終章 ~ギルティハーツ~
「レイア、昼食に行きましょう」
「ん? あぁ、行くか」
僕は共に部屋に居た氷華に誘われ昼食に向かうことにした。
あの戦いから数週間が経過しようとしていた。ボク達はあの激闘が夢であったかのように平穏な日々を送っている。何故そんな暮らしをしているかといえば長い話になる。
三体の神が復活した後、あの世界に残っていた僕達を含める施設の人間達は孤白の能力によって別の世界へと飛ばされた。その別の世界というのも彼の能力で作られたものなのだが、様子は戦前の現代と全く同じだった。
孤白は第三次世界大戦が開戦する前にこの別の世界、複製世界を創り上げたらしい。そして開戦直前に戦争に関わらない一般市民をこの世界へと移したというのだ。その際市民の記憶は消去され、今は地上で平穏に暮らしているらしい。
施設の人間は黒刀を止められる可能性を有していたという理由もあるが、彼の能力が一般人を移した時点で限界に達してしまったことが一番の要因だったらしい。
ただ《刻鴉》が一堂に会したことによって回復し、再び能力を使用できたらしい。同じ祖を持つ能力者が集まれば力が戻るそうだ。
そんな複製世界でも戦前と全く同じというわけではなく、いくつもの相違点がある。
その最たるものは僕達の暮らしだ。僕達は相変わらず三つの施設で暮らしている。
しかし複製世界のそれらは隔離施設ではなく一つの街として機能していた。あらゆる施設が集まり何の不自由も無い、むしろ地上よりも快適かも知れない。
その上三つの街は孤白によって連結されており、扉一つ潜るだけで自由に行き来出来るようになっている。
こんな世界を作り出してしまう孤白は人間とはかけ離れた存在なのかもしれない。
僕と氷華が地の果てにある超巨大フードーコートにたどり着くと、その中央に見知った顔がいくつも並んでいた。
「よ! レイア、氷華」
「遅いよレイレイ、ひょーちゃん」
真っ先に声をかけてきたのは奏刃と美來だった。
「よぉ、お二人さん。またデートか?」
次いで口を開いたのは叛燐だった。ククッと喉を鳴らして笑いながら彼はそんなことを言った。
「「違う」」
僕と氷華の声が完璧に重なった。
「仲良いじゃねぇか」
ニヤニヤしてそんなことを言ってくる叛燐を無視して僕達はソファーに腰を降ろした。
「ねぇ大牙。これ全部食べていいの?」
そんな中、叛燐の横からひょこっと顔を出した餓島がテーブル上の料理を見て涎を垂らしていた。
「あぁ、いいぜ」
「やった!」
そこ返答を皮切りに餓島は途轍もない速度で食事を開始した。
僕達の隣のテーブルには緋ノ都、鏡、咲神、刺城の年長組が座っていた。咲神がことあるごとに緋ノ都に抱きつき、鏡がそれを見て少し嫌そうな顔をしていた。刺城はそれを見て柔らかな微笑みを浮かべている。彼女はこちらの世界に来てから不気味さが殆ど無くなったように感じられる。
「あれ? レイア君に刻桜さん。来てたんだ」
そう言いながら現れたのは孤白だった。彼は机を挟んだ僕の正面の椅子に座った。
「……」
こいつを見ると思い出す。
この平穏な日常はいつまでも続くものでは無い幻想だということを。
彼曰く、この複製世界はそう長くは持たないらしい。
そのためまた近いうちに再び元の世界へと赴き、黒刀や亜空間達、三体の神と戦わなければならない。
その時は必ず勝利して世界を取り戻し、この日常を元の世界で永遠のものにする。僕達は心のどこかでそう考えながら暮らしている。
今度の戦いは以前と比較にならないほど激化するはずだ。
死傷者も数多く出てしまうだろう。
しかしそれでも僕達は立ち向かわなければならない。
世界を取り戻すために。
平穏をこの手にするために。
それを邪魔するものがあるのなら僕は必ず―――
全て壊してやる。