チート‐その10 ~ タックラ村の村長はHKではないが、マジパネェ!
「まるで足りませんな、とはおっしゃいますが……」
流石に俺は口を挟んだ。
あかん、思った以上に守銭奴だ。
と、そんな俺の様子を見て、目の前の老人は相好を崩した。
「ああ、」
「え?」
「”足りない”のは金の話ではありませんよ。ご心配無く」
「は?」
「貴方様は考えている事がかなり顔に出ますな。お若いうちは素直は美徳ですが」
「は、はぁ?」
「ぷっ!」
隣でライラが吹き出した。
「なんだよ……」
「いえ、何も?」
今度は楽しそうにそっぽ向きやがった。自由な奴だ。
「王都からの伝令の方から伺っておりますが、貴方様は異世界から来られたそうですな」
「え、まあ」
「その世界は、大変素晴らしい世界のようですな。栓をひねれば水が出て、街は綺麗に整備され、衣食住はお金さえあれば直ぐに提供される、王都以上の天国のような場所なのでしょうな」
「そうでもないですよ。色々とあるんです……」
「ほう、人間関係ですかな?豊かになっても苦労はあるものなのですなぁ。ですが!」
と、そこで厳しい表情になった。
「工事の期間の間、工夫達の衣食住はどうされるお心算で?」
「初日に小屋を作って」
「食料は?」
「一応、保存食を人数分確保して」
「なるほど。食と住は考えた、と。では衣はどうされますか?」
「衣?」
「そうです。5日間服は着たきりですかな?洗濯はしないと?病気を患う者も出るやもしれませんし、生活には色々と必要なものが出てまいります」
「……考えて、なかった」
「そうでしょうな。まあ大雑把に言って、女手が足りないと申しておるのですよ」
「……」
「食事も保存食、とは申されますが、毎日温かくない食事では段々意欲も減衰しますからな」
「その、通りですね……」
か、考えてなかった。
「また、魔物の襲撃でもあれば最低限の建物が初日に建築が無事できるとは限りませんからテント等も必要でしょうな」
「う……」
……俺は、この世界の厳しさを全く理解していなかった。
「銀貨は300枚で良いですが。工事に従事する者は12名、それと村の女手もお貸ししますよ」
「良いんですか!」
がばっと顔を上げてしまった。てっきり見積もり漏れを指摘されてもっと請求されるものだとばっかり。
「それでも破格ですからな」
「そう、なんですか」
「そうです。この辺では現金収入のある仕事自体が少ないですし、相場もまあ1日銀貨1枚いけば幸運ですからな。それに……」
「それに?」
「シュクラ村復興後の両村の関係性も思いやって提案してくださったようですから」
「ぶっ!」
バレてる!こっちの手の内全部バレてる!
「はは。こちらも手の内を明かしますと、正直悩んでいたのは住民間の感情でしてな。王都で人員確保が難航しているとの情報に接しまして、期待していたのですよ」
誰だ!バラしたアホは!
「ああ、王都から入ってくる情報で工夫の単価が分かりやすく吊り上がっていっていたので、後は想像ですな。もう少し賢くやれば王都でももう少し確保できたかもしれませんが、我が村には幸運でしたな」
犯人は、……俺だった!
だが、お蔭で手強いながらも心強い支援を取り付ける事が出来た。
次は……シュクラ村の住民達だな。