西から来た鬼
ユグドラシル・インダストリー最上階。
窓の外を眺めていた金髪の少女に
「リリス様、よろしいのですか?」
執事の男は、紅茶を差し出す。
「わざわざ、東の果てまで足を運んだかいがあるというものですわ」
リリスは薄く笑うと
「イザヤ、お願い。一度、お話がしてみたいですわ」
♦︎♦︎♦︎
「さすがに、お腹減ったわ」
ファストフード店の「モックバーガー」を見て
「帰りの電車代を考えると、この辺りが妥当……」
「委員長、いえ早紀様」
瑠架は目を輝かせると
「オレにも買ってくれません、いえ買ってくださいませ」
「はぁ? その辺の草でも食べなさいよ」
ゴミでも見るかのような冷たい目に
「酷い……」
項垂れる瑠架。
「まあ、なんて残酷なお友達」
鈴が鳴るように可愛らしい声。
「こんな子は放って、私と豪華な食事はどうかしら」
黒いゴスロリ服の少女が、瑠架の右腕に抱きついた。
「イザヤ、八階の高級中華料理店の予約を!」
「はっ、リリス様」
真面目そうな執事が、携帯端末を操作。
その光景を前に早紀は動揺しながら
「な、なんなのよ……って、リリスって確か」
リリス・トランシルヴァニア。ユグドラシル・インダストリーの総帥の名前。
「だから、最上階から視てたのか。つーか、外人さん?」
「ええ、気づいてくれて嬉しかったですわ。あ、貴方は帰ってくださって結構よ」
動物を追い払うようなリリスの態度に
「悪いけど、彼の保護者から見張るように頼まれてるのよ」
早紀は対抗するように、瑠架の左腕を掴む。
「離しなさいよ」
「こっちのセリフですわ」
「お、おい……やめろ、尻が割る」
「あら、尻は最初から割れてますわ」
「やりましたね。少年漫画なら、王道的なモテイベントですよ」
冷静に分析するイザヤに
「見てないで止めろ……リリス、オレこういう場所始めてなんだよ。不安だから、早紀も一緒に連れて行っていいか?」
「まあ、そうでしたの。仕方ありませんわね」
八階・高級中華料理店・桜花
「見ろ、テーブルが回る」
「馬鹿。恥ずかしいから、やめてよね」
春巻き、海老のチリソース、肉団子、チャーハン。
香ばしい匂いが、食欲を誘う。
きつね色の春巻きを塩胡椒につけ
「さ、さすがに美味しい……」
思いがけずに昼食が豪華になった、と早紀。
「瑠架さん、お味はいかがです?」
「美味い。だが、最高はおにぎりのシャケだ」
「確か、おにぎりとはライスボールですわね」
瑠架とリリスを横目に
「で、何か用があるんじゃない? 例えば、昨日の吸血鬼事件とか」
「まあ、早紀さんはなかなか鋭いですわね」
「話題と言ったら、それくらいだし……それに、大神家の長老達が話してたけど」
早紀はため息をつくと
「ユグドラシル・インダストリーの総帥は、西から来た鬼だって」




