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1 志望校決めます

 あれは私が小学生の頃だった。


 突然何を血迷ったのか外務省のホームページで魔法連合国家との国交樹立が掲載される。マスコミは国内どころか国外も気づき、『日本のエイプリルフールは五月らしい』とか『テスト用のジョーク記事の誤掲載』なんて騒ぎ立て、政府は数日後にはコスプレ風の異国人を連れて本物であると会見を開いた。嘘か誠かはそっちのけで情報は拡散し、あっという間に世界中が日本政府の狂いっぷりを伝える。


 しかし政府は落ち着いたもので羽田と関空の空港にゲートと呼ばれる謎のリアルエフェクト装置を用意して本当にそこから鱗肌の外国人や手の代わりに翼を持つ外国人がコスプレイヤーに混じり入国してくる事態になる。


 私は感動した。親にねだって空港まで行き、見るからにゲームや映画の世界から飛び出して来たようなファンタジー外国人たちに握手をしてもらった。写真を一緒にとってもらった。今考えると大変失礼なことをしたなと思う。


 憧れと感動で大興奮した。あれ以来ずっと思い続けているのだ。今度は私があちらに行きたいのだと。




 時は流れ私は中学三年生になった。進路希望をそろそろ最終結論出さねばという時期になり、頭の出来に合っている地元普通科高校の資料を前に高望みすべきか否かについて真剣に悩んでいる。先生は手を変え品を変えレベルの高い方の高校をすすめてくれるが、私にとってはレベルの高い所で落ちぶれるべきか、低い所で落ちぶれるべきかの差でしかなくて決めかねていた。


 関西の高校事情は飽和である。頭の良い所、悪い所と両方どの地域にでもあるのだろうがピンもキリも飛び抜けているし数が多い。私立も公立もどのレベル帯もありすぎなくらい乱立しているので言うほどレベルの上げ下げを気にせずとも学校はあり、最悪落ちまくっても二次入試、三次入試と受け皿はある。ひどければ電話したら五次入試を開いてくれたなんて聞いたこともある。通学時間さえ気にしなければどうにかなる話なのだ。


 兄を持つ私はこの人生最初の試練に対して真剣にしなくともなんとかなるということや、いざ入学すると受験勉強が抜け落ちてみんなまとめておバカになることを知っている。お陰さまで私のレベルである公立上下の二校、私立四校、何の魅力も浮かばない。

 将来を考えれば頭の良い方なのだろうが、何の期待もないまま入り兄のようにすっからかんになるのなら下の方が良いような気もする。


 食卓にパンフレットを開かないまま並べて腕を組んで唸っていたら、件のパッパラパーの兄がコップを片手に居間に入ってきた。学校から帰ったのに着替えもせずだらしない制服姿である。


「さくら何しとんの? おっさんみたいに腕組んで」


 一言多い口から先に生まれた兄は、私が広げたパンフレットの上に躊躇いなくコップを置いて冷蔵庫に炭酸飲料のペットボトルを取りに行く。人の物の上にコップを置くなよと睨んでみるが愚兄は全く気にしない。


「高校のパンフレットやん。志望校変えろ言われたん? それともまだ決まってへんとか?」


「ええやん。お兄ちゃんには関係ないやろ」


「なんでやこれは高校生の兄貴に聞くべき案件やん。ここは体育会系部活やないと辛いで。ほんでここは皆神戸寄りやからスカート長くて似非お嬢が多い。んで、ここは駅から学校までのバスが一時間に一本の寿司づめで、これは修学旅行が寺とかいう前時代。あとこれは」


「全部アカンやん! 明るい未来はないの?! ヤル気削ぐなら他所いってや!」


 アドバイスじゃなくて嫌がらせじゃないか! 机を両手でバンバン叩き、アホ兄貴に退去を宣告する。ダメ兄はそれをニヤニヤ見ながらコップを一気に煽った。


「さくらなら知っとると思ったんやけどな。最近ニュースも見とらんの?」


「受験生に何見ろと?」


「魔法学校。今年開校するらしいで。ついに大阪でも」


 お兄様は私に今一番の夢と希望を授けてくれた。

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