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チート‐その7 ~ 厄介払いされし者達のシュクラ村復興奮闘記 ~前編

「これがシュクラ村……」

事前準備と合わせて略、一週間。件の”村”……の、跡に到着した。

見渡す限り何もない。厳密には焼け落ちた家屋の残骸だけはあるが少なくとも人の住める環境ではない。

「……スースーする」

大学生の羽村がボヤいた。

ここ一週間で何度口にしたか分からない台詞だ。

「まあ、良かったじゃないか。パンツ履かない位で済んで」

「良いわけないスよ。アレもイマイチ安定しないし」

「そう。じゃ、一度軽くカットしておこうか?」

「!?」

超素敵な笑顔のライラが、さらりと怖い発言をしてのけた。


―ちなみに、男性諸兄は分かっていると思うが、その部分は一度でもカットしたら二度と生えてはこない


長い指が悪戯っぽくチョキチョキと動くのを見ながら、俺を含めた無関係な男陣も一斉にとある部分を抑えて戦慄する羽目になった。


冗談とはわかっているが、本能的な防衛反応だ。

致し方あるまい。


「冗談はさておき。どうかしらクラキ?これ、なんとか再建出来そう?」

「まあ建築の基礎くらいかじってるから何とかなるだろうけど時間も手間もかかるな、これは」

「大変?」

「ああ。だが、その前に……」

応えつつ、俺は鞄から3枚の図面を取り出した。


異能チート”妄想建築家”。

図面に左手を、建築したい場所に向けて右手を翳すと図面の通りの建築物を召喚する能力。建物をいきなり出現させるというその性質上、やたらな場所で使うわけにはいかない。


だが、ここでなら逆に役に立つ。


丁度良い機会、と言っては申し訳ないがこれからこの能力を運用するにあたり、図面の再現率、素材や構造にどこまで”非現実性”が許されるのか、また回数や体積の制限は?といった課題をクリアしておきたいと思ったのだ。


まずは1枚目。

「それは、塔?」

「天空まで届く塔、のミニチュア版。流石に実物を立てると迷惑になるからな」


某空まで届くといわれるタワー。そのプロジェクトには末端として加わった縁から、一度図面を見せてもらう幸運に恵まれた事がある。で、大ざっぱにだが記憶していたので試しに書いてみたのだ。

ただ、あのビルは1Km近く高さがあって、冬などは頂点で氷結した氷が落下してくるらしい。

そんな高さの建造物をメンテナンスする技術も、この世界には無い。

だから、200分の1モデルにした。

せいぜい3,4メートルだからまあ、仮に成功しても邪魔にはならんだろ。


「いくぞ」

左手をその図面に置き、右手を開けた場所へ翳す。発動のキーは、


建築コンストラクション!」


だ。


言葉を発した瞬間左手から熱い何かが心臓めがけて駆け上がる。

「~っ!」

熱はそのまま心臓を超えて右肩、右ひじ、そして右手へ。

最後に人差し指に熱が凝縮し、


「……え?」


突如、消えた。無論、某ツリーも出現しない。

何故だ。

頭にビープ音が鳴ったので、どうもエラーっぽい。


「どうしたの?」

「駄目、らしい。何か設計図が不味かったんじゃないかと思う」

「まさか、倉木のおっさんて、チート無しのただの親父なんじゃ……」

「それは無いな。鑑定で出ているし、力と思しき熱の様な反応もあった。……後、親父はやめろよ」

「へ~い」

「まったく」

羽村の奴め。犯罪に手を染めかけたというのに反省の色は無い。これが”ゆとり”……違うか。つい、何かにつけてゆとり等と言って世代で色付けして十把一絡げと言うのは、悪い癖だ。

自分達ロスジェネ がやられて嫌だったはずなのに、気がつけば右へならえしている自分に嫌悪感を覚えた。

虐待された子供は親になって繰り返す事が多いらしいから、似たようなものだろうか。


―これは、

「ふぁあ……っ」

―…羽村(こいつ)の属人性だからな!

アクビして、まるで悪びれた様子も無い羽村に顔を背け俺は2枚目を取り出した。


「今度は何なの?」

「次は手堅く、通常の家屋だ」

一般的な住居、2階建て3LDK庭付き。家族連れにペットの犬でも入りそうな平平凡凡……とも言えないか。自分も結婚できていない身で偉そうな事を言うのもアレだが、昨今の日本は経済的に見ると若ければ若い程不利を受ける時代であった。搾取が酷い。だから、一昔前の結婚して戸建て、なんて夢のまた夢の話だ。

ま、建物は関係ないけどな。俺は、そんな昭和の時代を感じさせる「平凡」を体現した家を建てる事にした。


「いくぞ、建築コンストラクション!」


すると、先ほどよりも勢い良く熱が飛び出し心臓を超え、右手に集まった。

(今度こそ……いけるか?)


が。

―ブーッ!

「は?」

またしてもビープ音。そして熱の、唐突な消失。


「また、ダメなの?」

「うーん、どうもそうみたいだ。今度は難しい構造じゃあ、ないんだけどな」

「建築家っていうのが”妄想”って意味だったりするんじゃ無いスかね?」

「黙れ、HK!」

振り向きざまに、いい“左”が羽村の鳩尾に入る。

「モゲッ!」


―っし!


若干溜飲を下げた俺は、気を取り直すと不本意な”3枚目”を取り出した。


今度は、、、

「うわ、今度は妄想というか夢も希望も無い”家”ね」

「本当だ!うわ、ダセェ!」

「こ、これは倉木さんちょっといくらなんでも……」

悶絶するポーク●ッツこと、羽村以外から非難めいた声が上がる。それもそうだ。何せこれは……


「竪穴式住居。まあこれなら大丈夫だろ」


構造にまったく無理はなく、材料もこの世界にあるものだけで、図面も無駄に正確だ。

もしこれが上手くいけば、そこから探りつつ発展させれば良い。


「まずは一歩、てね……建築コンストラクション!」

俺は右手を翳す。

左手から沸き上がった今までに無い熱さの塊が、あっ、という間もなく右の人差指に飛び込む。

「今度こそ……!」

「「「が、頑張って(れ)!」」」


だが。

「ううーーん?」

やはり、今度も駄目だった。

何故だ……。


「何か、他に条件があるのかもしれないわね」

「俺もそう思う」

「ダメ建築家だな……」

「く、倉木さん……」


皆、残念すぎる実験結果に気づかわしげな様子になる。だが。実は、当人である俺自身はそんなに悲観してもいなかった。


「ま、しょうがないな。実験はまた今度だ」

「え?ショックじゃないのか?」

ライラの弟、バックス君が首をかしげるが、まあそうだ。

「この程度の失敗、よくある事さ」

「負け惜しみか?」

「うんにゃ。大人になったら仕事なんて皆そんなもんさ。最初から上手くいく事なんてほぼ無いからな」

「まあ、そうかもしれないわね……」

「気になるか?」

「ええ。何かの成果が出るまでは頑張って試行錯誤してみてはどうかしら、と思うの」

「それも一理あるな」

彼女は優秀な冒険者だと聞いた。きっとそうやって逃げず直向きに努力してきた結果として力を得てきたのだろう。女性らしからぬ手はその痕跡か。見習うべき所が多分にある。

「でしょ」

「ただ、今回は復興がメイン、異能チートで楽出来たら良いな、程度の実験に過ぎない。本命は別だからこだわる必要はないんだよ」

「そういうものなのかしら……」

「そういうものだよ。時間は貴重、だからね。という事で、田沼君よ」

と、そこで俺は田沼青年に目を向けた。


「分かったよ。任せて!」

そういうと、今度は田沼青年が懐からやや大ぶりな金貨を取り出し、空中に放り投げた。

天高く投げ上げた金色が太陽の光を跳ねる。

「“交換(トレード)”!」

そして、言葉とともに手をコインに向けて翳すと。


―ドカドカドカドカッ!


突如黄金色の輝きが消え、代わりに轟音が響いた。

材木、工具、縄、運搬用の機材……etc

”工事に必要なもの”の一切合財が突如、虚空から現れた。


物々交換の異能チートは物と物の位相を交換する。


―それがたとえ、何Km離れた彼方からであろうとも。


シュクラ村復興に必要な資材の規模を試算した所、この世界の文明水準ではちょっと運ぶのに労がかかりそうだったから、彼の能力で楽をする事を思いついたのだ。


「ハラショー、田沼。やっぱり君は素晴らしい!」

おどけて拍手を送ってみる。

「ダ!スパシーバ、……なん、ちゃって……」

おお!田沼青年がのって来るとは思わなんだ。

恥ずかしそうにモジモジしているのがまた何とも初々しいな。また、同時にその様子から一仕事やり遂げたと言う自信も見え隠れするのが分かった。ま、アレだけの事を成したわけだから分からんでもない。なんせ、トラック数台分の運搬量だ。

「ところで、二人はいつからロシア軍人になったんすかね」

出番の無い羽村がふてくされた様に突っ込みを入れる。

「さあな。だが、これからが本番だぞ。……肉体労働者君♪」

そこでニヤリとして見せると、反対に羽村の顔が盛大に引き攣ったのだった。

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