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チート‐その26 ~ 交番の巡査が犬ではなく栗鼠であり、凶悪なアイツに立ち向かう件について ~後編

――ナマポ聖級拳とは。


カンガルーの様な体を持つ彼ら、ニートのみが習得できる秘拳。

種族特有の攻撃動作、”カベ・ドン”と”ユカ・ドン”を基礎にその衝撃を高める事のみを

追求し、堅牢な要塞の壁をも砕くまでに昇華させた恐るべき殺人拳である。


神域『バル・ハタライタラマケ』の奥地にて、日々襲い掛かるミンセーイインとの果てしない闘いの末、

闇の波動に覚醒するとナマポ聖級拳を会得し、同時に亜種『引きニート』に進化するに至る。


ニートは猫背の構えのまま。その紅い眼には彼の敵の姿が鏡写しに投影されている。

鏡像の中で、清冽な空気を発するリス尾はぴん、と芯の通った構えで留まっていた。


張りつめた空気の中で視線が絡み合う。


時間は凍り付き、両者の息遣いだけがその中で妙に響いて聞こえた。


緊張感に、気が付けば俺も手を握り締めており、その中に汗が玉となっている。


「来ないか。ならば……」

均衡を破り先に仕掛けたのはリス尾であった。

バリトンボイスと共に、地を蹴るとその右腕が霞む。


「モ"エエ!」

これを雄叫び上げたニートが迎え撃った様だがこちらも動きが見えない。


素人の俺に分かったのは、次の瞬間に衝撃音がした事と、両者がいつの間にか離れ、

距離を取り直した事、そして遅れて一陣の風がこちらまで届いたという事実だけ。


「なんて攻防なの……」

隣でライラが驚愕の声を発した。

「見えたのか、今のが」

「ええ、辛うじて眼で追えただけだけど」


――充分凄い、というか規格外。流石、異世界不思議生物のエルフ……じゃなくA級冒険者


「何か失礼な事考えてない?」


――鋭いな、その通りだ。流石、異世界……(以下略)


「いや、全然。それよりも、今の一瞬に何があったんだ?」

「リス君が右手でニートの左手を取りに行ったんだけど、これに反応したニートが

 腕を振り上げて払った。するとリス君はその手首を捻ったんだけど、ニートは右手首を

 決められたまま尻尾で体を支えて両足で蹴りを放った」

「今の一瞬で」

「そう、恐ろしい攻防だわ」


そして、ライラの解説の間にも攻防は続いている。


「フッ、中々にデキる様だな!」

「モレハマダホンキダシテナイダケ……」


加速する攻防は最早、霞んですらも見えなくなっていく。

やがてライラの目が細められ、時に首を捻る。

どうやら彼女の目にも追いきれない、そんな次元に達しつつあるようだった。


「破ッ!」

「マモリタイ……イエガアルンドァ!」


破裂の様な打撃音と共に地が抉れ飛び風が吹き荒れ、

最早、踏み込みに合わせ大地まで震える始末。


「これほどの強者とあっては使うしかあるまい。破栗鼠流奥義……」


――絶対王制アブソルートリィ・モナキズム



それは一瞬の出来事だった。

今までの攻防と打って変わって俺の肉眼でも追える様な緩やかな動きだった。


ただ、一ミリの停滞も溜めも無い。

ただ、ただ、流麗な動き。

だが、それが超神速で動き逃れようとするニートに巻き付いて、蛇の様に締め挙げた。


「ガ……ッ!」


大した力も込めず力の方向を誘導するだけで抵抗を許さない絶対的奥義は

最後にニートを地べたに這わせ、制圧を完了する。


「モ"エエ!モ"エエエッ!」

「おっと、どれ程暴れようとも逃れる術はなく拘束される。それが破栗鼠流奥義”絶対王制アブソルートリィ・モナキズム”の真の恐怖、だ」


やだ、リスったらカッコいい!


だが。

『不味いわねぇ……背中が抑えられていないわ』

突如、見守っていたリス香が呟いた。


――何が?


それを問う前に彼女の懸念したであろう事態が進行した。


「モレハマダホンキダシテナイダケ……モレハマダホンキダシテナイダケ……モ、モ、モ、」

「んん?」


一瞬の沈黙。


そして……


「モ"エエエエエエエエエエエエエッ!」


突如として黒い光の柱が空の雲を貫いたのだ。



「オレツエェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」



噴出したオーラと共に、ニートのマッチョな背筋がさらに盛り上がった。


「カベ…………ドォン!」

そして、尺取虫の様なポーズでニートが跳ねる。

すると、背中から視認できるほど濃密な衝撃波が生じ、リス尾が吹き飛ばされる。


……というか、離れている俺達まで吹き飛ばされそうだ。

なんだ、これは。


「まさか、真闇の”覚醒”……」

『その様ねぇ……』


後ろを振り返れば、弾き飛ばされたリス尾がそのまま交番の壁に叩きつけられてグッタリしてしまった。

心配したリス香が歩み寄り、その様子を看る。

『良かった……大丈夫。頭をぶつけて気を失った様だけど』

「そうか、」

俺は安堵した。


だが、

『でも……』


そこで、底冷えする様な殺気が生まれた。


――俺は、その現象を知っていた。


≪リス香 ~妄想建築NO.2:『リスの派出所』の住人その2≫

〔体長〕 1.5m

〔体重〕 ヒ・ミ・ツ

〔能力〕 ”破栗鼠流格闘術”の今代伝承者。

     普段は伴侶であるリス尾に遠慮して抑えているが

     真の形態、女王モード時の戦闘能力は彼の100倍以上。

     1対1で彼女に勝てる者はこの世には存在しない……


『貴方は、手を出してはいけないものに手を出したのよ、分かる?』


その双眸が青白い光を放った。


「オ、オ、オ…………オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


すると、殺気を真面に受けて浮足立ったのか、ニートが駆け出した。

尋常でない黒い煙の様な物が立ち上り、筋肉は膨張し、走る一蹴り毎に地が震える。


そして腕を振りかぶり……

「リアジュゥゥウウウウハアアアア! バ・ク・ハ・ツ・シ・ロ!」

赤熱させたそれを振り下ろした!


爆炎がリス香の小さな体を包み込み火柱を成した。


「リアジュゥゥウハアァ! リアジュゥゥウウウウハアアアア!」


燃え盛る炎を前に、歓喜の雄叫びを上げるニート。

「そんな……」

横で田沼が青くなる。

ライラとバックスは厳しい目のまま、剣の柄を握りなおした。


――もう、駄目か。


俺は後悔に目を瞑った。いくらなんでもリス尾の100倍の能力を誇るリス香がいれば

なんとかなると高を括っていたのだが。


あと最後にもう一個だけ。

もう一個だけ手は残っているが、今の有様を見る限り望みは薄いか。


「……」


俺風情が何をどうしても意味は無いのだろうが、この先の一瞬に何が起きても最善を尽くそう。


射抜くような目線を向ける。


「モエ゛エエアアァァァッ!」


雄叫びを上げるニートを見つめる。

炎は益々燃え盛る、勢いを増す。


……いや、少し勢いが減じたか?


「アアアアア……ッ!?」

炎の勢いが目に見えて弱まっていく、その異変に雄たけびを上げていたニートも気が付いたのか、

その動きが止まった。


『神授の王権、何者にもとらわれる事無き霊威……』


突如、炎の中心から言葉が紡がれた。


それと同時に、炎が中心に向けて渦を巻いて吸い込まれていく。


――フッ


呆気にとられた俺の目の前で、

炎が、消えた。


絶対女王クイーン・オブ・ア・リス


中から、無傷のリス香が現れた。

煤ひとつ、ついてはいない絶対の女王。


彼女は氷上を滑る様な歩みで進みゆく。


その右手がすぅ、と弧を描いて上がると人差し指が肩に触れた。

つん、と押されると僅かにニートの肩が後ろに下がり、すとんと腰砕けになって座り込み、

そこにヒールの付いた足が抑え込み、地面に縫い付ける。


『チェックメイト』

「モア゛ッ!」

『無駄よ、貴方は女王ワタシの絶対支配から逃れる事は出来ないのよ』


……二頭身のリス香によって行われた一連の動作は、言葉にすると滑稽なものになりかねない。

が、実際に目の当たりにすると彼女が女王であるという事を本能が理解する。


その威に不覚にも喉が鳴った。


『倉木さん今度こそ制圧完了、よ』

と、足で踏みつけたままリス香がこちらを見た。


「あ、ああ、拘束、出来なければ処分出来そう?」

呆然としていた意識を無理やり覚醒させ、俺はかろうじて返事を返す。


『処分……ええ、そうしたい気持ちもあるけれど、ワタシは警察官だからねぇ、拘束する事にしようかしら?』

「じゃあ、拘束を頼む。間違っても暴れない様に」

『いいわよ』


さて、とリス香がガーターベルトから手錠を取り出しニートに手際よくつけていく。

この手錠も異能チートの産物。一度拘束されると逃れる事は出来ない”という設定”だ。


『ふぅ、終了……だわぁ』

あ、元のアニメ声に戻った。


「はあぁぁ、今度こそ死ぬと思った」

ライラだ。

「俺も」

「ちょ、倉木の異能チートでしょ!?」

「そんな事言ってもなぁ」

リス尾を見やる。


――相変わらず、2頭身のリスが目を回して伸びている。


本当に予想外だった。”いつのまにか制圧”できても、制圧した後に脱出される、という抜け穴。

リス香の設定がなければどう転んでいたか分からない。

俺の異能チートは万能とは対極なのだ。使い処を考えないと。

さもないと、今回陥った様な思いもかけない”抜け穴”に落ちる諸刃の刃という事だ。


ピーキー過ぎる。

今後、気を付けないといけないな。


「ク、クラキ……」

「ん?」

しまった。考え事をしてしまった様だ。

まだ拘束したとは言え、目の前にニートが転がっているというのに。


何事かと顔を上げると、


「クックック……奴は所詮、その程度。三公の中でも最弱という事……」

「で、ゴザルナ……ブヒッ。ニートキングに合わせる顔が無いでゴザル。」


そこには2体の新たな黒いニート達が。


『困ったわぁ……』


そうだな。


『一人しか、拘束できないのよねぇ』


”一対一”限定の最強、また一つ俺の異能の抜け穴が露呈した瞬間だった。


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