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Guilty Hearts  作者: 夏芽 悠灯
第1章 開闢~The creation of the universe~
14/24

天運 ~アヴリオ・スフェラ~

 どれだけの時間、どれほどの距離を上昇しているのだろうか。地の果ては地下数キロメートルに位置するため、地上まで相当の距離があるのだろう。

 そんなことを考えていると突然エレベーターが上昇をやめた。地上に到着したようだ。

 この扉が開けば約十年ぶりの地上だ。しかしそこには昔とは全く別の世界が広がっているのだろう。

 僕は意を決し、扉へと一歩踏み出す。

 扉が開き、僕の眼前に新たなる世界が広がった。

「ッ……!!」

 目の前に広がった光景はこの世のものとは思えなかった。

 夜を思わせるほどの曇天、焼き尽くされた大地、崩壊した建造物群。空間が死の気配や絶望の匂いを内包している。

 これが十年前まで僕が生きていた世界なのか。そう思えるほどこの世界は混沌としている。

「……?」

 そんな光景の中に蠢く黒い影がいくつも混在していた。目を凝らしてみてみるとその影は動物に近い異形の生物だった。

 あれが地の果ての文献に記されていた、第三次世界大戦のため地上に放たれたという生物。

 クローン体の失敗作。成れの果て。

 ―――破獣。

 あの化物がどれほどの力を有しているかわからないため迂闊に遭遇するわけにはいかない。

 しかし僕はそこで重大なことに気が付いてしまう。破獣に遭遇するしないに関わらず、氷華がどの方角にいてどちらへ向かえばいいのか分からないのだ。

 なんて情けのない話だ。僕はそこまで考えなしの行動をするような人間だっただろうか。

 何かがおかしい。氷華のことになると何故か必死になってしまう。

 守らなければ、救わなければ。そんな使命感が僕の胸中にはあるのだ。

 別に恋愛対象として愛してしまっているというわけでも、特段仲が良いわけでもない。

 では何故。考えても考えてもその答えが出ることはなかった。

「うわぁぁぁぁぁ…………」

 突如、僕の思考を打ち砕くようにどこからか悲鳴が聞こえ始めた。

 咄嗟に四方八方を見渡すが人影は見当たらないのだが一向に悲鳴は止まない。

「うわわ! よけてぇ~」

 そのふわふわとした高い声音は頭上から、すなわち空から降り注いできた。

 その声に反応してすぐさま頭上を見上げる。

「なッ!?」

 人間の影。小さめだがそれは少女だからだろう。

「危な~い!!」

「ちょっ……」

 避けろとは言っていたものの、ここで避けたら彼女は確実に地面に叩き付けられて死んでしまうだろう。だからどうにか受け止めようと少女に手をかざす。

 しかしこのまま受け止めたら僕の方が大怪我だ。僕は一瞬で思考し、僕も少女も助かる一つの方法にたどり着いた。

「成功してくれ……!」

 少女が僕の掌の数十センチまで接近した時、彼女の周りに何か球形の透明な膜のらしきものが見て取れた。しかしそれは僕の掌に触れた瞬間、黒く染まりシャボン玉のように割れる。

 直後、左掌に少女が触れた瞬間、僕は膝をたたみ右掌で地面に触れ能力を発動。地面を消滅させて勢いを殺す。

「よしッ……」

 片手にのみ能力を発動させることに成功した。これで僕も少女も無事に、

 ゴンッという鈍い音と共に僕の額に衝撃が走り思考の全てが吹き飛ぶ。

 受け止めたのはいいが勢いが完全には殺し切れていなかったのか、僕と少女は額をぶつけ合う形になってしまったのだ。

「つう……」

「あうぅ……」

 僕と少女は額の痛みに苦悶の声を上げていた。

「あぅ~ だ、大丈夫?」

 両手で額を押さえつつ、少女は心配するように言葉をかけてきた。

「あ、あぁ…… ッ! おま……」

 僕はそんな少女から目を逸らす。

「ん……? うわぁッ! な、なんで!?」

 何故かと言えば少女は上半身裸だったのだ。間抜けな声を上げながらそれに気が付いた少女はすぐさま慎ましい胸を両手で覆い隠した。

「私、服どこかで脱げちゃったのかな……」

 少女は恥じらいながら、不思議そうに呟いた。

「…………!」

 僕は少女が服を着ていない理由が分かってしまった。きっとあの時のことだろう。

 僕が右掌で地面を消滅させた時、左掌は少女に触れていた。その時僕は右掌にだけ能力を発動させたつもりだったのだが、左掌にもほんの少しそれが及んでしまっていたらしい。もしかするとあの膜のようなものが割れた時点で能力が発動してしまっていたのかもしれない。

「悪い……」

 僕はそのことに段々と罪悪感が込み上げてきたため、一言謝罪した。

「え、なんで?」

「いや、お前が服を着ていないのは僕のせいかもしれないんだ」

 そうは言ったものの異能の力と説明しても信じてもらえるかどうか。そこで僕は実際に見せて説明することにした。

「僕には《死滅者デモナスパラミ》っていう……異能があるんだ」

 僕はしゃがみ込んで地面に手を触れながら異能を発動させ、その部分を消滅させて見せた。

 少女はその様子を見て目を見開いていた。

 それもそのはずだ。こんな常軌を逸した力を目の当たりにして驚かない方がおかしい。

「もしかして君は絶異者なの……?」

「!! お前……なんで……」

 僕は少女の口から絶異者という単語が出たことに驚愕した。それと同時に眼前の少女の正体が気になり始めた。

「私はね……」

 少女は胸から手を話して自身のことを語り始めようとした。

「ちょっと待て…… ほら」

 僕はその様子に見兼ねて服の腕の部分を破り、少女に手渡した。

 少女はきょとんとしていたが、僕がジェスチャーをしたことによってその行動の意味を理解したようだった。

「ん……しょ…… もう大丈夫だよ」

 僕が向き直ると先程渡した布切れを胸に巻き終えていた。

 未だに露出度は高いものの先程よりは数段マシになったはずだ。これでようやく少女を直視することが出来る。

「…………」

 先程までは状況が状況であったためよく見ていなかったが、少女は思わず息を呑んでしまうほどの可愛らしい容姿をしていた。小動物のような可愛さというべきか。

 髪は少しウェーブがかった金に近い茶髪で腰まで伸ばしており、頭頂部には猫の耳を思わせる癖がついている。顔は相当に整っていて、芝未色で垂れ気味の大きな双眸は彼女のふわふわとした雰囲気を強めていた。身長も低く、僕が見下ろす形となっている。胸もそれに比例して慎ましく、全くというわけではないがそれほど主張していない。そんな小さな胴から伸びる白く細い腕の先には数珠のようなブレスレットがつけられていた。

「あぅ…… あの、小さくてごめんね…… 」

「? ……! いや、違……」

 僕は一瞬身長のことかと思ったのだが、自分の視線の先にあるものに気が付いてすぐさま否定した。

「ッ……まず着るものを探してみるか。崩壊していても中が無事な建物もあるかもしれないし」

 僕は話題を変えるために頭を掻きながら提案した。ほぼ全ての建物が焼け焦げ、崩壊してしまってはいるが、どこかに服のようなものがあるのではないだろうか。

「う……うん」


 僕達は崩壊した建物の中でまだそれなりに形を保っているものに足を踏み入れた。

 壁や床が焼け焦げているがそれなりにしっかりとしている。

 その建物の一室にあった鉄製の箱の中に数着、漆黒の衣服があった。どこかの国の軍服なのだろうか。それを手に取り、僕と少女は各々その服に着替えた。

 漆黒の軍服は学生のブレザーのような形状で裾が膝裏近くまであり、外套のようでもあった。そんな服を目の前の小さな少女が着るとなかなかに不恰好だ。サイズは一番下を選んだのだが、やはり少し大きめだ。

「ありがとうね」

 少女は向日葵のような満面の笑みで僕にお礼を言ってきた。

「僕が悪かったんだし気にするなよ。……で、お前はなんで空から降ってきたんだ?」

「あ、うん……」

 着慣れない服をその身に纏っているせいか、少女は服のあちこちを見たり触ったりしていた。それも僕の問いによって中断され、顔を上げて説明を始めた。

「私は《空の果て(ウラノス)》で疾患者、ううん。天能者として管理されていたの」

 まぁそれは少女が絶異者という単語を口にしたため、どこかの施設で管理されていたと予想できた。しかし――

「それが何で落ちてくるんだ」

「……今空の果ては外から来た絶異者との戦場になっているの。それで私は何とか逃がしてもらえたんだけど……」 

 外から来た絶異者。もしかするとあいつかもしれない。

「その絶異者、なんて名乗ってた?」

「えーとっ…… 《天空ミーティア》って名乗ってたよ」

 僕の予想は外れた。しかし同時期に二つの収容所に襲撃者が来るものだろうか。

 《亜空間ディメンション》と《天空ミーティア》。

 僕はこの二名の襲撃者の間に何らかの繋がりがあると考えた。

「その人の力は他の絶異者と別次元でみんな次々に殺されちゃった……」

 少女はくりっとした大きな瞳に涙を浮かべながら説明した。

「私は九条さんとお兄ちゃんに何とか逃がしてもらって生き延びてるの……」

「逃がすってどうやって…… まさか飛び降りたのか?」

「うん。空の果てから出入りするには飛行船みたいなものがないと無理だから飛び降りるしかなかったの」

 ありえない。確か空の果ては地上より宇宙の方が近いほどの超高度に存在する。そんなところから生身の人間が飛び降りたら着地以前に温度、気圧などの影響によって死んでしまう。

「うんってお前……」

「あ! もちろんそのまま飛び降りたわけじゃないよ。九条さんの結界とお兄ちゃんの風の膜で落下に耐えられるようにしてもらったの」

 なるほど。その九条さんとやらとこの少女の兄の能力はどんなものかは分からないが、絶異者の力なら不可能を可能にすることが出来る。

「なるほどな……」

 僕は少女の境遇を聞き終え頷いていると、今度は少女が問いかけてきた。

「でも君の掌に触れたら風の膜は大丈夫だったんだけど結界は壊れちゃった。それが君の力なのかな?」

 僕の力は形あるものを全て壊すというものだ。風のように形の無いものは不可能だが、結界のように物質化して内部の人間を守るようなものなら破壊出来るのだろう。

「そうなるな」

 美來は僕の返答に納得し頷いた後、問いかてきた。

「君はどこで管理されていたの?」

「地の果て(タルタロス)だ。でも僕は元々は罪の子として幽閉されていて、天能者だと発覚したのはつい昨日のことだ」

「そんな偶然があるんだね。でも発覚したのが昨日ってことは、君は昨日……」

 少女は目を伏せつつその後の言葉を濁した。君は昨日死んだ、そう言いたかったのだろう

「……! そういえば」

 少女は話題を変えるためか、本当に突然思い立ったのか伏せていた目を僕へと向けてきた。

「お互い自己紹介してなかったね」

 僕も今言われて気が付いた。

 こんな破滅した時代だ。名前などよりも先に互いの境遇が気になってしまったようだ。

「私は天時美來アマトキ ミクル、十六歳で天能者。能力は」

 ドォォォンと突如として少女の言葉を打ち砕くかのような破砕音とともに、僕と少女の傍の壁が外側から破砕された。

 瓦礫が宙を舞う中、僕は咄嗟に天時を抱えて一瞬にして壁側から離れた。

「アァ……」

 破壊された壁から入ってきたのは影のような黒い塊であった。目を凝らしてみると、それは獣のようなシルエットをした異形の生物、破獣だった。この破獣に最も近いのは地球上でいえば虎やチーターのような動物だろう。

「アァァァァ!!」

 壁をぶち破って侵入してきた破獣は僕達の方を向くや、人間の断末魔のような叫びを上げながらこちらに突っ込んできた。天時を降ろし、破獣に対応するべくすぐに臨戦態勢に入った。

 両手を降ろし、異能を発動させる。僕の殺意が掌に集約されていき、まるで猛り狂う炎のように具現化され両掌が赤黒い靄に覆われた。

覇魔黎鴉ハマ レイア、十七歳。同じく天能者だ」

 僕は名を名乗りながら右肘ごと掌を引き、掌底を放つ構えをとった。僕の能力は掌に触れたものを死滅させる。そのため掌で攻撃する掌底が最も有効な攻撃方法だ。

「……消えろッ!」

 僕は虎型の破獣の頭部に狙いを定め、対象を殺し切る全力の掌底を放った。

 命中すれば一撃。しかし僕の掌は虚空を切り裂き、虚しく風音を立てるのみだった。

 僕の掌を躱した破獣は視界右下から牙を剥いて迫ってくる。この体勢ではもう掌は繰り出せない。だったら。

「ッ!!」

 左脚を背中の方向に振り上げ、回し蹴りの要領で破獣にぶち込む。死角からの蹴撃に破獣は反応すら出来ずに部屋の外へと吹き飛んだ。

「倒せた……のか?」

 僕は破獣の吹き飛んでいった方向に目を遣りつつ呟く。

「未だ過ぎぬ未来世を映し出せ……」

 僕の背後で天時が囁くように何かを呟いた。

 直後、彼女の方から発光が起きた。何かと思い僕はそちらに目を向ける。

「なん……」

 振り返ると天時は右手を突き出して立っていた。そんな彼女の周囲には数珠のような小さな球体が規則正しく浮遊している。それらの一つ一つは異なる色の光を放っており、それは天時の可愛らしさと相まって神々しいほどの景色となっていた。

「レイレイ! まだ終わってない! 後ろから来るよ!」

「レイレイ!?」

 僕は素っ頓狂な声を上げながらも天時の言葉に準じて後方に振り返った。すると本当に破獣が壁を破ってそこに現れ、攻撃態勢に入っていた。

「弱点は尻尾の付け根の赤いコア! それ以外はほとんど攻撃が通らないよ!」

 天時の言う通り尾の付け根には紅玉のようなコアが埋め込まれていた。

「ッ! やってみるか」

 なぜそんなことを知っているのだろうか。僕が読んだ文献にすら載っていなかったような情報だ。だが今はそこを狙ってみるのが最善の手だろう。

「アァァァ!!」

 破獣は大口を開けて牙を剥きながら突っ込んできた。本当に学習能力の無い生物だ。

 僕は内心呆れながらもそれを躱し、疾風の如く破獣が僕の横を通り過ぎる。破獣の横に回り込んだ僕は地面を叩くように赤色のコア目掛けて掌底を放った。

 ドッッッ、という鈍い殴打音と共に破獣の身体が地面に叩きつけられる。尾の付け根に向けて赤黒い靄を纏った掌底を打ち込んだことによりコアは砕け散り、そこから破獣を食らい尽くすように赤黒い靄が広がっていった。

「アァァ……」

 コアを有する尾の付け根から全身を破壊された破獣は呻きながら行動を停止し、塵と化して中空に消えていった。

「やったね、レイレイ!」

 天時は身体の回りに小さな球体を浮遊させたまま僕にはガッツポーズを向けてきた。

「天時…… なんだよそのレイレイって……」

 間違えた。聞くべきなのはその球体のことだった。

「レイアだからレイレイだよ?」

 天時は僕の問自体が間違いであるかのような不思議そうな表情をしてあっさりと答えた。

 なんて安直なネーミングセンスだ。その上呼ばれる方も恥ずかしいレベルのあだ名である。

「レイレイも私のことみーちゃんって呼んでね」

 天時は眩いほどの笑みを浮かべながらそんなことを平然と言ってのけた。

「いや、無理……」

「何でッ!?」

「何でってお前な…… 会ったばかりの人間をそんな恋人みたいな呼び方で呼べるか。てか恋人でも呼ばないだろ」

 僕の言っていることは正しい。正論のはずだ。しかし先程の天時の表情から僕が間違っているのかと思ってしまう。

「むぅ~…… じゃあ百歩譲って下の名前! 美來って呼んで!」

 天時は膨れっ面でそう言ってきた。

「……あ~もう、分かったよ。美來」

 僕は天時、もとい美來がこれ以上引くとも思えなかったので仕方なく提案を了承した。

「うん!」

 美來は納得したように頷いて膨れっ面から笑顔へと戻った。

「…………」

 僕はその笑顔から目線を外し、周囲に浮遊している球体を凝視した。

「ん? これは私の能力の発動媒体だよ。《未来見アヴリオ御魄スフェラ》っていって、」

 僕は美來の説明を聞きつつ浮遊している球体に手を伸ばした。

「あっダメ!」

 美來の制止の声と同時に僕の指先は球体に触れた。すると全ての球体がうっすらと光を放ち始め、美來がビクンと肩を揺らした。

「お、おい…… どうしたんだよ……?」

 美來は僕の問いかけに反応すらせず、彼女の双眸は虚ろに虚空を見つめていた。

 そのまま数秒が経過すると美來の瞳に生気が戻り、しかしすぐに目を伏せた。

「ごめんね……」

「……?」

 突然謝ってきた美來の行動が理解できない僕は首を傾げた。

「私の能力は未来予知と未来の改変…… その力でレイレイの未来を見ちゃった……」

「そういうことか」

 未来予知と未来改変。強力なものというわけではないが相当に特異な能力だ。使い方によってはかなり便利な能力だろう。

「で、そんな顔してるってことは僕の未来が悪いものだったんだな?」

 僕は確信を持って、確かめるように美來へと問うた。明るい美來がこんな表情をするのはそういうことに違いない。

「うん…… それもレイレイの未来は改変できないほど決定付けられちゃってるの……」

 美來は泣きそうな顔で、なんとか聞き取れるような声量で言葉を紡ぐ。

「レイレイも、レイレイが助けようとしている人も皆死んじゃう……」

「! 僕が助けようとしている人っていうのは僕と同年代の少女か?」

「うん…… すっごい美人の女の子」

「ッッ!!」

 僕は驚愕した。美來の未来予知があれば氷華の元にたどり着けるかもしれない。

「その子は今どこにいる!? 僕は絶対に行かなきゃならないんだ!!」

 僕は美來の肩を揺さぶりながら、焦燥したように問いただす。大きく揺らされた美來は俯き、申し訳なさそうに口を開いた。

「あそこに行ったらレイレイが死んじゃうよ……」

「どっちにしろ変えられない未来なんだろ? だったら自分から行ってやる」

「そんな…… 自分から死ぬ未来が待つ場所に行くなん」

「死なない」

 僕は美來の言葉を否定するように強引に断ち切った。

「僕の未来は僕が決める。どんな未来が待っていようと氷華を救い出す」

 僕は壁に手をつけながら言葉を継ぐ。

「それを邪魔するものも、死の未来も一つ残らず…… 全て壊してやる」

 壁につけた掌に赤黒い靄が発生し、発した言葉が具現化したかのように壁が破壊され、塵と化して消滅していった。

「……分かったよ。その代わり、そこには私も連れてって」

「僕が死ぬような危険な場所に他人を連れていくわけには」

「行くの!!」

 美來は怒ったように声を荒らげて僕の言葉を打ち消した。そして声のトーンを下げて再び言葉を紡ぐ。

「レイレイは私の恩人なんだよ……? そんな人を一人で死なせるわけにはいかない…… それに私が予知した未来を壊してくれるんでしょ? だったら私はそれを見届けたい……」

 美來の芝未色の大きな瞳が僕の双眸を捉えた。そのまま彼女は胸中の想いを打ち明けた。

「…………あぁ、分かった。一緒に行こう」

 僕はその真っ直ぐ過ぎる瞳に込められた想いを否定出来ずに同行を了承した。

「うんッ!」

 それにより美來は眩いほどの笑みを浮かべて頷いた。

「それで…… 予知の場所はどこなんだ?」

「ん~……」

 その問い掛けに美來はこめかみを押さえ、記憶を掘り返すように予知で見えたであろう情景を言葉にしていった。

「あたり一面が黒い氷に覆われてて…… その真ん中に同じ色の氷の塔がある…… 塔というよりは氷の柱みたいで天辺が見えないぐらい高い…… その子はそこに氷漬けにされてる」

「…………」

 辺り一面が氷に覆われていて氷の柱が立っている場所。そんなものがこの世界に存在するのか。少なくとも十年前にはそんな場所はなかったし、僕が幽閉されている間に形成されるようなものでもないだろう。ならばその場所は絶異者の異能によるものに違いない。それも一帯を凍結させて天を貫く柱を形成する程の強力な絶異者の。

「正確な位置はわからないのか?」

「うん…… でも大体の方角は分かるよ」

 美來はそう答えると北東の方角を指した。距離は分からない。それでも方角さえ分かれば氷の柱が見えるところまでは進めるだろう。見えてしまえばもうたどり着いたも同然だ。

「それで十分だ。いくぞ、美來」

 こうして僕は空の果ての天時美來と出逢い、氷華へと一歩近付いた。

 地上に出てすぐ彼女と出会えたことは偶然ではないような気がしてならない。運命というのはこういう出会いのことを指すのかもしれない。

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