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チート‐その27 ~ ラスト・オブ・リスとニートの終焉について

新年あけましておめでとうございます(←遅い)

本年もよろしくお願いいたします。

『くっ……!』

再び女王モードに戻ったリス香が二体のニートを同時に相手取る。

あまりの超スピードに打撃音と地面の破裂でしか状況が分からないが、

時折、リス香の苦しそうな声が聞こえてくるから、苦戦しているのだろう。


『クイーン・オブ……あぁっ!』


音の爆心地から、突如、リスが弾き飛ばされた。

地面を盛大に削りながら此方の方へ。


「うわ!」

「危ない!……~~痛ぅっ!」

ライラが咄嗟に前に立ってリス香を受け止めた。


「大丈、夫?」

『ありがとう……、なんとか大丈夫よ』


取りあえず事なきを得たか。

だが、そうしている間にも、リス香を排除した手ごたえを感じたのか、

二匹のニートがユラユラと近づいてきている。危機は現在進行形だ。


「クックック……闇を極めし我らにかなうモノなど」

「で、ゴザルナ……ブヒッ。全てはニートキングの御心のままに、でゴザル」


――不味いな。


緊張にぐっと力が入る。


だが、そこで予想外の声が後ろから。

「ここは任せて……!」

最後のリス、ではなく、田沼が前に進み出たのだ。


彼は余裕綽々の様子で近づくニート達へ手を翳すと

「物々交換チェンジ!」

異能(チート)を発動して見せた。


「きゃっ!」

『何!?』

直後、視界が白く染め上げられた。

刺す様な冷たさの突風が発生し、辺り一面を蹂躙する。


「…………」


その中で、田沼は手を突き出したまま真剣な眼差しをその先へと向けていた。


「これは一体……」

「羊雲……」

目線を変えず、田沼が答えた。


「え?」

「上空6000mの雲と、あいつ等を交換チェンジしたんだ……」

「交換?」

「そう。うろ覚えなんだけど、確か上空6000mから落下した物体は重力によって加速して秒速340mで地面に激突するらしい。」

「つまり」

「この星の重力がどれだけなのか、……それにあいつ等にどれだけ有効か分からないけど」

細い手先が震えた。

「でも、人間なら絶対助からないよね……」

そうだ、彼は荒事を好むタイプではない。敵とは言え相手を”殺すかもしれない”という事実に忌避感が大きいのに違いない。


だがこの場の全員を助ける為に、彼はその一歩を踏み出してくれたのだ。


「あと10秒、」

何が、とは聞かない。

おそらく落下するまでの時間だろうから。


9秒……8秒……


「”ダウン”、させられると良いな」

俺は、田沼の華奢な肩に手を置いた。

”死”のイメージを遠ざけて少しでも気を和らげよう。情けない。こんな事しかできないが、無いよりマシと信じたい。


「うん……」

受けて田沼が少し目を細めて頷いた。


残り3秒、2秒、1秒……


そして、――爆音が響いた。


「~~~~っ!」


土石片が飛び散り、周囲に立ち込めていた雲が掻き回される。



――やったか!?



流石に、音速で地面に突っ込んで無事な生物など有り得ない……



「ぬぅ……」

「死ぬかと思ったでござる……」


が、それは俺の生まれ育った地球の常識だ。


「物々交換チェンジ!」


と、再び田沼が慌てて、再度異能を発動した。


おいおい、大丈夫かよ。俺の妄想建築家の場合はそんな連発で打てないぞ……


「~~ぐぅっ!」


と、思ったら。やはり、彼も苦しそうだ。元々なまっちろい顔がさらに青白くなっている。


「物々交換チェンジ!」

だが、更に、もう一度。


「ふぅ、ふぅ、ふぅっ……っ!」

肩が上下し、息を荒げる。

尋常では無い汗が蒸発して靄となる。

彼の白い項において、それらは妙な艶を与えていた。


渾身の一撃。


しかし、その頭の上からは、無情な声が降る。


「「ふははははっ! 友情ぷぁわぁっ!」」

ニート達だ。

見上げれば、一人が片翼ずつを出し、肩を組み、合わせて二枚で空に飛んでいる。


墜落によるダメージはもはや望めない。


「そんな……」

馬鹿馬鹿しくも絶望的な光景に、陳腐な落胆の声が漏れてしまう。


だが、俺の目の前で。

「ふふっ……」

幻聴か? 田沼の控え目な、微笑の声が漏れるのが聞こえた。


「?」


と、その時だった。

一瞬、ふっ、と足元が暗くなった。


「「ふははひ……な、なななななな! ……なんじゃいこりゃあぁあああ!」」


再度見上げれば、

「「GYAAAAAA!」」

巨大な岩石が、声から察するに首尾良くヤツラを巻き込んで彼方の山肌に激突していくところだった。


着弾点は轟音と共に、土煙で霞む。

成る程、二度目の物々交換は巨大岩石を召喚していたようだ。


そして、更なる追撃を求めて田沼の手がヨロヨロと伸ばされた。


「ストップ」

流石にこれ以上は無理だ。後ろから抱き締めて止める。

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

「その1回は、逃げる為に使おう」

田沼は応えず沈黙していたが、やがて腕が力なく降りた。


それにしても、華奢な体格だ。

骨格自体が細く柔らかい感触、汗と熱気に混ざって僅かに上がる控え目な香料の……て、危ない方向に行ってるっ!。


この緊急時に一体何を考えてるんだ、俺はぁっ!


「万が一に供えて、交番からアレを持ってこよう」

邪な考えを振り払うべく、そそくさと体を離す。


「アレ?」

「ああ、最後の切り札」


取り出したのは、自動体外式除細動器(AED)。

但し、小学生の頃の俺の誤った妄想が具現化したものだ。


「鉄の棒が……2本?」

構えた俺に、ライラが首を傾げた。

MとSと書いた2本の鉄の棒が巨大バッテリーと繋がっている。


それを言うならN極とS極だし、

そもそも磁極は関係ないわけだし、

加えていえばAEDはパッドを体に貼り付け、そこから電流を流す構造であり、

断じてこんなヘンテコな物体ではない。


俺が書いていた、Sという電極の横にMの字を書き足したのは、

例によって父親であるし、それによって、再び夫婦の間で『話し合い』という名の仕置きが

成されたのもいつもの通りだ。


「クラキ!」

「く……倉木さん!」


声が上がった。

振り返ると、ボロボロに成りながらも、再度現れたニート達。


奴らへ向けて、冷静に鉄の棒を向ける。


「放電」

「もう、ガ、我慢ならんぞ、この……GYAAAAAA!」

「左様、この下等生物め……ぎゃ……GYAAAAAA!」


AEDは本来、この様に、敵性生物を遠距離攻撃する道具では、断じて、無い。

だが、この盛大な勘違いの産物はソレなりに有効だった様で、復活したニート共を弾き飛ばすことに成功したようだ。


ただ、雷に等しい三億ボルトの電流も決定打にはなり得ない。

弾き飛ばした向こう側で再び立ち上がる連中を見て、大きく息を吐き出した。


「田沼」

「うん……」


鉄の棒を構えたまま、短いやり取りで意思を疎通する。

最悪の時は脱出、その場合、形振りは構えない。


つまりは、村および村の住人達は見捨てる羽目になる。


出来れば粘りたいが……。


「放電」

思いを込めて放った、電流。

「見切った!」

「同じく!」

しかし、ほぼゼロ秒で到達したソレは、信じがたいことに、ニート達の右手により弾かれた。


「我らの右手は至高! これなくば、……危うかった」

「まさしく。光の早さに到達したこの右手のお陰でゴザルな……」


くつくつと笑う変態達。

「右手だけ? なんでだ?」


――そこへ、すかさず発した俺の言葉が、気まずい沈黙を呼ぶ。


「ばっ! あ、……」

「そ、ソレは……」

それまでの威勢が嘘のようにモジモジとしだしたニート達。


理由なんて端から分かってるのだが、目的はそこではない。

無論、時間稼ぎだ。

「田沼!」

「うん、物々……」


――面識ある人々の命を見捨てることになる


電極を握る拳に力が入り、爪が掌に食い込んだ。


「……え」

が、突如、意に反し田沼の異能発動が止まった。

「た、田沼……?」

やはり、優しい彼には残酷な真似をするのは、厳しかったのだろうか。

突如沈黙した田沼の顔を覗き込むと、彼は遠くの一点を見つめていた。


その目線を追うと、

「ひれ伏せ」

そこには、羽村の姿があったのだ。


「グッ……」

「な、なんでゴザルか、これは……」

裸の王様の命令がニート達の膝を折る。


「うん、実に馴染む……力が湧いてくるようだ」

満足げな羽村は唯一身に付けた銀色の毛皮パンツから、輝くオーラを発していた。


「モ…モレハマダホンキダシテナイダケ、モレハマダホンキダシテナイダケ、モレハマダホンキダシテナイダケ、モレハマダホンキダシテナイダケ、モレハマダホンキダシテ……エア゛……オレ!」


異能にすら抗い、膝をガクガクと震わせながらも体を引き起こし始めるニート達。


「オレツエ……ッ」

「黙れ」

「グガ!」


だが、続けて発せられた王様の『命令チート』によって沈黙させられた。


「さすが、おうしゃまだね♪」


更に気が付くと、一人の子供……神狼の娘、ネリジェラがニート達の目の前に立っている。

遅れて発生した風が髪を弄って過ぎ去っていく。


「え」

A級冒険者のライラが、自身の知覚すらもできない疾さに驚愕の声を上げた。


跪くニート達に差し出された幼い両手。

その手のひらの上には、一つの黒い球が。


「にーとさん、にーとさん、まぁるまって、こっちら~♪」

唐突に始まった、気の抜けた歌。


だが、裏腹に空気の密度が増し、黒球を中心に圧力は高まる。


「みんな、み~んな、……まるまっちゃえぇいっ! 『ニートボール』」

「!?」


――カッ!


無邪気な声と共に閃光が発した。


……そして、ややあってから思わず閉じた目を開けた時には、

「き、消えた?」

既に、ニート達の姿は掻き消えていたのだった。


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