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チート‐その1 ~ ”妄想建築家”の憂鬱な日々の始まり

「”妄想建築家”、ですか」

「…はい」


俺の残念な鑑定結果に、目の前の若い女性がなんとも所在なさげに瞳を揺らした。


女性と俺の間には簡素な机と一つの大きな水晶球。


そこには確かに”妄想建築家”という文字が青白い光として表示されており、覆いかぶさるように薄く映り込んだ31歳独身男の顔の真ん中で眉毛が歪んだ八ノ字を描き、持ち主の困惑を表現していた。


「ちょっとその、ゆ、勇者? …というか戦いには厳しいですかね?」

「うーん…」


目の前のお姉さん。何やら必死にフォローしようと悩んでくれている様だが、

我ながら酷な問いかけをしたもんだ。

仮に俺がそっちの立場だったら何て言って声かけたものか悩んじゃうものな。


まあ思い返せば、昔からクジを引けば大当たりなんて無く、かならず外れかその1個上。

就職も第一志望から外れに外れて、ブラックというほどひどくもないが、決して華やかだとか高給だとかそんなものと無縁な中堅ゼネコンで朝令暮改なダメ上司のおまけつき。

彼女も2,3人できたが合コンで出会った微妙な始まりと浮気だか自然分解だかよくわからない展開の、大ゲンカも特にない微妙な別れ。


”華”とは無縁な、微妙で灰色の人生ではあった。

異世界トリップというこの場面においてすらも「建築しごと」がついて回るあたりに思う処がないでもない。


だが、それにしても”妄想”建築家とは。

悪い方であるとは言え突き抜けたのは人生初の快挙、なのではないだろうか。


そう思ったら今度は不思議と笑いがこみ上げてきた。


「あの?」

落ち込んでいるであろうおっさんがフォローしようと思ったら今度は急に笑い出すという

不審な行動に訝しんだのか、今度は目の前の女性から警戒感が漂う。


「くっく……あ、いえ、何でもありません」

それを見て慌てて表情を取り繕い、怪しげな笑いは引っ込めた。

異世界まで来た直後に不審者と思われては堪らない。


「そ、そうなんですか?」

「ハハ。まぁ、なんとか言うか色々スミマセン。・・・でも、”彼”が魔王を倒すまでの間も自由にしていていいんですよね」

「はい! 衣食住は王宮内の滞在区画で提供させて頂きますし、僅かですがお金も出させて頂きます!」


ある日突然渋谷の交差点に映し出された大型ビジョンからの切実な”お願い”


―魔王から私達の世界を救って下さい


とまあ、コテコテのテンプレなのだが、映った巫女兼王女様だとかいうのが大層な美人だという事で、応じて志願した日本人がざっと100人程。

俺も、煩わしい上司や納期に追われ昇給も無い日々にオサラバしたい思惑もあって目の前の魔方陣に飛び込んだ一人。


魔方陣を通過する事により100人の「異世界人」はランダムで特異な能力、所謂「チート」に得たのだが、結果は人により何を得るか千差万別である為、こうして一人一人鑑定しているという次第だ。


前段の『彼』、とは一緒に召喚に応じた参加者100人の日本人の中で真っ先に鑑定を受け、結果、”光の勇者”の加護チートを得た少年、宍道健太とその学友達。

彼らは既に魔王討伐の旅の空の人となっている。


その他にも異世界召喚で一人一つの加護チートを与えられたのだが、他にも有用な能力を得た者は冒険者になってモンスターから人々を護ったり、もしくは新たな魔法の研究で勇者を側面支援する等の貢献を果たす事となった。


ただ、運悪く、俺の様にまったく役に立たなさそうな加護しか得られなかった者も少数ながら居て、まあ少数なのも幸いしたのだろう、所謂ミソッカスではあるがそれなりの待遇で迎えてもらえる事になったようだ。


「ニートの癖に至れり尽くせりで、なんだか申し訳ないですね」

「そんな事! 確かに魔王軍との戦いに参加頂く事は無いと思いますが、私達の国を救おうと異世界渡りまでして来て頂いた方達に、私達も最大限の誠意でお応えしたいですから!」


その後、今後の生活にかかわる基本的な説明を受けた俺は、

夕食まで間があるという事で早速、「異世界の王都」とやらを見物に外に繰り出すことにしたのであった。


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