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死んでるから。

作者: 入江 陸
掲載日:2015/03/10

拙い小説を読んでくださってありがとうございます。

遠藤晴香えんどうはるか、お前、死んでるから。」

「は?」




いきなり私の目の前に現れた男はそう言うと、どこかに行こうとする。慌てて男の服を引っ張る。


「ちょっと、え?何?どういうこと!?」

「お前は死んだってこと!離せ!俺は定時だから上がるんだよ。すぐに別の奴が来るから。後の話はそっちに聞け!!」


私の手を外すと男は消えていった。


「定時・・なんだ、それ。・・・・羨ましすぎるぞ、コノヤロウー!!!」


叫んだら、ちょっと落ち着いた。なるほど、私は死んでしまったらしい。私はふわふわと宙に浮いていて足元には倒れている私と騒がしい人だかり。あ、救急車来た。すいませんねー、もう助からないらしいですよ?お手を煩わせて申し訳ない。


うん、あんまり悲壮感がないな、自分。まあ、そんな予感はしてたんだよ、このままじゃ過労死するなって。就職難でやっとありついた仕事。ブラックに分類される会社だった。お金はもらえた。だけど、使ってる暇なんかなかった。休みがなかった。自宅に帰れるなんて月1あれば奇跡だった。やってもやっても終わらない仕事に発狂するか過労死だろうとは思ってた。


両親より先に逝くなんて親不孝でしかないが、家族にお金が残せてよかった。弟、妹たちの学費の足しにはなるだろう。ああ、でも悲しませてしまうことを考えると・・


ぐるぐると回る考えに頭が痛くなってきたころ、さっきの男とは別の男性が現れた。


「遅くなって済みません。遠藤晴香様ですね。」

「はい、そうです。」

「貴方が亡くなられた原因は仕事のし過ぎ。過労ですね」


あー、やっぱりそうですよね。そうだと思ってました。男性は手にしていた「死後の予定フローチャート」という冊子をめくりながら話す。


「えーと。か、かろ、『ろ』だから『わ』より上か。」


あいうえお順か!!しかも『かわ』ってなんだ?死因にそんなのあるのか?


「あ、あったあった。過労、83ページと。」


え?その冊子そんなに厚くないんだけど83ページもあるの?なんてどうでもいいことを思う。


「ええとですね、過労でお亡くなりになった遠藤様には二つ選択肢がありまして、天国に行かれるか、生まれ変わるか、そのどちらかになりますね。」

「よかった。地獄コースとかないんですね。親不孝なのでちょっとその可能性があるかなと思ってました。」

「いえいえ、基本地獄は犯罪者しか行きませんので。それで、どちらになさいますか?」

「あ、あの。天国って具体的に何をすればいいんですか?あなたのような仕事をすればいいんですか?」

「いえ、天国では普通に暮らしていただけますよ。仕事はとくにはないですね。」


仕事をしないで暮らすというのが想像できない。


「あなたは仕事をしているのでは?」

「ああ、僕は天国の住人ではありません。天国と地獄の間。死者を誘導するものが働いている、別の空間に住んでいます。」

「では、私が死んでいると伝えて、定時だから上がるといっていた男性も?」

「そうですね。彼は別の部署のものですが。」


なるほど。別の部署か。


「その彼の部署で働くという選択肢はだめでしょうか?」

「え?あの部署はいわゆる『窓際』ですよ?」

「でも定時であがれるんですよね!!」


そう、私を捕らえてやまない『定時』という誘惑。仕事をしないという天国はちょっと(汗)かといって転生した先でまたまたブラックにつかまったりしたら最悪だ。ならば窓際だろうが、廊下側だろうが関係ない。目の前にある『定時』であがれる職業!これが最善の選択。


まあ、実際に目の前にいる男性は必死な顔でマニュアルをめくっているが。


「『窓際に就職』・・うう、マニュアルに載ってない。上司に指示を仰ぎますので、このままお待ちください。」

「え?ここでですか?」


ここにまたぽつんと宙に浮いてるのはちょっと・・・。


「ああ、このままだと悪霊に捕まってしまいますよね、どうしましょう。」

「悪霊に捕まっちゃうんですか!?え、ちょっと何とかしてくださいよ」

「そうおっしゃるなら二択のどちらかを選んでくださいよ!」


え?逆ギレ?仕方がないので、もう少し詳しく話を聞く。この男性がいれば悪霊は寄ってこないが、このまま私が一人でここにとどまると悪霊に糧にされる。上司に指示を仰ぐためには男性はここから職場に戻らなければならない。そういう話らしい。


「あの、私もあなたに付いていってはいけないんですか?」

「いえ、別について来てもかまいませんが、面白い職場ではありませんよ?」


誰が面白さを求めた!私は安全を求めている!!やっぱり働くならこのマニュアル君とは別の部署がいい。イライラする。最初に会ったイラッとする男の方がましだと思う。イライラの長さ的に。


「連れていってください。」


ニッコリと笑顔を作ってイライラを出さないようにした。まあ、そのあとマニュアル君がタイムロスだ。ノルマが、出世がとかグチグチぶつぶつ言ってたので、作り笑顔が引きつっていたのは仕方がないと思う。



・・・・・・・



マニュアル君の上司はあっさり私の要望を聞いてくれた。天国行きや転生が選べる人物なら希望に沿った道を選べるのだそうだ。例えば、子孫の守護霊になりたいとか、そういう希望も叶う。それは初歩的な話で、マニュアルに載せるほどのことではないとか。しかも、私を残して現世を離れようとしたことも減点になったらしく、マニュアル君の昇格はおあずけ。カワイソウニw



『窓際』と呼ばれる『通告課』に配属されると、彼と課長の二人だけだった。私が三人目になるらしい。


「遠藤晴香、まさかここに来るとは思わなかった。あの時は悪かったな。あの坊主君遅れてきたんだって?その間、悪霊に捕まらなくてよかった。」


坊主君てマニュアル君のことかな。やっぱり彼が消えてからマニュアル君が来るまでって悪霊に捕まる可能性があったわけだ。マニュアル君の話を聞いてて、あれ?じゃあさっきまで私アブなかったんじゃない?って思ったのは間違いじゃなかったんだ。



彼は須賀鉄平すがてっぺいと名乗った。須賀さんの話によると、私たち職員が現世にいる時間は限られているらしい。天国で暮らしている人たちの幸せ度を使って現世に行くので、死を知らせる通知課は短時間でその仕事を終わらせなければならない。その後の『案内課』(マニュアル君在籍)に時間を多く残すためだそうだ。なるほど、だから初対面の時にあんな言い捨てる感じだったのか。焦ってたんだなあ。


「何で遠藤は通知課で働きたいと思ったんだ?」

「定時で上がれるってなんて素敵な職場なんだろうって思ったからだよ。上がれるっていうより上がらなきゃならないみたいだけど。それに、ありがたかったんだよ。死んだって教えてもらえて。あのまま須賀さんが来てくれなきゃ仕事に行ってたもん。生きてるのか死んでるのか毎日あいまいだったし。死んでも働けっていう会社だったし。」

「大変だったんだな、遠藤。」

「うん、でもさ。だからこそ、この通知課の仕事って大事だと思うんだよ。マニュアル君はあんまりそう思ってなかったみたいだけど、いきなり案内課に会うよりも死んだってわかってから案内課に会った方がいいと思うんだよね。」

「マニュアル君(笑)ナイスな呼び名だな。」


須賀さんはしばらく笑った後、


「俺も死んだときそう思ったんだ。今は転生しちまった先輩が来てくれたんだけど、死者に心の準備をさせることが俺たちの仕事だって言ってた。」


と同意してくれた。


「これからよろしくな、遠藤。」

「こちらこそよろしくお願いします。須賀先輩。」


そんなやり取りをにこにこ笑っている課長。うん、いい雰囲気。生前と違って働きやすい職場で自然と笑顔が出てくる。


第二の人生、頑張るぞ。

ありがとうございました。


4/3に文章がおかしなところ、2との矛盾点を変更しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 是非! 連載でお願いしたいくらいの 作品です! [一言] 初めまして(*^^*) 本庄です。ハマりました! 本当にスラスラとストレス無く 読みやすくてとても良いと思いました(≧∀≦) …
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