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キミと見た世界  作者: 岩永幸
第一章
12/12

12.テレパシー

今時廊下に立たされるってあるんだな。



チャイムが鳴り終えから数十秒後に教室に走り込んだ俺を出迎えたのは先生だった。

昨日俺を怒鳴り起こした先生が仁王立ちで俺を睨みつけており、何故遅くなったのかと開口した時には既に怒っていた。シリを保健室まで送ったことはまだ良し、だったのだが……昨日ノートの回収を倖月に押し付けて帰ったこと。そして宿題を忘れていたことのダブルパンチであろうもことか「廊下に立っていなさい!」と怒鳴られた。古いアニメじゃあるまいしと思った俺の顔がまた先生の逆鱗に触れたらしく、俺は今廊下に立っている。


『あの女気が立っているようだったな。』


一人、というのには語弊がある。正しくは人間一人と龍一体。一人で廊下に立っているよりはこうして話相手がいる方が気は楽だ。


(どうせ昨日の合コンも駄目だったんだろ。見たかよ昨日と今日の顔と服の気合の差。今日なんてパーカーと真っ黒ズボンだぜ……分かりやすいもんだよな。)

『合コンとは何だ?』

(男女が仲良くなるのを目的に集まることだよ。)

『ほう、ではあの女は男を求めていたということか。』

(男…そうだな、結婚相手探しに必死になってんじゃねぇの?もう35歳だし。)

『35歳にして夫がおらぬとはどういうことだ。行き遅れにも程があろうに。』

(それ本人に言ったら廊下に立たされるだけじゃ済まねーからな。)


それこそ教室中に火を噴いて授業にすらもならないだろう。

シロスは俺の隣でありえないと言わんばかりの表情をして、俺を見た後は教室に頭を突っ込み恐らく先生を見たんだろう。


『何か病を患っているのか?』

(モテない病っつー病だろうな。)

『何だそれは。体に傷があるのか?それとも子が産めぬのか?脈が弱い女なのか?』

(しらねーよそんなの。中身の問題じゃねーの?)

『ふむぅ、20歳にして子がおらぬ時点で問題であろうに、35歳にして夫すらもいないとはこの時代は恐ろしいものだ。』

(今の時代じゃ20歳で子供いるほうが驚かれるよ。)

『時が流れたのだな……。』


シロスは遠い目をして暗い空を眺めた。シロスの居た時代なんて何百年も前の話だ。そりゃあいろんなものが違うだろう。


(ちなみに今月入って二度目の合コンでした!)

(植松!?)

(何か話してるかな~と思ったら面白い事話してたらつい聞いちゃった♪)

(ついってお前な……。)

(だぁって~「城山君は廊下に立っていなさい!」なんて聞こえたもんだからさ。城山君今度は何したの?)


俺とシロスの会話は本当に筒抜けのようだ。

聞けるだけじゃなくこうして勝手に会話に入ってくるとは……植松こいつ授業中じゃないのか。


(何でもいいだろ。大人しく授業受けてろよ。あと会話も聞くな。)

(え~つめたぁい。私は城山君とも黒龍とももっと仲良くなりたいのに。)

『狐と話しておけ。』

(やだやだ!うちの守護神様は業務的な会話しかしてくれないもん!黒龍みたいによく喋ってくれない!)

(おいシロス、うるせぇ龍だって言われてんぞ。)

『俺は普通だ。』

(うるさくはないよ私もお友達みたいに会話したいの~!)

(だってよ。植松の話になってやれば?)

『俺は樹の守護神だ。』

(黒龍も城山君もノリわるーい。)

(俺は今後から食らう先生と倖月からの説教のことで気が重いんだよ。ていうか倖月がノート回収してくれてたんだな。)

『あの女随分とここの連中の世話を焼くな。』

(委員長だからな。)

『その委員長とは何なのだ。』

(クラスのまとめ役的な?)

(ねぇねぇ倖月さんって王子先輩のおっかけなんだよね?)


植松、こいつ本当に授業受ける気ないな。


(写真は買ってたみたいだけど。つーかどこでそんな情報仕入れてんだよ。)

(え?倖月さんが王子先輩の隠れファンって今すんごい噂になってるの知らないの?)

(マジで?)

(うん。倖月さんってお堅いイメージあるじゃん。だから王子先輩みたいなタイプは興味なさそうって思ってたのに、やっぱり普通の女の子なんだね~ってクラスの人達が言ってたよ。)


確かにお堅いイメージはあるが、憐れな奴だ倖月。知らないところで他のクラスの連中の噂の的になっているとは思いもしないだろう。


(今月に入って王子の写真を計30枚購入しています。)

(え、その声って…潮先輩!?)

(あなた達の会話を聞くつもりは微塵もなかったのですが聞こえたので。)

(じゃあとっとと切って会話は聞かなかったことにしなよぺちゃんこ先輩。)

(おい植松。)


矢張り潮先輩と植松はあまり仲良くないようだ。


(植松さん、貴女こそ授業に集中すべきです。城山君と仲を良くする暇なんて貴女にはない。)

(城山君が一人で寂しいから付き合ってあげてるだけだもん。)

(誰がそんなこと言ったよ。俺はシロスと話してたから寂しくも何ともねーよ。とっとと授業に集中しろ。)

(優しくなぁい!)

(何を思って俺が優しい男だと勘違いしてるんだよ。)

『優しい男であれば王子がいるであろう。』

(えーーーーー。)

(僕が優しい男だと思われているのは意外だったな。)

(あっ王子先輩だ~。)

(王子…貴方まで何をしているんですか。)

(ははっ、町に異変がないか探索しようとしていたら身近な人達の会話が聞こえてきたらついね。四人で仲良く会話をしていたなんてずるいじゃないか。)

(仲良く会話してたわけじゃないですよ。俺は植松にも潮先輩にも授業に集中して欲しいんですけど。)

(やだやだせっかく友達増えたんだからもっと城山君と黒龍と話した~い!)

(私は少々授業を耳にしなくても内容は理解できるので。)

(みんな城山君に興味津々なんだね。城山君は授業聞かなくていいのかい?)

(あ、いや俺は…)

『こやつは先生の命で廊下に立たされておるのだ。』

(え…)


王子先輩が声でも分かるくらいに引いたのが俺には分かった。


(城山君…一体何をしたんですか。)

(ちょっと先生の虫の居所が悪かっただけですよ…。)

(合コン失敗しちゃったからね。)

(教師とあるべき者が合コンだなんて…全く汚らわしい。)

(いいじゃん合コンくらい、先生はそれくらい切羽詰ってるんだよ!ぺちゃんこ先輩だって同じ道を辿りそうなんだから気を付けた方がいいよ!)

(ご心配なく。貴女に心配されてしまった事の方が不安だわ。)

(あの…二人って仲悪いんですか?)



恐らくだが、この会話をしながらも植松も潮先輩も見えない相手を睨み付けているに違いない。いや、植松の場合は睨むと言うよりは睨み付ける潮先輩を想像して笑っていそうか。



(私は仲良くしたいと思ってるのに、ぺちゃんこ先輩が冷たいの!)

(私は植松さんと仲良くする利益が特にありませんので。)

(ほーらまたそんなこと言う!城山君城山君、ぺちゃんこ先輩って利益があるかないかでしか行動出来ない可哀想な人なんだよ!)

(損得勘定で動く事が悪いとでも?)

(つまんない!)

(つまんないって植松、お前な……。)

(つまらないのなら関わらなくて結構。貴女の感情的な性格には付き合いきれません。)

(そんなんだから友達出来ないんだよ~クラスでも浮いてるんだからもうちょっと人と仲良くする努力した方がいいよ!)


仮にも潮先輩は植松の先輩で、植松は一年で潮先輩は三年だ。

かろうじで先輩とつけているだけまだマシなんだろうけど、この態度のでかさと言い口の利き方といい植松は潮先輩をどう思っているつもりなんだ。


(まあまあ二人とも落ち着いて。僕たちは同じ生徒会じゃないか。生徒会同士が険悪だと他の生徒たちに示しがつかないよ、お互い譲り合う気持ちで接してみてはどうだい?)



王子先輩ナイスアドバイス。


(仲良くしたいって言ってるもん!)

(私に感情的になれとでも?)

(うーん、譲り合う気はなさそうだね。だがあまり人前で言い合いをしてはいけないよ。口で話すと誰が何処で聞いているかわからないからね。)

(植松さんとテレパシーで話す事なんてそう滅多にありませんし、いっそ会話をしないことが良いと私は思いますけど。)

(会話じゃなくて嫌味も言わない様にしないとねぺちゃんこ先輩!)


シロスが呆れたように溜息を吐き、俺も同じようにこの二人が仲良くなること無いだろうなと諦め半分に溜息を吐いた。


(あ、そういえば天堂先輩はこの会話聞いてたりしないんですか?)


とりあえず会話を切り替えよう。いっそのこと会話を聞かない様にしたいが、俺にはこの頭に届く会話を切る方法を知らない。嫌でも届くのならせめて平和な会話をしたい。


(どうかな、確かあさひのクラスは体育じゃなかったかい?)

(ええ。グラウンドでソフトボールをしています。)

(天堂先輩ってソフトボールとかするんですか!?)


全く想像出来ない。ソフトボールを観賞しているイメージなら想像出来るんだけど。


(するに決まってるじゃん、あさひ先輩のこと何だと思ってるさ。)

(いや、なんつうか、お嬢様は運動しないっていうイメージが……。)

(あはは、あさひがお嬢様か。確かにこちらの世界でも不自由な生活はしていないし、あっちの世界ではお嬢様に近いからはずれてはいないね。)

(天界でお嬢様に近い存在って天使とかですか?)


天堂先輩なら天使だと言われても納得が出来る。


(あさひを天使だと思いたい気持ちは分かりますが、天使ではありません。)

(お父さんが神様の宮殿でお仕事してるんだよ!)

『ほう、宮殿でか。』


しばらく黙って話を聞いていたシロスが尖った耳をぴくりと反応させた。


(神様の宮殿に勤めることってすごいんですか?)

(ええ。宮内庁で働くと考えれば組織的にも分かりやすいですよ。)

(え、ええっとすみませんちょっとよく……。)

(あはは、人間界でいう天皇陛下の側近のようなものだよ。とはいっても人間界とは違って神様の住む宮殿には本当にごく一部の者しか入れなくてね。神様の宮殿で働いているという言うだけで天界でも誇り高いものなんだよ。)

(へぇ……あれ?けどシロスお前確か神様に会ってきたって言ってなかったっけ?)

『うむ、簡単に通されたぞ。』

(((神様に会った!?!?)))


植松と潮先輩と王子先輩の驚いた声に、俺とシロスは二人そろって飛び跳ねた。


(シロス、神に会ったというのは本当なのか?)

『うむ。随分と気さくで腹だしい奴であったが神であることは間違いなかった。』

(気さくで腹だたしいってどういうことだよ。)

『あれが天界の長として君臨していると考えると行末が心配になるような奴だった。』

(え?え?天界の神様ってすんっごい厳格で口数少なくて、いかついんじゃないの!?)

(私もそう伺っていましたが…。)

(シロスはもしかしたら弟子に会ったんじゃないかい?神の弟子神は随分と気さくな性格だと聞いたことがあるよ。)

『そんなわけがない。神は俺にしかと自分が神であると言った。』

(神の弟子って言ったの聞きそびれてたんじゃねーの?)

『そんなわけあるか。』

(うーん、神については僕たちもよくわからなくてね。僕たちは厳格な神だと聞いていたけど、気弱な神だと言う人もいるし、冗談の多い神だと言う人もいる。常に笑みの絶えない神だと言うひともいれば、涙もろい神だとも。)

(うわ……結局神様どんな性格なのかってはっきりとした答えは俺たちじゃわからないってことじゃないですか。)

(そのようですね……あさひもお父様から神が厳格な性格であると聞いてはいたものの、たとえ家族とはいえ宮殿の話はしてはいけないようですし、小さい頃に聞いただけなので子供だと思い適当に言っただけかもしれません。)

(え~私の中で神様って近寄りがたい素敵なダンディなイメージしてたのに~!)

『ふむう……?』


シロスは不思議そうな顔をして神様に会った時のことを思い出しているようだった。それにしても神様に会うってそんなにすごい事なのか?赤山さん達はそこまで驚いてなかったのに。


(あの、その神様って──)

(王子先輩!)


俺のテレパシーを遮ったのは植松で、しかも先ほどとは全く異なる真面目な声で王子先輩を呼んだ。


(ああ、また彼らだ。近くにいるね…。)

(狙いは城山君…ですね。)

(え?あの一体何が──)

(敵だよ城山君!)

「敵!?」


思わず声を上げてしまい、口を押えた。

同時に教室に扉が勢いよく、開き、般若のような顔をした先生が俺を睨みつけた。しまったと思ってももう遅い。


「城山君今のはなにかしら…?」

「え?あぁ~いやえっと……何の話ですか?」


しらばっくれようと思ってはみたものの、ずかずかが歩み寄ってくる先生は今にも俺に食い掛かりそうだ。


「敵、ですって?もしかして城山君、立ったまま夢でも見ていたのかしら……?」

「やだな、そんなわけないじゃないですか。隣のクラスで敵って言ってまたよ。」


植松たちの声は聞こえなくなってしまった。

シロスも俺を見下ろした後、スッと天井を通り抜けて行き姿を消す。

何がどうなっているんだ。無言で去っていくなんてひどいじゃないか。何か一言くらい言ってけよ。テレパシーを飛ばそうとするが、視界を遮るように先生が現れ再び現実に引き戻された。


「城山君、天井に何かいるのかしら?」


わなわなと震えている辺り、俺の態度がよほど気に触れたらしい。

正直先生どころではないのだが、これはこれで不味い。


「いえ、特に何もないです。」

「ああそう。それで?立ったまま寝るのはどういうつもりなのかしら……?」

「いやだから寝てないですって。隣のクラスの声が聞こえただけですよ。」


気になる。どうなっているのか気になる。


(植松、おい植松!聞こえないのか!?)


先生が目の前で何か言っているが、俺は自分の身の安全の方が大事だ。

俺を狙っていると言ってた連中が学校に入ってきたのか?学校は安全じゃなかったのか?

植松からの返事はない。


(潮先輩、王子先輩、シロス……!誰でもいいから返事してくれ!)


返事を聞く暇もないほど切羽詰まった状態なのか?


「城山君聞いているの!?」

「ぅわっ、は、はい聞いてますすんません!」


集中したいのに先生が居ると集中が途切れてしまう。

先生の怒りに燃えた瞳が俺を捕えた。


「授業中に眠たくなるほど家で勉強をしているのならいいのよ。でももし遊んでいるのなら……。」


別に遊びも勉強もしちゃいないが、言えるとすれば昨日から突然現実からかけ離れた生活を送り始めたことだ。

勿論そんなこと先生に言ったって意味がない。


「べ、勉強ですよ勉強。期末近いし。」

「そう、そう……そうなのね?勉強疲れなのね……?」


先生はメラメラと目に炎を焚き顔をにやつかせた。


「城山君の期末試験が先生、とっても楽しみだわ。」

「あ、あー……ははっ、頑張ります。」

「もし良い点取れなかったら……。」

「とれなかったら?」


何を言われるか分からないが、悪いことには違いない。

すう、と息を吸ってから止めると


「2学期から校門掃除を毎日させますからね!!」


唾を飛び散らせながら怒鳴られた。


「いいですか!?!?」

「は、はいっ!!」


こりゃ男も尻尾撒いて逃げる。鬼かよ。

フン、と鼻を鳴らした後教室に戻る先生。

教室に入った途端「何が可笑しいのあなたたちも廊下に立ちたい!?」と火を飛ばしていたので、クラスの連中から後々からかわれるのも目に見えた。

やらかしてしまったが、これでようやっと意識が集中できる。


(シロス、植松、聞こえるか?)


返事は来ない。


(王子先輩、潮先輩。)


二人とも返事がこない。

一体何が起こってんだ。


(天堂先輩……は、流石に気付くわけないか。)


駄目もとで呼びかけてみたが、返事はこない。

授業が終われば植松に直接話しかけれる。だが、教室の時計を覗き見てあと20分もあると分かり落胆した。


(アキラ、ナーク。)

(赤山さん、リリーさん。)


誰からも返ってこない返事に、不安ばかりが募る。

試しに右手を上げて浄化球を作ってみたが、さっきよりもふにゃふにゃとしたらマシュマロのような球しか作れなかった。

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