真実
僕は記憶の欠片を取り戻し、両親の死の記憶を振り返っていた。
そのときの人格は《僕》でも《オレ》でもなく、《破壊者》としてのものであった。
レイアは覇魔の豪邸のとてつもなく広い玄関に立ち尽くし、両親の帰りを待っていた。
既に髪は薄鈍色に染まり、瞳も虚ろな白に変色して両掌には赤黒い靄が纏わりついていた。
記憶の中のレイアは暴走ではなく、何かに操られているということが明々白々であった。
《死滅者の掌》を発動させた状態のレイアは帰ってきた母親をその手にかけた。
心臓を一突き。覇魔の反射神経によって反応はしたため貫通とまではいかなかったが確実に心臓に穴を穿っただろう。それにより胸に空いた大穴と口から大量の血液を流し続け、母は死に絶えた。そのときの返り血を取り込んだレイアの血は沸騰し、覇魔としての力を得た。
そして次の標的である父を待っていた。だが父は母のように油断してはいなかった。
彼は家の外から濃密な死の気配を感じ取っていたからだ。
臨戦態勢に入った世界最強の男を殺すことなどできるはずもなく、異能と得たばかりの身体能力を全開にしても全く歯が立たない。
しかし父は何故か一瞬身体の感覚を失ったかの如く不自然に硬直する。
レイアはその一瞬の隙を見逃すことなくすかさず攻撃に転じる。心臓を潰し、それでもまだ生きているため身体の至る所を《死滅者の掌》で抉りとってようやく息絶えた。
目的を達成したレイアは血の海に視線を落とし無感動に眺め続けていた。
そんなレイアの背後に殺しきったはずの母が現れ、彼の首に手を回してきた。彼は咄嗟に《死滅者の掌》で母を殺し尽くした。
その直後、首元にかけられた何かが純白の輝きを放ち始めた。それは背後から死に体の母にかけられた純白の羽根のネックレスだった。その輝きは両掌に纏わりつく赤黒い靄を全て吸い込み、レイアの身体から《破壊者》の人格すら飲み込んだ。
悪意や殺意を飲み込んだ純白の羽根はどんどんくすみ、やがて純黒の鴉羽と化したのだ。
その後、《破壊者》としての人格を失い《僕》に自我が譲渡された。そして今までの《僕》の記憶に繋がる。
これが欠落していた記憶の欠片、両親の死の真相。彼らを殺したのは紛れもないこの僕だったのだ。
どのような目的を持って両親を殺したのか、何故この時点で《死滅者の掌》を発動できたのか、どんなに考えを巡らせても分からなかった。
思い浮かんだのは混沌の世界での声だ。あの声ならそれすらも全て知っているのだろう。
あの声ともう一度対話しなければならない。
今やもう平和や平穏などと嘯くことはできない。
だったら全てを知り、渦中に身を置く覚悟はできている。