロゴロ寝ているおっさんだ。


 三者懇談の日程が土曜日になった時点で参加するのはオトンだと自動的に決まる。ということは一度も将来について語ったことのないオトンに一から説明して説得せねばならないことまで決まってしまった。少し憂鬱である。


 何しろオトンはいけず(意地悪)な質で、ウサギかクマのぬいぐるみが欲しいと言ったらキリンのぬいぐるみをよこし、USJ(外資系遊園地)に行きたいと言ったらひらパー(地元密着遊園地)に連れていく人だ。恐らく路線的に魔法を学びたいと言えば手品師を連れてくるんじゃなかろうか。唯一私の希望を知る兄の予想では「ねるねるねるね」とか言う変なお菓子を買ってくる方に一週間分の風呂掃除をかけていた。がっかり感でいうならトランプが段ボールで届く説もある。完全にオトンは間違った方向に信頼を得ている。


 そんな憂鬱な話をするためにオトンの帰宅に耳を澄ませながら机に向かい、教科書にいる信長の絵をヴィジュアル系に改造する作業に勤しんでいた。




 カチャリと玄関の鍵が回る音がする。オカンも兄も帰宅済みなのできっとオトンだ。部屋の扉を少し開けて覗いてみると小声でただいまーと革靴を脱ぐ姿が見えた。


「お父さんおかえりー」


 隙間から手を出してふる。


「うわっビックリした。何や、お化けみたいな出方やめようや。さくらが起きてるとかお父さん今日はえらいはよう帰れたんやな」


 機嫌良く居間に入るオトンに続いて私も後ろをついていく。


「いや、はよないで? もう日付変わっとるし。お母さん寝てもうたから私ご飯温めとくわ。話あるから先お風呂いってくれん?」


 冷蔵庫からラップを被った野菜炒めと冷奴を出して振り向くと深刻な顔をして停止しているオトンがいてぎょっとした。


「え、どしたん?」


「さくら、話って何や? のんきに風呂入る気分にはなれん。先に話してくれ」


 急にシリアスモードになるオトンにパニクる。普通にこの時期話すなら進路やろって思わないの? というか複雑な金銭事情とかあるの、ウチに? 兄が通う金持ちアホボン校を浮かべて公立しか行けないのかと頭を過る。


「今日学校で志望校の話を担任の先生にしたんよ。そしたら、土曜日お昼に親御さんと三者懇談しようって。志望校が特殊やから皆より早くしたいんやって」


 メッキはつけたが大体あってるはず。けれども魔法学校に行きたいとは言いづらくなってしまい下を向く。あの頭の中が年中無休整備不良遊園地の兄貴が私立に行ってるのに初年度百五十万は無理かもしれない。未来が暗くなる。


「ホンマに学校のことだけか? なんや、心配して損したわ。行く行く、土曜な? 風呂入ってくるわ。好きなようにしたらええ。大地も好きにしてんからな」


 頭をぽんと叩くように撫でたオトンが脱衣所に向かう足音がする。


 え? これは許可おりたの? 振り返るとランニングシャツとステテコ姿のオトンが見えた。


「お父さん! 脱衣所の戸は閉めてって言うてるやん!」


「あー、最近夜には顔みれんから忘れとった。すまんすまん」


 最後は締まらなかったが好きにしていいと許可は貰えた。閉まる脱衣所の戸を見ながら思わず口角が上がる。


「うぅ、よっしゃ!」


「さくら、うるさい!」


「何時や思てんの!」


 兄とオカンの寝室から苦情は出たが上がるテンションは止めようがない。鼻唄混じりで台所に戻り、味噌汁の火をつけた。

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