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チート‐その15 ~ 現世に彷徨いだした根源の炎と乙女の決死の覚悟について - 中編

決死の覚悟を決めた女の瞳の中で、白い炎が揺れている。


真炎のイオマンテ。

巨大な轟炎の獣は、その眼窩にあたる部位を金糸たなびかせたエルフに向けた。

更に、口腔が下品に開かれるとその奥で核の焔に包まれた灰色熊の一部が覗いた。


―誘っているのだ


手に負えない真炎だが、一つだけ対処法がある。

それは、核にある元の生き物あるいは魂と根源たる真素を分離し、浄化する事。

だからこそ、化け物はそんな弱点をさらけ出し、ライラが狙って来るのを待ち構えている。

だが、彼女は右手にブロードソードを握り締め、左手を腰に添えたまま、巨獣を見据えて動かない。


怪異はその様に惑った。

現世にさ迷いだしてから、無謀な突撃か逃亡以外の反応に出会った事が無いからだ。


そして、それこそ歴戦の経験から導きだしたライラの狙い通りの展開。


―けれど、厳しい


彼女は現状をそう判断している。

今のままでは状況を打開する、例えば彼女が引き付ける間に…皆に「逃げろ」と伝える事も出来ない。


―ならば、動かすか


元々腹は括っている。

村人を逃がせないなら、敵を引き離す他ない。


―ダッ!


意を決した彼女が突如として、地を蹴った。

これに、焦れていた怪物が歓喜の咆哮を上げる。

ただ、彼女の推進方向は斜め後方へ、三度。

合わせて左手が視認の困難な速度で同じく三度霞んだ。


いずれも狙いはさらけ出した弱点、口腔の奥だ。

位置を変えながら三度投擲出来たと言うことは、つまり、化け物が三度向きを変えて人族では最上級の速度に反応して見せたという事に他ならない。


加えて……、


「……やっぱりね。期待もしてなかったけど」

舌打ちしたライラの鼻腔を不愉快な匂いが掠めた。


投げたナイフが“燃え尽き”たのだ。

火焔耐性、貫通属性、水属性、そして真炎を切り離す分解の魔法を付与したナイフが、だ。


あわよくば、と思った彼女だが生憎と現実は厳しかった。


一方で、村の反対側に位置する事には成功した。

後は攻撃を捌きつつ引き離す様に誘導し、

どこまで……命が持つか、だ。


ライラは剣を両手に握り直した。


すると、これを合図と見たものか、

化け物は再び歓喜の咆哮を上げて彼女に突進を試みた。


怪物の朧な意識は最早迷いを抱いて居なかった。

目の前の敵の有り様に思い当たりがあったからだ。


逃げる事のままならぬ子を後ろに庇った大鹿の母親が見せた儚い反抗の意志と同じ色の光。

それが、目の前の戦士の瞳にも宿されたのを視たからだ。


その時と同じく、凶悪な轟炎の前脚が逆さに袈裟斬りの軌道を辿り振るわれる。


だが、今度の獲物は無力な鹿ではない。歴戦の冒険者である。

びゅぅ、と風を纏った炎は上手い具合の角度で迎え撃たれると、ブロードソードに宿った風と氷の属性の加護に阻まれ、弾き飛ばされた。


ガン、と無機質な音が響く。


衝撃に小柄な冒険者の体は宙に飛ばされるが、卓抜した身体能力を持って軽やかに地に降り立つと、

遅れて金色に輝く絹が舞い降りた。


「……」

魔法まで付与された業物のブロードソードであるが、今の一合でガラクタの様に歪んでしまった。


―後、何合打ち合う事が出来るのか。


生憎と、他に手持ちの武器は無い。

その心に諦観が浮かび上がりかけるが、頭を振ると再び構えを取る。


これを待っていたのか、化け物の裂けた口は更に吊り上がった。

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