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チート‐その25 ~ 交番の巡査が犬ではなく栗鼠であり、凶悪なアイツに立ち向かう件について ~中編

「クラキ、再建現場ここは破棄して逃げるしかないわ」

「は?」


闇属性のニートが外出した程度で一々避難していたら、それこそ国なんて幾つでも滅ぶわ。

奴らもコンビニ位は行くだろうし、などと意識はどうでも良い方に散ってしまう。

ライラの真剣な表情から、俺の思っている、仕事という色に染まっていない無職透明な”ニート”とは全く別物であるという事を理屈では理解しているつもりだが、


……言葉の響きがなぁ、どうにも。


「ぽや、としている暇は無いわよ!」

「あ、ああ!」


ダメだ、頭を切り替えよう。

あの炎の熊、『真炎のイオマンテ』以上の化け物が迫っているのだ。

とりあえず皆を如何にして逃がすか。

馬車でなんとか、なるだろうか……


「!?」


思案をしていたのは一瞬だったはずだ。

だが、その僅かな逡巡の間に、目の前で闇が揺らめいた。


手を打つ間もない、手遅れだ。


息を飲む俺達の前で、ソレの腕が、足が、顔が姿を顕にしていく。


「なん、だ……これは……」

「モ"エエ~……」


山羊の頭にカンガルーの胴体がくっついたような生き物だ。2メートル程の体高で筋骨隆々なソイツは、全身真っ黒に染まり煙の様なものを空気に滲ませている。


――アレは、ヤバい奴だ。


俺の頭の中の弛緩した考えは一気に消し飛んだ。

痺れを伴う様な冷たさが背筋を通り抜けていく。


「モ"エエ~……」


黒山羊の顎が下がり、猫背になり、その腕がだらりと下がった。

途端に陰鬱を帯びた気配が降りて、重苦しい空気が垂れこめる。

それは濁りさえ帯び、息をする事すらも苦しくなる。


『アレは、”引きニート”に特有の拳法、”ナマポ聖級拳”の構えの一つだわぁ』

リス香が、相も変わらず緊張感の無い声でつぶやいた。


おい。

ちょっと待ってくれ、色々と。


「ハダライダラ、マケダドオモッテイドゥ……」


「やはり。カウンターに特化した秘拳”ナマポ聖級拳”。その奥義の一つ、”ハタライタラマケダトオモッテイル”の構えの様ね。迂闊に仕掛けることもできないわ」

今度は、ライラが真顔で。


だから、ちょっと待ってくれ。

……この”笑ったらいけない”という空気の中で垂れ流されるアホな単語の数々に、

今にも笑いが爆発しそうなんでな!


お蔭で初見で見た時の緊張感が薄れつつあるのが分かる。

威圧感や息苦しさは相変わらずなのだが。


命の危険がある状況で余裕があるなと自分でも思うが、

それは同類を撃破した妄想建築、その住人が傍にある事も大きい。


「良かろう……お相手をしよう」

ずい、とその住人であるオスの栗鼠、”リス尾”が前に出た。


「やだ、イケボ……」

思いもかけず栗鼠が発した低く渋いバリトンボイスにライラが反応した。


ていうか、”イケボ”まで通用するのか。

異世界『ユニベール』は、本当に侮れない。


似たような言葉を使う事があったり微妙に言葉が重なっていたり……。


だがそれは兎も角、だ。

俺には勝算があるのだ!


≪リス尾 ~妄想建築NO.2:『リスの派出所』の住人その1≫

〔体長〕 1.6m

〔体重〕 60Kg

〔能力〕 ”破栗鼠流格闘術”の師範にして達栗鼠(たつりす

     極めた業の前には対峙した者は抗う事も出来ず、

     気が付いた時には制圧されている……


確かに目の前のニートは圧倒的な力やスピードを兼ね備えているのだろうが、

”気が付いた時には制圧されている”という理不尽設定のリス尾なら対抗できるはず。

それにもう一個、実は秘策があるしな。


「はっ!」

リス尾が発した裂帛の気と共に重苦しい空気が取り払われ、戦いの御業を極めた者達の戦いが始まろうとしていた。


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