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チート‐その19 ~ 顕現した異能、”妄想建築家”

「おい!ふざけんな!」

後ろからバックスの怒声が響き渡る。

だが、俺はそれを完全無視。この時、どういう理屈だか分からないが、

熟練の冒険者であるはずの少年をぐんぐん引き離していた。


「分かったんだ!」

「何がだよ!」

「妄想建築家の使い方が!」

「は?」

「それよりも、真炎、て事は相手は火で良いんだな?」

「ああ!そうだよ!」


その言葉を聞いて、俺は走りながらカンバスにクレヨンでとある絵を殴り描いていく。

それは、遠いあの日に描いたモノと同じモチーフ。


―相手が”火”であるならば、俺には絶対の自信があった。


無論、異能チートが何者をも凌駕し得るという前提で、だ。

もしその前提が狂えば何の意味もない。


だが、先ほどから左手が疼く。

脈動しながら体に波打つ力強い波動は、俺に根拠の無い確信を与えていた。

あるいは、自分が無力で無くなったかもしれないというのが。

……ライラ達にばかり危険を押し付けなくても済むかもしれないというのが。

…………あの、金糸の絹に彩られた異世界の美をこの手で守る事が叶うかもしれないという期待感が。


それが、俺の心にこんなにも高揚感をもたらしているのか。


瞼の裏にその乙女の姿が浮かぶと、高ぶる心臓がさらにドキリと一つ脈打った。


分からない!

何故だか分からないが、胸が張り裂けて叫びをあげそうだ!


「ぅうおおおおああああああああああああっ!」

「おい!」


だから、激情のままに雄叫びを上げ、一気に駆けた。

ここまで結構な距離があるはずなのだが、不思議と少しも息が苦しくならない。


景色が線の様に流れていく。

風を巻きながら、走る、走る、走る!

そして、書き上げた秘策の図面と共に、とうとう俺は村の門をくぐった。


門をくぐってすぐに周囲を見回す。すると、


「居た!間に合った!」

「……え?」


門から見て、巨大な炎の壁を挟んで向こう側。

そこで、豊かに輝く天上の光の色の彼女の髪は土埃に煙り、所々が焼けたらしく縮れていた。

だが、その意思の強い緑翠の瞳は光を持ってこちらを捉え驚きに見開かれていた。


―間に合った!


俺はそのまま走ってきた勢いで炎の壁を回り込むとライラのそばへと駆け寄っていく。

「ば……」


―”ばか”、だろうか?

自分の身も顧みないそんな彼女の言葉の欠片に胸が一杯になる。

溢れそう出しそうだ。


見ればその目は真ん丸に開かれて。碧の瞳が一杯に開かれて、そのふちに水滴が浮かんで、

頬を伝っていた。


「なん…で……」


―なんで、だろうな。正直自分でも分からないんだ。


そんな彼女に微笑んでから、俺は前に向き直った。


すると、目の前には巨大な炎の獣、……熊の異形が居た。


―これが”七つ星”という奴か。


人の身の丈の10倍はあろうかという焔の熊は屹立してこちらを見下ろしていた。


その裂けた口腔には盛んに空気が取り込まれ続けている。

炎か何かを吐き出そうとする予備動作であろうと、素人の俺にも容易に想像がついた。


巨獣の胸には六つの星が輝きを放ち、尋常でない何かが起こりそうな気配だ。

それが放っているであろう熱気に、空気すらもが焼け焦げ始めている。


事態は緊迫していて、だから、余計な事は考える暇は無い。

俺は左手をカンバスに当て、右手を突き出した。


「え、クラ……、キ?」

「分かったんだ……異能チートの、自分の、意味が!」

答えてそのまま、俺は発動のキーワードを発した。


建築コントラクト!」


同時に左手が、腕が熱に蝕まれる。

「!」

駆け上がる異物が心臓を蹂躙する感触に、その衝撃に衝撃に意識が朦朧とするが、

……だからこそ、今度こその成功を確信した。


なけなしの気合を振り絞り、右手は根性で前へ。

すると今度はそこへと向かって熱が殺到し、光となって飛び出していった。


光は飛び出すとすぐに光の柱となり、俺達と熊の間に割って入った。

同時に目の前のイオマンテは予備動作を終えたものか、一瞬動きが止まる。


―だが、建築を出来た時点で、こちらも準備は完了だ。


そして、

「斜塔よ、”最大出力で放水せよ”!」

言葉に応じて、光に霞む天空の塔が轟音を立てながら水流を吐き出したを吐き出したのと、

「ガァアアアアアアアアッ!」

真炎による崩壊の獄炎が放たれたのは、ほぼ同時であった。

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