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キミと見た世界  作者: 岩永幸
第一章
11/12

11.王子先輩と内緒話

SHRが終わり、担任が教室を出ていくとクラスの連中が一斉に立ち上がって俺の元へと集まってきた。朝の出来事は何事かと詰め寄ってくるクラスメイト。植松のことを聞いてくる奴もいるが、圧倒的に生徒会と何を話したのか、何故呼ばれたのかと聞いてくる奴が多い。と、そこまでは分かるのだが実際一人一人が何を言っているかは聖徳太子じゃあるまいし分かるわけがない。俺のちょっと待っての声なんて聞きもせずああだこうだと質問だけを飛ばしてくるクラスメイト。


「お前たち揃って言うから何言ってんのかわかんねぇよ!」


この主張をしても尚、じゃあ俺がじゃあ俺がと、結局変わらない状況へと陥るのだから飽きれる。


『樹。』


そんな中、シロスが声を掛けてきた。シロスは教室の天井をぐるぐると回っていて、俺が顔を上げると顎で下を指した。その先には、中でも一番食いついてきそうなシリが机に突っ伏していた。

そうか、ネコルメの事件を知ったな。

立ち上がろうとするとクラスメイトに掴まれ逃げるなと言われた。別に逃げるつもりは無いが、この必死そうな顔を見る限りよほど生徒会の事が気になるんだろう。だが、どう説明しようか。

”俺には守護神が居て、生徒会の人達も居て人間界を守るための修行を受けさせてもらいます”って?正直に話して逆に本当の事を言えと怒られるパターンだ。

こいつらがしっくりくる理由で且つ、今後も生徒会に出入りしやすい上手い話……。


「俺さ……隣のクラスの植松と実は親戚なんだよ。」

「そうなの?」

「そうそう。植松は天堂先輩と知り合いらしくてさ、今あいつ生徒会の手伝いしてて……人手が足りないから親戚の俺が手伝うようにって親から言われたんだよ。」


我ながら中々ナイスだ。


「けど、植松が親戚だなんてお前一言も言ってなかったよな?」

「それはーその……ああそうだ、あれだよ。何年も会ってなかったからさ、気付いたのもほんと最近だったんだよ。小さい頃会ったっきりだったからさー女って変わるもんだよなぁ。ハハッ。」


クラスがシンとなった。

流石に苦しかったか…ていうか嘘バレバレだったか!?静寂した教室内に俺の緊張が走ったのは、ほんの一瞬のことだった。


「なぁんだそうだったのかよー!だったら早く言えよなー!」

「あーあー!俺も生徒会の親戚とか居たらよかったのになー。」

「つうか親戚だからって生徒会室に出入りできるとか羨ましすぎ!生徒会室ってどんなんだった?」


い、いけた……。どっとわき上がる明るい声にホッとした。

早くシリのところへ行きたいが、生徒会に興味津々のクラスメイトは俺を離そうとしてくれない。中はすごくきれいだったとか、天堂先輩は本当にきれいだったとか、気付けば女子も数人近寄ってきていて、王子先輩のことも合わせてイケメンだったとか優しかったとか言うとキャーキャー盛り上がり始めた。

早く逃げ出したいし、シリと話したいのだが……ふとシリへと目を向けると、シロスが顎先をちょこんとシリの机の角に乗せシリを見下ろしていた。俺の代わり慰めてくれているつもりなのかもしれないが、シロスはシリには見えないし気配も感じないだろう。その好意だけは買おうと感謝しようとした矢先だった。シロスがぐわっと大きく口を開いて何十本も生えた尖った牙を光らせシリを飲み込もうとしたのだ。


「どおおおおおい!」


思わず叫んでしまった。

周りが肩を跳ね上げ黙り、俺を見る。


「え?ど、どうしたの城山君……?」


し、しまった……。

シロスは欠伸をしただけのようで、むにゃむにゃと閉じた口を動かしながら俺を見た。


「え、えっとぉ……。」


見えない龍を止めようとしましたなんて言えるわけがない。まずい、人に見えないものが見えるってめんどくせぇ……じゃなくて、どうすればいいんだ。何人もの目が集中する。そりゃそうだ、盛り上がってた矢先に突然違う方向向いて叫んだら誰だって固まるだろ、俺だってそうだ。だが変人扱いだけはされたくない。切り抜けるために、考えろ。考えろ──!!


「……あ、いや……シリの頭に、ハチが降りてきてて、つい大声出しちまった。わ、わりぃな!」

『ふっ、俺が人間を食うとでも思ったのか馬鹿なやつめ。』

(紛らわしいことしてんじゃねぇよ!!)


シロスは口をむにゃむにゃとさせたまま鼻先で笑った。


「キャー!ほんとだ!本当にハチがいる!やだぁこっちこないで!」


シロスを睨み付けていた俺を引き戻したのはクラスメイトの叫び声で、咄嗟に居もしない蜂を口に出したが視線の先は大きな蜂がクラスメイトの付近を飛んでいた。蜂は下降して俺たちの目の高さまでくると、女子は悲鳴を上げて教室の隅まで逃げて行った。男子は女子ほどの逃げ方はしていないが、蜂から遠ざかり近くのノートを振り回して蜂を追い出そうと試みるが、今度は天井まで上昇し誰も手が出せなくなってしまった。


「窓を開けて!自分から逃げるかもしれないわ。」


遠くから指示を出したのは倖月だった。数名の女子に抱き付かれ、教室の隅から窓を指差した。倖月の言葉に窓の近くに居た男子が教室の窓を全て全開にしたが、蜂は天井の蛍光灯の周りを飛び回り、雨の降る外へと出る気配は無い。


「全然動かねーじゃん。」

「天井いるしほっといていいんじゃね?そのうち出ていくっしょ。」


男子は早くもどうでもよくなってきたのか、蜂を見上げていた頭を下ろしノートも机へと置く。


「えーやだ怖いじゃん!また降りて来たらどうするの!?」

「外出してよ男子!」


女子は蜂が居なくならない限りは安心できないのか、教室の隅で訴える。倖月も頷いていた。女子の声に、男子は面倒そうな顔をして無視をする奴らもいれば、女子に良い顔を見せたいのか、それとも優しいのか……定かではないがロッカーから箒を取り出し蜂に立ち向かう奴らと、それを傍観する奴らに分離した。俺も傍観する位置にいたのだが、この騒ぎに身動き一つ取らず突っ伏したままのシリを見てチャンスだと思い近づいた。


「シリ、お前……大丈夫か?」


肩に手を置くと、ゆっくりと首を左右へと振って大丈夫ではないことを訴えてきた。


「俺もさ、朝ニュース見て知って驚いたよ。犯人まだ見つかってないんだってな。」

「…………。」


今度は首一つ動かさなかった。

思っていたよりもダメージは大きいらしい。ポスターを剥がされた時は大暴れをして怒りを露わにしていたが、口を開きたくないほど落ち込むとは分かりやすい奴だ。分かりやすいだけに、落ち込み具合はよくわかるからどうしたもんだかな。


「ネコルメ、どうなっちまうんだろうな。」


やはり解散になるのだろうか。


「ネコルメが無くなったら俺は生きていく意味がない。」


肩から手を離したタイミングで、突っ伏したままだったせいかこもっていたもののシリが嘆いた。そして、肩から薄らを黒いモヤが見え始め、目を疑った。ゆらゆらと肩だけじゃなく体全体から出ている黒いモヤ。これは一体なんだ。


「シリ……お前、なんか……、」

「犯人見つけて死刑にしてほしい。」


変なの出てるぞ、と言いそうになったが多分これは……俺にしか見えてないものな気がした。シロスを見ると怖い顔が目を細めて更に怖い顔へとなっており、俺の横へと泳いで来た。


『負のオーラだ。絶望や犯人への強い恨み殺意が込められているぞ。』

(これが……まあ見るからによろしくはない色してるから分かりやすいけど……。つか、これどうしたらいいんだよ。シリにどう接したらいいんだ?)

『わからん。今までのお前ならどうするかを考えろ。』


今までの俺なら……って、結構突き放す言い方してくれるもんだ。


「ミャーコがいないネコルメはネコルメじゃねぇ……でも解散はしてほしくねぇ。」


シリが呟く度に、黒いオーラが増してくる。触れていいものなのか、近づいて良いものなのか分からない。


「元気出せよ、シリ。」


試しに再度肩に手を置くと、オーラは手を避ける様に横へとずれたが、今度は俺の手も巻き込んで黒いオーラに包まれそうになったので咄嗟に手を引いた。胸がざわつくような、背筋がぞっとするような感覚もあり、これは間違いなく触れてはいけないものだと判断した。


「悲しくないのかよ樹!ミャーコが……ミャーコが殺されちまったんだぞ!?」

「うわっ。」


椅子を飛ばす程勢いよく立ち上がったシリは怒鳴り声をあげた。 顔は涙と鼻水でグジョグジョで、心なしかやつれているようにも見える。シリの怒鳴り声で蜂に集中していたクラスメイトの大半がシリの泣き顔に視線を集め驚いた表情を浮かべた。


「お、おいそんな大声出すなよ。」

「俺にとってネコルメは命だ、命の灯だったんだ!その灯が消えかけた、いやもうほぼ消えてる!灯が消えれば俺は死んだも同然なんだ!」

「わかったよわかった、ていうか分かってる!お前がネコルメを好きだったのは分かってるけどお前が死んだところでミャーコは戻ってこないだろ。」


そう言うと、シリの目に涙がいっぱいに浮かび上がりすぐに頬へと流れ落ちた。鼻水は垂れるわ知ってからずっと泣きづけているのか瞼は腫れ上がっているわ、鼻は真っ赤だわで随分と酷い顔になっているが、泣き面を見てこれ以上は何も言えなかった。


「ぐず、わ、わがっでるよ……!ミャーコはもう、いないっでえぇ……!」


俺もネコルメは好きだ。事件を聞いてショックだった。シリがネコルメを好きだったのも知っていたが、正直俺よりも好きというところまでは理解していたが、幅的には一歩分くらいの差しか無いと思っていた。好きは好きでも、泣き崩れる程好きになっていたなんて知らなかったんだ。


「悪かった。そんなに泣くなよ……。」


俺には恐らく、泣き崩れる程好きな芸能人はいないだろう。好きな俳優やお笑い芸人はいるが、亡くなったところできっと今回の様に驚いて……それからショックを受けているだけだ。だからこそ、どう慰めていいのか分からない。クラスメイトもシリへ掛ける言葉は無く、内容を察したのか憐みの眼差しを向けているだけで、その眼差しも蜂が再び下降してきたことで叫び声へと変わった。

ぐずぐずと人目も気にせず涙と鼻水を流すシリに俺が出来ることは、黒いオーラに恐怖を抱きながらも保健室に行って休もうと誘うことだけだった。

この状態で授業を受けれるとも思えないし、居たとしても先生に突っ込まれて怒られるが落ちだ。シリも自分で勉強に集中出来ない事を分かっていたのか、誘うと頷き、俺が背中を支えるとゆっくりと歩き出した。


「犯人は絶対警察が見るつけるだろうし、制裁もしっかりと与えるだろうから変なこと考えるなよ。」

「…………。」


先ほどから少しずつ濃くなっているオーラが気になって仕方がない。

このままこの黒いオーラに飲み込まれてしまったら、シリはどうなってしまうんだろうか。無言で俯き、足だけを動かすシリ。

階段を降りて保健室に入ると、出迎えてくれたのは先生と…。


「あれ、王子先輩。」


王子先輩だった。


「城山君じゃないか。どうしたんだい?」

「こいつが具合悪いっていうんで、先生……少し休ませてもらってもいいですか?」

「ええいいわよ。そっちのベッドを使って頂戴。」


先生が指さすベッドへシリがふらふらと歩いていく一方、俺は王子先輩の方へと向かった。


「先輩はどうしたんですか?具合悪いんですか?」

「いいや。先生が留守の間ここを任されてね。それじゃあ先生、あとは僕が居るので行ってきてください。」

「ごめんね王子君。頼んだわ。」

「はい。」


先生は王子先輩に頭を下げるとバッグを持って外へと出て行った。

扉が閉まると王子先輩は俺を見下ろし、ふっと肩を竦めた。


「保健委員でね。緊急の時はこうしてたまに任せられるんだ。」

「授業でなくて大丈夫なんですか?」

「ああ。教師公認だ。勿論、テストの結果が良くないと怒られてしまうけどね。」


冗談染みて笑う王子先輩だが、俺でも知っている。天堂先輩、潮先輩、王子先輩が毎回テストでトップ3を争っている程の成績優秀者であることを。


「先輩なら大丈夫ですよ。」

「はは。城山君にそう言われると、今回のテストはより一層気合入れないといけないな。」


爽やかなこのプリンススマイルで何人の生徒に鼻血を出させたことやら。

王子先輩は棚からノートを取り出すと、それを俺に手渡した。


「今連れてきた友達のクラスと名前と、ここに来た時間を書いていってくれ。」

「はい。」


テーブルに置かれたペンを借りてノートに記入し始めると、王子先輩の声…いや、テレパシーが届く。


(城山君。君は今から何も返事をしてはいけない。)


何事かと顔を上げると、王子先輩はシー、と内緒話をするように指先を口元に当てた。


(君の声はあさひ達に丸聞えだ。さっきのお友達についての会話も聞かせてもらったよ。僕の言葉に理解したら首を頷かせて、分からなかった首を横に振るんだ。いいかい?)


頷いたが、疑問だ。

俺の声がだだ漏れであることは分かっているが、王子先輩は俺との会話を天堂先輩たちに知られたくないということなのか?

男同士の会話なんてエロイ話しか想像つかないが、王子先輩がそんな話をわざわざ俺相手にしてくるとは思えない。


(シロスもだ。僕の言葉に反応してはいけないよ。)


俺の肩に顎を乗せたシロスも頷き、俺たちは王子先輩を黙った見つめた。


(今君たちが見た黒いオーラはシロスの言った通り邪念が込められているものだ。ああいったオーラを放つ人間に魔界族は寄ってきて利用する。今は僕たちが近くにいるからそう簡単に手出しは出来ないだろうけれど、彼が僕たちから離れたら危ない。彼は城山君の友達なんだろ?)


頷くと、王子先輩も頷いた。


(幸いな事に君は守備部隊だ。守りに特化した力を身に着ければ友達を守ることが出来る。だけどシロスは攻撃型だ。いいかい、あさひ達がいると言えないからよく覚えておくんだ。シロスは守備部隊に属するような龍ではない。)


シロスも守備部隊には納得していない。俺もシロスの性格だけを考えれば攻撃を仕掛けていく先攻部隊が合うと思うが、前世のことを考えればシロスは俺を守っていた。となれば守備でも十分いけるとは思うんだが、王子先輩までも守備は合わないと言うのか。なのに何故俺は守備部隊だと言われたんだろう。


(だが城山君は守備部隊で合っている。スピリアは君もシロスも見た上で診断したから、君はとにかく守備の能力を学び、習得して力を発揮できるその時まではシロスに頼むしかない。僕たちが居る時はサポートするけれど、四六時中共には出来ないからね…昨日の間に部隊に所属するなんて僕たちも計算外だったからとにかく今は、正直なところ自分の身を守ることに専念してもらいたい。)


口を開きかけたが、シリが起きているかもしれないせいか、王子先輩の眼差しが強くなり開きかけた口を閉ざした。


(だが君は友達も守りたいんだろう。シロス、君は盾ではなく剣だ。盾は必ずやってくるから城山君とお友達を君の剣で守るんだ。城山君自身が盾になるしかないこの期間は、細心の注意を払ってくれ。戦い方は昨日既に聞いてきてるようだし、シロスは聞いた通りのことを実行するように。城山君は、今から僕の言った通りにしてくれ。)


王子先輩の言葉は色々と引っ掛かる言葉ばかりだ。俺は守備部隊だけどシロスは先攻部隊?シロスは本来盾であるべきだけど剣で、盾はやってくるってどういうことだ?シロスに守備は出来ないということか?わからない。


(右手の指先に気持ちを集中させて。白い玉、堅くて頑丈な白い玉を出すようなイメージで…さあほら、やってごらん。)


王子先輩に言われた通りに右手を見つめて、力を込めて見ると…白い玉ではないが白いオーラが掌の上でわずかに渦巻き始めた。なんだこれ。王子先輩を見ると、先輩はうん、と頷く。


(そうだその調子。さあ、白い玉を思い浮かべて。堅くて頑丈なものだよ。水晶を見たことがあるかい?そんなイメージでもいい。)


スピリアさんが持っていたような水晶か。思い浮かべるとオーラがあるまい円球が出来上がり始めた。まだふにゃふにゃとしているが。


(いいぞ、筋が良い。さあもっと力を込めて。)


指先に集中すると、ゴム製のボールのような球が出来た。柔らかそうで、先輩と言う硬いものには程遠いが白い玉が出来た。


(…うん、初めてにしては上出来だ。いいかい、襲い掛かれた時はその球を相手にぶつけるんだ。今城山君がしたことはどの部隊に置いても基礎となるものだ。もしも球が作れなかった時、右手のオーラを纏った手で相手に殴り掛かれ。お友達が持っているオーラが異常だと感じた時は、球をぶつけるかオーラを纏った手で肩、首の裏、それか頭のてっぺんに触れてあげなさい。その場しのぎくらいにはなる。球を持ったまま彼の傍へ行ってみよう。)


王子先輩がシリのベッドへと向かい、俺とシロスも続く。

右手に浮かぶ白い球…こんなもんが俺の手から生まれるなんて思いもしなかった。

カーテンを開けるとシリはグーグーと寝息を立てており、王子先輩はシリを見た後俺を見た。


(その球を彼の近くへ。)


言われた通りに白い球をシリに近づけると、黒いオーラが引き寄せられるように白い球へと流れてきた。

白い球はうようよと柔らかそうに揺れながらも黒いオーラを吸収していき、白から黒へとすぐに色が変わった。真っ黒になった球は俺の手の上で砂のように消えてなくなり、シリが身に纏っていた黒いオーラは先ほどよりも少しだけ薄くなる。

王子先輩を見上げると、唇を優しく緩ませ俺の肩を叩いた。


(良くやったね。これが浄化だ。)


これが、浄化…。

何も乗っていない右手を見つめていると、王子先輩の手の温かさが肩から伝わってきて、再び王子先輩を見上げた。


(暇がある時に球を作る練習はしておくといいよ。これは慣れだからね。練習を重ねていくことでちゃんとした浄化球を作れるようになる。)


返事が出来ないので首を頷かせると、王子先輩はシロスを見上げた。


(君は疑問を抱いていることだろう。)


何の話しだ?

シロスを見上げると、顔を顰めて一度頷いていた。


(神から聞いているだろうけれど、君の力は強大だ。だが君の力が発揮できるのは城山君が居てこそなんだ。城山君はまだ幼い。剣となり守ることは出来るけれど、城山君に負担が掛かるということを忘れないでおくんだよ。)


シロスはもう一度頷いた。

二人の会話はどうやら成立しているようだが、俺にとっては何のこっちゃだ。シロスは強いけど、強くても俺に負担が掛かるってどういう意味だ?

王子先輩をくるりと俺の方へと顔を向けると、優しく微笑んだ。


(守護神は主のエネルギーを使って相手に挑むんだ。シロスは強大な力を持っている。)


そういえば赤山さん達がそんなことを言っていたような気がしないこともないが…あの時は話半分だったからな。


(シロスが思うが儘に力を使えばその分城山君のエネルギーが消耗する。本来は主がエネルギーを左右させ守護神が役目を果たすんだけど、君たちの場合は逆だね。シロスが城山君のエネルギーを操作することになる。)


シロスはふん、と鼻を鳴らし俺を見た。

なんかむかつくやつだな。


(今は、だけどね。)


王子先輩の言葉からするに、俺が力をつければシロスを操作できるということだ。

どうやって力をつけるのかは分からないけれど、それはまた後日会話が出来る時にでも聞き出すかリリーさんにでも聞くとしよう。

王子先輩はベッドから離れ、それに着いていくと椅子を勧められたので腰を掛けようとした。が、王子先輩がはっと窓の方向へと顔を向け、俺もそれにつられた。

だが何も言えない。王子先輩は目を細めて窓の外を見ているが、窓の外はどんよりとした雲に、霧雨が降っているだけだ。


「あの、せんぱ──」

「城山君、チームの子と連絡はとれたのかい?」


王子先輩は小さな声で訪ねた。


「いえ、どこに居るのかすらも…。」

「……。」


変わらず窓の外を見る王子先輩に、シロスも不思議そうにしていた。

それから少しして俺を見下ろすと、両肩を掴んで耳打ちをされる。


「早速君に目を付けた連中がいる。生憎僕たちは放課後任務があってすぐに出なくはならない。一刻も早くチームの子と会うんだ。いいね。」

「いや、でも…どうやって会っていいかわからないんですよ。」

「校門の近くで待っていると良い。彼の方から来てくれる。」

「アキラが?俺を見つけてくれたんですか?」

「………そうだね、見つけてくれると信じてる。」


信じてるってことはあいつも俺をまだ探してるってことだよな、大丈夫なのかそれ。


「とにかく放課後は校門に立っていなさい。学校から離れてはいけないよ。」

「わかりました。」


王子先輩は離れた後にっこりとほほ笑み、先ほどの深刻そうな表情はそこにはもうなかった。


「またお昼休みに。さあ、もう行きなさい。」

「はい。あ、シリのことお願いします。あいつ好きなアイドルが亡くなって撃沈してるんで起きてこないかもしれません……。」

「心の傷は簡単には癒せないからね。ゆっくり休ませておくよ。」

「ありがとうございます。」


目覚めて王子先輩がいたらシリのやつ驚くに違いない。教室に戻ってきた時は、あの王子先輩と会話したんだって飛び跳ねてくればいいんだが…ミャーコの傷が少しでも癒えたらと思うが、ここまで落胆したシリがそう簡単に復活するかどうかなんて俺には分からない。

王子先輩に頭を下げ、滑りの良い引き戸を開き保健室を後にすると授業開始のチャイムが響いた。色々と考えたいことがあったのに、今は先生とどっちが先に教室に着くかで頭の中が埋め尽くされ、階段を三段飛ばしで駆け上がった。

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