チート‐その12 ~ その頃のシュクラ村跡地にて行われたユニフォーム交換ならぬ・・・・・・?
何を交換しちゃうんでしょうか?
ーその頃。
「-しっ!」
鮮やかに振るわれた剣閃は太陽の光によって輝きを放つ。それに伴って紙屑の様に切り裂かれる狼型の魔物の群れ。A級冒険者の姉と旅する弟、バックスの剣の腕もまた一級品である様だ。
「サンキュー、助かった……」
縄張りの作業をしていた所、突如魔物に襲われて恐怖したが、弟君の活躍に救われて一安心の羽村。
だが、対称的に殲滅を成したバックスの表情は晴れない。
「……やばい」
「は?」
「向こうからもっと大きな群れの気配……これは、まさか”大行進”?」
「嘘だろ!?稀な災害じゃないのかよ!」
「でも原因も何も判明してないし解決も、~っ!」
言う間にも地響きがする。
無数の足音が、今度は山の向こうから聞こえた。
「逃げるか?」
「一体……どこに?」
そう、全方位から来る足音に対して、どこに逃げるというのか。
と、そこで、羽村はイチかバチかの賭けを思いつく。
「な、なあ、バックス」
「何だよ?」
「パンツ、持ってないか?」
「は?ふざけてるのかお前、……殺すよ?」
目が本当に殺気立っている。
が、ふざけているつもりはない羽村は怯みつつも言葉を何とかつづけた。
「い、いや、ふざけてなんかない、本当だ。俺の異能、覚えてるだろ?」
「まぁな……」
「多分、動物とか関係なく効くんじゃないかと思うんだ」
「何故、そう思う?」
「酒場で見たんだ。あの時、……ネズミが平伏している珍妙な様を」
「!?」
「魔物とかいうのと同じかわからないが、どうせ死ぬなら試す価値はあると思う」
―悪くない
バックスは羽村の提案をそう評価した。
おそらく逃げても逃げられない状況、大行進に巻き込まれればバックス自身も生存は絶望という状況だ。
もしも、こいつが異能”裸の王様”でなんとか出来るなら。
但し、それには問題があった。
予備が、姉のザックに入っているのだ。
そんな彼に色々な声が上がりそうではあるが、兎に角、パンツは今この場に彼が履く一枚しかない。
それと、もう一つ。彼はその……男性の象徴的なアレにコンプレックスがあり、出来れば隠れて着替えたいがその猶予が無さそうなのだ。
「頼む!嫌かも知れないが、時間がない!」
言いながら羽村はいそいそとズボンを脱ぎ出した。
「ちょ…」
「頼む!緊急の事態なんだからさ!」
下半身丸出しで美少年に迫る羽村。
ちょっと、イケない絵面だ。
「ふ、ふざ!……ああ!もう!分かったよ!」
ヤケクソ、とばかりズボンとパンツを脱ぎ捨てたバックス。
村には下半身丸出しのイケない男二人……
「お、おま、お前……っ!」
と、羽村が動揺する。
「だから、嫌だったんだ……」
泣きべそのバックス。
そこには何がとは言えないが、羽村のをハムスターとすると、カピバラ位ご立派なアレが。
……彼の、コンプレックスである。
下半身丸出しで荒野に固まる男二人。
しかし、神はホモい絵面の二人に格差と羞恥にいつまでも悶える時間を与えてはくれない。
無情にも、また草むらがガサリと揺れたのだ。
その瞬間、羽村青年の体感する時が止まった。
ー地面に落ちた使用済みパンツを掴み、
ー神速で足を通し、
ー振り返って……
「ひれ伏せぃ!」
ーポーズを決めるまで、約3秒。
ーそして、時の流れは元の早さに戻った。
「バカお前、わぶっ!」
だが、相手を指定しなかった、異能“裸の王様”による命令は、バックスにも効果を及ぼした様だ。
哀れな少年は下半身丸出しのまま土下座をさせられてしまう羽目に陥った。
「ああ、すまん。バックスは外さないとな」
と思った羽村だったが。
ーガサリ
「ひれ伏せぃ!」
ーガササッ!
「お前、ふざけ、」
「ひ、ひれ伏せぃ!」
「わぶっ!」
ードドドドドッ!
「ひれ伏せぃ!ひれ伏せぃ!ひれ伏せぃ!~っ!」
「うぶっ!」「ほぶっ!」「おぶっ!」
際限の無い魔物の出現にその暇がなく、忙殺されてしまう。
そうこうする内に今やパンツ一丁でポーズをとる青年とお腰につけた吉備団子をさらし土下座する少年の周りにはモンスターが数えきれないほど集まってしまった。
「くそ、こうなったら……バックス、応援を呼ぼう。ここは俺が押さえるから、“この事態を皆に知らせに行ってくれ!”」
ガタッ、とバックスが立ち上がった。
そして、踵を返すと、
「ちくしょぉぉっ!覚えてろよ~っ!」
泣き叫びながら駆け出して行く少年。
ーその下半身は、未だにネイキッドであり……
「あ……ズボン履かせてやるの忘れてた……」
下半身全開“マラ”ソン大会を命じた暴君“裸の王様”の呟きが虚しく荒野に溶けていったのと、不幸なエルフの少年が地平線の向こうへ消えたのはほぼ同時であった。
カオスはまだ終わりません。
次回、羽村の身に災難が降りかかります……




