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チート‐その20 ~ 怪しげな斜塔と消防士、そしてHKと下町。一見無縁なこれらの相関関係に関して ―前編

俺の激情を飲み込んだ奔流はうねりながら塔より放たれた。

焔の巨獣の咢が開き解き放たれた嵐を成す炎もこれを迎え撃たんと迫りくる。


「~っ!」

巨大な質量の生み出す圧は荒れ狂う風となり、その一筋が俺の前髪を巻き上げ、弄んだ。


一般に温度が高ければ白や青、低ければ赤から黄色、というが、実際には炎色反応というものがあり、色は温度とイコールではない、らしい。


だから、目の前の白く輝く炎がどれ程の物なのか実際にはわからない。


ただ、こちらの水は元々水素と酸素が燃焼した結果として出来たもので、直感的にも分かる通り燃焼はしにくい。じゃあ何故一般に消火器に使われないかという事になるが、それは例えば、油が起因の火災だと逆に高温の油によって爆発的に蒸発した水蒸気により油が拡散し、爆発を起こす為だ。


水自体が燃えるわけではない。


水が燃焼するためには、水(H₂O)が再び水素と酸素に分解するほどの熱が加わる必要がある。

その温度は大体2500度。そこまでの高温に達すると水が結合する力よりも熱エネルギーが

上回ってしまう、らしい。

太陽の表面温度が6000度らしいから、その半分位の凄まじい温度が必要になる。


とある工場に勤めている友人から飲み会のマメ知識として聞いた話だ。


だから、この水、激流は余程の事がなければ炎に勝る、はずだ。


「いけぇ~!」

声を送ってどうなるものでもないだろうに、年甲斐もなく叫んだ。

おかしいな、俺はこんな性格だったっけ。

幼心の日々と心が繋がってしまった、とでも言うのだろうか。

思わず、苦笑してしまう。


―そしてとうとう両者が激突すると、地鳴りが響いた


「おわっ、と」

地を伝う衝撃に、思わず足元がよろけた。

だが、目だけは離すわけにはいかない。

倒れこみながらも自らの目線は前へと固定する。


その先では水流と地獄の炎が激突していた。

接点で水蒸気爆発でも起きているのか、瞬く間に周囲が白く染め上げられていく。


途方もない高温だろうに、俺も、隣のライラも、……それから遠くに見えるバックスも。

誰も彼も無事に見えるから、今だ白く輝き続ける塔は何らかの保護効果を発揮しているのかもしれない。


水蒸気の発生地点によく目を凝らすと、何か異なる光が見えた。


「?」

―魔方陣だ。いや、魔方陣かは知らないが何か光り輝く文様同士がぶつかりあっている。


それらは軋みを上げ、鉄を削りあう様に欠片を飛ばしあい、押し合っている。

直観的に分かった。


目の前の”現象”は確かに科学だ。高温の炎と水流の激突だ。

だが、その真実はどうやら「理と理の衝突」であるようだ。


白い蒸気の大樹が空高く延び、

その根が地に幾筋も張り出していくその真ん中で、

真炎という「この世界の理」と、

異世界人である俺の「子供の頃の妄想」がぶつかり合っているのだ。


状況はほぼ五分か、否、此方の方がやや分が悪いか。


向こうは「世界の理」だけではない。

どうやら炎の温度は水を分解せしめる2500度に達していたらしい。

「地球」にも「ユニベール」にも共通の普遍的な「科学」の裏打ちが相手にある分、此方は不利だ。

それを辛うじて膨大な水量が無理やり押し流して支えているのが現状だ。


汗が一筋、こめかみを伝って流れ落ちていく。


すると、右手の袖が引かれたかと思うと、脇の下に細い腕が入り、


……持ち上げられた?


ライラだ。

驚いてそちらを見やると、うん、と一つ頷いた。


荒れ狂う暴風の中でおぼつかないオレは、彼女に支えられ立ち上がる事が出来た。


無論、理屈上は状況に影響のある行動ではない。

寝てても立ち上がっても異能チートの威力は一緒。


―けれど、その行動に心を少し落ち着ける事が出来た。


そして、冷静さを取り戻すと、俺の脳はもう一つ歩みを進めた。



―何故、大人になった俺が子供の頃の憧憬に基づいた能力を得たのか。

―”大人”がこの能力を得た意味は何か。

―”大人”でなければ、出来ない事とは何か。


「…………」

もう一つ、深く思考が沈んだ。

するともはや目の前の光景は目に入らず、

ただ右腕に感じる感触だけが温もりと共に伝わるだけとなった。


その意識の裏に、遠い日の記憶が浮かんだ。


―「でね~、この斜塔にはね~、世界一の消防士さんが住んでるの~」

―「そうなの?」

―「うん。でね~、でね~、その消防士さんはとっても凄いんだよ!」

―「まあ。どう凄いのかしら?」

―「うん。火だったら、放水でどんなものでも消しちゃうの」

―「どんなものでも?」

 覗き込まれたその優しい笑顔が子供心にはなんとも嬉しかった。

―「うん! 火事は勿論だけど、……なんと! 太陽だって消しちゃうの!」

で、ちょっと話を大きくしてみたのだ。

―「まあ! それは凄いのね!」

―「そうだよ! だって、世界一の建築家のボクが作った、世界一の斜塔なんだから!」


思い返せば、幼い頃の妄想は適当だった。

再現される言葉も酷く、断片的だ。

そう、今現出している奇跡は幼い頃を思い出す断片的な、不完全な物に過ぎない。

ましてや当時を100%再現しても、結局は子供のやる事。


その細部は適当だ。

……例えばだ。


消防士とやらは何者なのか。

何故、どういうやり方で水を放水しているのか。

何故、その放水は水を原子に分解せしめる高温の太陽の火をすら消し得るのか。

何故、……。


子供の想像力というのは意外性に満ちていて突飛だけれども。

だけれども、瞬発力はあれども、それは単発的なものだ。

沸き上がった着想を突き詰めてイメージする事は少ないように思う。

少なくとも、俺は昔、そういう子供であった。


其処に思い至った時、真っ暗な思考の海の底でちらりと光りが弾け、急速に広がっていく。

そのまま底に沈んでいた思考ごと、視界が開けた。


開けた視界において、

変わらず太陽の金色を宿した髪が目の端に移り、

超常のぶつかり合いは変わらず圧巻の絵図を展開していた。


「分かった……そういう、事だったのか。”補えば良いんだ”」

「え?」

うわごとの様な俺のつぶやきにライラが反応した。


そう、補えば良いのだ。

子供心の発想は自由で、無限で、飛躍していて、可能性に満ちている。

その鏑矢の飛んでいった先に向けて、大人になった俺は補えばよいのだ。


―足りなかったディテールを。

―足りなかった知識を。

―そして、……足りなかった想いを。


水がその高温に負けるのは、科学の理だ。

だが、今危うい均衡を保っているのはその質量・体積が圧倒しているからだ。

結果的に炎が供給する熱は水の気化や、原子の分解によって奪われ天空へ持ち去られている。

つまり、突き詰めてしまえば、熱が供給される速度と水が熱を奪う速度の競争なのだ。


子供の頃なら、この炎、全部に勝たなければいけないと、きっととらわれた事だろう。

だが、大人の俺はすべてに勝たなくても良い事を知っている。

むしろ100負けても大事な1を間違えずに勝てば全て良し、だし、逆に100勝っても大事な1に負ければ人生終わってしまう事だってある。


要は選択と集中、だ。


では、今どうするのか。心の中で、今度は”大人の俺”が答えを差し出した。


「消防士……ゴンさん! 別口で高圧、いいや超々高圧の、いや、”世界一”、いやいや、」


息を目一杯吸い込む。


「”宇宙一”だ! ”宇宙一”の高圧で放水を頼む!」


張り上げた声はなんとも馬鹿馬鹿しいが、ここは景気よく行こうと思った。

なんせ、妄想なんだから。


もっとも本当に宇宙一となるかは定かでないが。


ただ、その声に応じ、光り輝く塔の頂上に「にょきっ」と何かが生えてきた。

銀色に光を跳ね返すそれは、まぎれもない、消防士の……ガンコそうな、おっさんだった。


おっさんはこちらをジロリと睨んだ後、前に向き直ると何やら重厚な装置を取り出した。

そこからゾロゾロと金属質のホースらしきものを取り出すと、射出口を炎に向けて構えた。


「~~~てぇっ! 馬鹿野郎メッ!」


怒号と共に放水された白い水の……帯は、瞬きする間に衝突点に達すると、

ぼふっと音がしそうな白い爆発を見せた。


その後が煙って良く見えないが、結果はすぐに表れた。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

突如、悲鳴が。


続けて、

ドン、

という轟音が。


そして、白い水煙の晴れた空高くに、黒い何かが錐揉みしながら打ち上げられた。


後から知った事だが、この時、高圧水流の速度は第一宇宙速度、秒速7.9Kmに達していたらしい。


当然、炎の熱はそんな人外の速度で供給される水の全てを分解する事など叶うはずもなく、瞬く間に炎の壁を突破した水流は真炎の核を打ち抜き、その中心にあった熊が上空に打ち上げられたのだ。


敵を沈黙せしめた俺の塔も役割を終えて徐々に発光が静まっていく。

依然として吹き荒れる暴風と水気を帯びたむせ返るような空気と、水分を急速に供給されて一面の曇り空。


「は~。なんとか、どうにか……、なったみたいだな」

それを見上げて、俺の口からは自然と安堵の息が吐きだされたのだった。


だが、その時だった。

「ちょ……」

ライラが震える声で前方を指さしたのだ。


―いったい何が?


俺は弛緩しかけた気持ちを慌てて引き締め、ライラの指さす方に視線を走らせたのだった。

一件落着……かと思いきや……(;´∀`)

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