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チート‐その9 ~ 厄介払いされし者達のシュクラ村復興奮闘記 ~後編

男二人を置き去りにして、俺たちは一旦シュクラ村の跡地を離れ、3Km程離れたタックラ村に向かった。

村の敷地の脇に、シュクラ村の住人達の難民キャンプ的な物があるらしい。

王都で雇った工夫もそこに向かってもらっている。そろそろ到着しているころだ。


何故、工夫を物々交換チートで送らなかったかって?

人間送った実績が無いからな。

万が一死亡事故でも起きたら目も当てられない。

何せ、この世界、ファンタジーの癖に回復魔法も蘇生魔法もない。

……攻撃魔法と補助魔法はあるらしいのにな。

しかも医療水準は現代日本と比べるべくもないらしい民間医療レベルらしい。

俺も、怪我しない様に気を付けないと。


そんな事を考えている内にタックラ村の入り口とシュクラ村の難民キャンプの入り口が隣接して見えてきた。

「じゃ、いこうか」

言うと、俺は左側、タックラ村の入り口へと向かった。

「ちょ、ちょっと、クラキ!」

「倉木さん!そっちは難民キャンプじゃないですよ!」

ライラと田沼が同時に声を上げた。そりゃ、普通難民キャンプの方に入ると思うわな。

「ああ、分かってる。でも考えがあるんで」

言いながら門というには簡素な木組みの枠をくぐると、後から二人も渋々ついてきた。


王都で雇った工夫達だが、実は予定人数に足りていない。

単価が高かったのだ。一つは王都のそもそもの人件費が高い事、二つ目に魔獣の災害にあったような危険かつ不便さが嫌厭されたという事もある。


で、俺が目を付けたのが、隣村のタックラ村の住人達。

難民キャンプが隣接している、というのはもちろん難民の負担は大きい。

が、隣接されている村の方だって負担は大きいのだ。

俺の予想では近隣の村同士だから親戚やらなんやらへの支援で経済的に痛い事になっているとみている。

しかも被害を受けた本人たちではないから国の支援も無いだろう。


だから彼らに臨時収入になる公共事業を提供しよう、という訳だ。

今回の件で経済的にメリットが生まれるのならば復興後に双方の村でわだかまりも少なくなるだろうし、

一緒に働く事で連帯感も生まれてくれれば良いな、とも考えている。


そんな事を考えつつ村の中心の通りを進むと、住人達が窺うような目でをこちらに向けてくる。

厳しい経済環境にある田舎特有の、ちょっと陰気で閉鎖的な雰囲気だ。

経済面や貧しくとも命の危険が少なくて心豊かな田舎、というともうちょっと違いそうだが。


俺たちはさしずめ怪しい連中、といった処だろうか。

不躾な視線に後ろの二人はしきりに戻りたそうしているが、意に介さず突き進むと、

いよいよ村で一番大きな家屋が見えてきた。


近所の公民館くらいか。

2階建てはこの辺では珍しいし、村人2,30人が一堂に会せそうな広さ。

ワンルームマンションぐらいのサイズの小さな家が並ぶこの村ではかなり目立つ。


その前に、門番ではないが若者が二人立っていた。

少し汗をかいているから、大方「怪しいやつが来た」とでも聞いてすっ飛んできたのだろう。


「わが村に何の用だ」

ぼそっと一人の若者が発した。

一見朴訥そうな青年だが、目つきがちょっと鋭い。警戒されているな。


「我々は、王都から派遣されたシュクラ村の復興を行っている者です。俺は倉木。それと後ろにいるのが……」


「そんな事は知っている!」

もう一人の青年が口を開くと大音声が響いた。

こちらは”轟”という文字を体現したような青年で、筋骨隆々、肌も赤茶けていて

いかにも肉体派という風情だ。

それと、気も短そうだ。


どちらもダラダラ話すのはマイナスになるタイプだ。単刀直入に行く。

「金になる話を持ってきた。村長に取り次いでもらいたい」

「胡散臭い……」

「ふざけるな!」

即決か。村長にお伺いも立てない処を見ると、上下関係が強い訳ではなさそうだな。

となると、村長は単なるまとめ役か?

その割には住居が大きいのは気になるが……。


と、その時だった。

「コラ!ボッツ!ダナン!客人に何という無礼な口を利くのじゃ!」

後ろから見事なハg……屈強な爺さんが現れて、青年たちの頭を叩いた。

「親父、痛い……」

「イタッ!」


”親父”?そうか、そういう事か。こいつら村長の息子だったのか!



***


その後低姿勢の老人に案内された応接室で、果実の葉らしきお茶を出された。

ふわりとした甘い香りの茶は飲むと舌に心地よい苦みを伝える。

お茶を出してくれた上品な、初老のご婦人は村長夫人だそうだ。

肉体派ではなさそうだから、息子二人は父親に似たのだな、と思った。


「うちのドラ息子がご迷惑を……」

「いいえ、押しかけたのはこちらですし」

それにしても、低姿勢なご老人だ。

元々気の弱いタイプではなさそうだから、その頭はこんな若造にではなく、おそらくこちらのもたらす「メリット」に下げられているのだろうと思う。


「早速ですが、ご相談に入りたいのですが」

「ええ……」

その証拠に、本題に入ると老人の眼がキラリとする。

低姿勢だが油断ならない。流石、村長を長年務めているだけの事はある。


「私達はシュクラ村の復興を王都より命令されて実行しようとしているのですが」

「ええ」

まず、”王都”と強調する。

どの程度効果があるかわからないが権威というのはメリットであり脅威・抑止力の象徴にもなる。

損得勘定に聡そうなご老人には提示して損はないだろう。

「復興に当たっての人員を王都から連れてきてはいるのですが地域の方の協力も得て進めたいと考えておりまして、建築工事に携わる人員の仕事を募集しようと考えているのです」

「そうでしたか」

王都で人数が調達出来きらなかった事はいう必要が無いので言わない。

言えば、値段の吊り上げを喰らってしまう。ついでに田沼とライラには工夫が足りない事は伝えていない。ライラは兎も角、純真な田沼青年は顔に書いてしまうからな。

「大凡10人位、5日間でお願いしたいと考えています」

「報酬は?」

「銀貨300枚程では如何でしょうか」

大体、この国の価値に換算すると銀貨300枚は150万円位。

10人×5日だから日当3万円。大分破格だが、「メリットを与える」という趣旨もあるからいい線だろうと考えている。


「そうですか……」

が、それを聞くと老人は考え込む様な仕草をして沈黙してしまった。

良い条件なんだけどな。もうちょっと吊り上げられると見て交渉しようとしているのか?


「……」

「………」

「………ずずっ!」


沈黙に耐えられず、どこぞのリスが茶に口を付けた様だ。

だが老人は依然、沈黙。


その様子を見て……俺もなんだか不安になってきた。

「……………………」

「…………………………………………」

「………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………………………………………」

「あの……」

「ふむ、まるで足りませんな」


……はぁ?”まるで足りない”だと!!

突然の老人の言葉に俺は耳を疑った。

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