ユグドラシル・インダストリー
「綺麗に片付いてるわね。よく考えたら、焔兄さんがあんたのために証拠残す必要なんてないし」
早紀はため息をつくと
「これ以上角が立たないように、山で大人しくしてることね」
「あった、あったぞ」
地面を這っていた瑠架の手には、薄く小さい四角い物体。
「……執念だわ」
瑠架の持っている物を見て
「これって、ゲームのソフトね」
「げーむのそふと?」
頭の悪い言い方をした瑠架に
「これよ」
早紀は鞄の中から、桃色のカバーを取り付けた小型ゲーム機を取り出す。
「私も友達に進められて買ったんだけど」
巨大複合企業ユグドラシル・インダストリーのゲーム課が新しく開発。
医療分野からITまで幅広く手を伸ばしている。
最近までド田舎だった神楽市を一気に都会へと飛躍させた。
「バケモノハンターね。これ、昨日出た新作……あら」
ソフトを起動すると、セーブデータが昨日で止まっている。
「……名前、あああってセンスなさすぎ」
こういうゲームはキャラに自分の名前をつける間抜けもいると思ったけど、と早紀。
「で、どうなんだ?」
「そうね。持ち主が見つかれば、何かしら情報は得られると思うけど」
正直ソフトだけでは無理ね、と続ける。
「げーむのそふとってのは、どこで買えるんだ?」
「ユグドラシル・インダストリーの一階から十五階が、商業施設になってるの。ゲーム屋は、確か六回だったかしら」
早紀の話を聞いて
「よし、今からそこに行こう」
「ここで、無くしなら新しく買いに行くと思うんだ」
事件現場だと戻りにくいし、探すのも面倒だろ、と瑠架。
「それはそうかもしれないけど……」
こいつに関わるとろくなことがない、と早紀はため息をついた。
♦︎♦︎♦︎
<……すまない。電車代は後で>
電話越しの申し訳なさそうな声に
「いいんですよ、総司先生。電車代くらい……」
早紀が答える。
「やったー、電車、電車」
普段、学校と山の行き来しかしていない瑠架は電車に乗ってご機嫌。
「静かにしなさいよ。恥ずかしい」
車窓には、ユグドラシル・インダストリーのビル。
ビルというよりは、西洋の城に近い荘厳な建物。
「……視てる」
「馬鹿ね。あんな遠くからじゃ、分からないわよ」
早紀は肩を竦める。
「その見てるじゃない。もっと、勘みたいな」
オレたちと同じくらいの女の子と男の人、と瑠架が言った。
「……やっぱり、あんたって鬼なのよね」
早紀は、静かに呟いた。




