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カラフルデイズ  作者: たつのおとしご
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隔離された学校

~隔離された学校~

 季節は夏。窓の外から見える線路の片っ端には向日葵が「太陽さんおはようございます。」と言わんばかりにみんなが同じ方向を向きながら整列している。以前住んでいた土地より空気がきれいで何より涼しい。ずっと大都会育ちの俺にとっては天国極まりない。ヒートアイランド現象がないだけでこれだけ人は幸せになれるんだとたった今実感した。

あれだけの暑さで熱中症患者が少ないということに驚きを隠せない。

 そう俺が思ったのは、田舎で初めて一夜を過ごして起床した時である。

時刻は朝の六時を過ぎそうで過ぎない時間で、寝ぼけて部屋を出た瞬間に目覚まし時計が鳴って止めに行くお決まりの時間帯だ。

夏休みだというのにこの時間に起きるというのは悪くない。

 俺は布団を跳ね除けキッチンへと移動した。部屋のドアを開けると窓から入ってき風が解き放たれたように足元を通り過ぎていく。風も世界の人々に安らぎを与えるために出勤していったようだ。自分の食卓の椅子にいつもかけているエプロンを着用し朝食の準備を始めた。

というのも、引っ越し祝いで妹が昨晩手料理を振る舞ってくれたのだが、この世で見たこともない暗黒物質が出来上がってしまったのだ。妹の苦労と食べ物を粗末にしてはいけないという鎖から解かれることもなく、口にしたら何故か自室のベットにいて、意識が戻ったのはついさっきだ。

 妹がおろおろしながら俺をうんしょうんしょとベットまで運んだ姿を想像したら少しにやけてしまう。意識を失った人間の重さは比じゃないからな。

 「さて何にするかね」。生卵で頭を軽くこつこつ叩きながら考える。

 卵を使った料理で朝食をかざる代表的なものと言えば卵焼きであろうが、あえて今日は目玉焼きで行かせてもらう。単純にベーコンエッグを食べたかったというのは内緒だ。

 フライパンに油を敷いて、ベーコンエッグを作る工程に入る。

 それにしても卵というものは本当に素晴らしい。精子と卵子の受精によって生まれる受精卵なのに、栄養豊富。焼く、蒸す、茹でる。なんでもござれだ。しかも美味い。

 細胞分裂を繰り返してるとりえのない動植物より非常に優秀である。これを最初に食べて広めた人の名前を取って、○○賞を作るべきだ。そしてニワトリに感謝である。

 トースト、ベーコンエッグ、サラダ。各々をテーブルに並び終え、身に着けていたエプロンを片付けた。

 俺は、生まれてから一度も朝食に和食を食べたことがない。

朝食に限ったことではなく、朝昼晩の三食で和食を食べることは滅多になかった。

一年に一度の父の誕生日以外はほぼ毎日のように洋食である。飲み物も麦茶ではなく紅茶やミルクのほうが一般的だ。

 なので、洋食を作ることには長けているが和食というものは作ったことがない。仮に作ったとしても「ポトフ=肉じゃが」のように和食を洋食風に作って食べる習慣が身についてしまっている。

これは過去にイギリスで生活していたために身についた習慣である。俺は日本人の父と、イギリス人の母にもって生まれハーフである。

 家事は殆ど母がやっていたため、日本食というものを口にしたことがほとんどなかった。

 俺が生まれる前から父もイギリスでの生活が長かったため、洋食を食べ続けるということに抵抗がなかった。無論イギリスで生まれ育った俺も同じである。寧ろ日本食が外国料理という認識になっている。

ハーフといっても、イギリス人の母の遺伝を受け継ぐ俺の容姿と妹の容姿が似ているかと言われれば決してそうではない。


 妹は金髪で肌も白く、明らかにハーフと識別できるほど母の遺伝を受け継いでいる。

逆に俺は黒髪で肌は黄色く、日本人と大して差はないほど父の遺伝を受け継いでいる。


 しかし俺は全くもって母の遺伝を受け継いでいないわけではない。妹もまたしかり。

瞳。俺はこの鮮やかなブルーの瞳だけは母の遺伝を受け継いでいる。逆に妹は濁りのない黒の瞳をしている。


 自己紹介がてら家庭事情で尺を稼いでる最中に妹が起床してきた。染めてもいない金髪のロングヘアをぐしゃぐしゃにしては整えるを繰り返している。時折繰り返される欠伸には引っ越し作業での疲れがでていた。

 「あれお兄ちゃん。なんで朝ごはん作ってるの?」

 目を擦りながらも、はっきりした声で妹は尋ねた。尺稼ぎを奪われた俺は軽く拗ねた感じで答えた。

 「なんでって。朝早く起きたから朝飯用意しただけだよ」

 その言葉のせいか。妹は完全に目を覚ました

 「なんで。私が作るっていったのになんで作っちゃうのさ。」

 あれだけのことがあってこいつはすぐ寝たというのか、俺はため息交じりで答えてやった。

 「あの。昨晩死にかけた挙句、更に死ねというのか。今後このまま俺の胃袋におまえの料理が直行したら誰が執刀しても助からないと思うよ。」

 「今日は失敗しないもん。元気がでるスタミナスープ作ろうと思ってたのに」

 その気持ちは大変有り難いのだが遠慮させていただく。昨日の今日で料理作りが上手くなるのであれば料理下手なキャラは存在しなくなってしまう。どちらかというと焦げたクッキーのほうが高感度が高い。そして、君の後ろのバスケットに入った紫色の煙を出しているあの食材は何だ。

 「ごめんごめん。今度から俺が作るからお前は明日から作んなくていいよ」

 「サラッと拒絶された・・」

 半分拗ねていながらも、素直に食卓について朝食を食べ始めた。俺も続いて朝食を摂る。やはり男と女では食べるペースが全然違い、俺のが圧倒的に早い。ラーメンデートはこれがあるから敬遠される。それと早食いは消化に悪いからみんな気を付けるんだぞ。

 ちょくちょく豆知識を入れながら尺を稼いでいる中、再び眠気に誘われて首が傾き始めている妹が尋ねてきた。

 「あれ?今日から学校だっけ?」

 そう。お盆明けの今日は学校に登校しなければならない。なんでも転校手続きというか、学校の案内とかをするそうだ。

 しかし今の世の中、手続きはパソコンでできるし、学校の案内なんぞGoogl先生に任せておけばそれほど苦労することはない。引きこもりが中傷される世界であるが、ここぞという時に尊敬できる存在である。ネット様様である。

「なんか学校のやつらに来いって言われた。なんでも学校の概要を説明するんだと」

「えーいいじゃん。私なんて夏休みの宿題出されたんだからね」

 俺の転入先は星城学園と呼ばれる田舎にあるにしては都会並みに綺麗な学園で、妹はその中等部に転入することになっている。

 星城はエスカレーター式で高等部に行けるため中学三年生の妹は、比較的楽に中学生活を終えられる。

「宿題廃止説を唱えない限り宿題は消えねーよ。おとなしくやっておけ」

そう言って俺は朝食を終え食器を下げに立ち上がる。

 俺は話しかけられない限り相手と話すことがないため、こういう一対一の状況ではすぐに負けてしまう(自身が話すことを止めてしまうため)。

 よく相手に話しかけようとする男子がいるがやめておいた方がいい。妻のご機嫌取りのために話しかける夫がいるだろう。会話というのはキャッチボールで成り立っているというと聞こえはいいが、相手から球が返球されれば相手に返さなくてはならなくなる。永遠に機嫌が直るまで続けなくてはならないため、相手の逆鱗に触れる言葉を言うまいと片言になり失敗するのがオチである。

ご機嫌取りにはプレゼントをおススメする。ソースは俺の父親。

 皿を洗い終えたあたりで妹も食器を持ってきた。

「あれお兄ちゃんもう学校行くの?」

「ああ、学校側の諸事情で、部活等で登校してくる生徒達で混雑するから早く来てほしいんだと。よくわからん。」

 こんな理由で朝八時に学校に呼び出す校長の神経を問いたい。ちなみに妹は既に学校案内等を済ませている。その際に宿題を貰ったそうだ、可愛そうに。

「そうなんだ。この時間帯は電車が込むらしいから痴漢の冤罪かけられないようにね」

「まあ都会じゃあるまいしそこまで混まないだろ」

 都会の電車は本当に痴漢の冤罪をかけられる。特に出勤ラッシュの時は駅員が外側から無理に押し込むため、鞄を片手に持つサラリーマンは毎日が戦場である。駅員がその際お尻触っているんじゃないのか。

「んじゃ。行ってくるわ」

 俺はエプロンをといて軽く身支度を整えているとパンをかじりながら妹が少し不安そうな顔で言った。

「ねえお兄ちゃん。私の気のせいかもしれないけど、説明の際学校行ったときに何か違和感を覚えたんだよ。よくわからないんだけど違和感を覚えたの。大丈夫かなあの学校。」

 妹がオカルトめいたことを言っているが、妹の感はよく当たる。実際母が死んだときもそうだったからな。

「わかった。気を付ける。」

 妹に軽く手を振ってリビングを後にする。まだ制服が支給されていないので、無難なジーンズとポロシャツに着替えて身支度を整える。これで学校に来られても何も言えまい。

「いってはっしゃい・・」

妹のパンをかじりながらつぶやいた挨拶を背中に重く受け止めて家を出た。


 太陽が照りつける中、俺は田舎道をスマホをいじりながら登校していた。

 都会と違ってとても空気がきれいで何より静かである。時々すれ違う車の音とセミの鳴き声が鮮明に聞こえるほどで、聞いていて心地がいい。窓から見える線路を辿っていけば駅に着くのだが、兵隊のように整列している向日葵で線路を見失ってしまいそうだ。

 ふと田舎道に酔いしれている間に駅に着いた。都会暮らしのおかげで電車についてはエキスパートの域である。切符やら時間やら一目で覚えられるのは、都会暮らしの先人の知恵のおかげだ。

何か困ったことがあったら電話番号、郵便番号、困った理由を書いてはがきで送ってください。宛先教えないけど。

夏休みとはいえ、いやむしろ夏休みだからなのであろうか。駅は通勤ラッシュでえらく混んでしまっていた。そういえば社会人に夏休みはないな。

「まじか・・」

声に出すほど圧倒的な光景だった。

 北海道民の人が東京で「寒い」と言うのと似ている。冒頭のヒートアイランド現象もまたしかりで、沖縄の人が東京で「暑い」と言うのと似ている。

想像と現実は違うものであって、実際には想像力が現実と想像を勝手に同調させてしまっているのだ。

 俺も勝手に想像して騙されてしまった。後で栄養ドリンクを飲んで脳を活性化させよう。

 圧倒されている間に何人の人が横をすれ違ったであろうか。

それくらい圧倒されて身動きできなかったのか。後ろの人から「大丈夫?」と声を掛けられて我に返った。妹も都会育ちだが、俺より意識が戻ってくるのが遅かったろうに。

 電車に揺られながら約三十分くらいで「星城学園前」に到着した。この駅は星城の学生のために造られたようなものであって、終点に位置する。故に星城の生徒しかいない。

解き放たれた扉からは猛暑の熱風が顔面を襲った。そして踏み出した駅には異様な光景が漂っていた。

「だれもいない・・?」

 駅員がちらほら見えるがそれ以外の人は一切見当たらない。駅もいたってシンプルで改札が三つとトイレと自動販売機程度しか配備されていない。足音など一切せず駅員の咳払いが大きく聞こえるほどであった。

 星城学園は部活に力を入れている学校なだけあって朝練習に来ている生徒もいてもおかしくはないと思っていたが、まるで休日に誤って登校して教室を開け放った虚しさや孤独を感じた。振り返ると、終点であるにもかかわらず電車は俺を降ろしてすぐさま引き返していた。まるで俺をここに置いていくのが任務であるかのように電車が遠くなっていった。



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