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日本が謎のファンタジー外交を始めてすぐ、向こうとこちらに大使館が建ち、さぁ留学生の交換をとなったがそれは実現に時間のかかるものであった。理由はゲートという地球でない外国と日本を結ぶワープする門にある。
ゲートはこの宇宙ではなく異世界に繋がる門であった。向こうさんの技術であるまさに魔法を使って毎日数回かなりの人数が肉体労働並みに消耗して作っている。それ故に金もかかるわ人材も足りないわで輸送リソースが足りなかったのだ。ついでに出すのも入れるのもあちら任せ。こちらでも同じコストを払いたいと日本政府が交渉する。
多分金銭や輸出、免税なんかで対応するつもりだったのだろう。何がそちらへの対価になるかの回答は、そんな予想を裏切って「日本側でも魔法使いを出してほしい」というもの。加えて「今は政府管理しているが、空港を見るにその内民間がゲートを事業化するのでは」と飛行機がかつて国家事業から民間に降りたことをなぞるように変わり行く運命だと予見した。日本政府は悲喜混じりあい変な顔でこの時の写真をホームページに掲載している。喜びは異世界への未来が大きく開いたことへ。悲しみはこの国に魔法使いいないのにという明らかな人員なしの現状にだ。その場で魔法使いはいないと返事をするとちょっと考えてくると次に持ち越される。
そして魔法連合はまた物凄い回答を持ってきた。「今後の民営化も一般人の渡航も考えるとゲートだけでなく日本国家の警察組織にも魔法使いがいる」「連合国家の名門学舎から派遣講師になりたいという者が多数いる」「こちらにも留学予備校を作る計画があるので講師を交換留学させないか」夢のような話である。
そして東京にはヤーレ魔術学校高等部東京校が誕生した。国立でも公立でもなく私立高校である。魔法連合国の東側で一番の名門校は、賢者ヤーレが興した攻撃魔法に強い学校だ。日本校は設立目的である警備とゲートに特化させているため、ほぼ全員政府就職を望まれるが成績優秀者は本校の大学に進めるという大盤振る舞い。初年度から倍率三十倍を記録しその後二年連続倍率上昇している。
そんな中でついに来た大阪の魔法学校だ。私は兄上様にお礼を手早く済ませると、今まで真剣に眺めていた高校のパンフレットを纏めて紙ごみの箱に投げ捨て携帯端末を両手に持って自室に籠る。今私に必要なのは魔法学校の情報それだけだ。大阪校なら電車で通える。受かれば漏れなく公務員。親も受験に反対まではしないはずだ。検索エンジンに「魔法学校」「大阪」と入力してから検索開始ボタンを画面の読み込みが終るまで連打する。
聖サンドリヨン魔法学院大阪校。なんとホームページが日本語で存在した。
トップページに青空をバックにアラビア風のお城の前でゲームで出てくるような派手制服の日本人の男女がマサイ族の戦士が持つような槍とどう見ても日本製の扇子を各々持って笑っている写真が出る。シュールだ。少し興奮が収まる。
聖サンドリヨン魔法学院はヤーレと対極の魔法連合西部の恐らくナンバーワン魔法学校だった。ヤーレ並みに本校の就職先として政府機関や魔法教会に名を連ねている紹介がある。あちらで聖人になったサンドリヨンの遺産で創設された学校で治療や防御、結界と補助職というかゲームでいう後衛ヒーラーバッファー的な魔法の名門らしい。
大阪校の場所はベイエリア。通学するには片道一時間以上かかるかもしれないが、他に行く高校がなければ文句を言われつつ通えるはずだ。ここだけ合格なら学費を出してもらえるか? 学費を見るために募集要項をタップする。
学費はまさかの成績魔力別表が出てきた。魔力って何だって感じなのでそれを無視してみると一番お安い特級がオールフリーの無料で、一番お高い下級が入学金学費制服コミコミで初年度百五十万。一般私立と比べて高いのか安いのか足しての計算はしていないからわからない。ただ、無料と百五十万の間にある壁の高さはわかる。無茶苦茶実力で待遇差がでる学校だ。軽く引いた。
受験日は他所の私立入試より一月早くなされて一月。たった一回の試験のみだ。魔力測定という未知の試験と普通に五教科のペーパーテスト、小論文の三試験に面接が入っている。受験料は一律二万円で全学科同時受験ができるらしい。
五教科、やらねばならんのか。頭を抱えて苦手な歴史と地理を叩き込む決意を無理矢理つけた。できるできる。半年はあるのだから。気を取り直して入学案内パンフレットの郵送依頼を出しておく。大丈夫だ、頭は大して良くないが、未知の試験である魔力測定が何とかしてくれると信じてみよう。




