第8話
どれくらいその場にそうしていたのか分からない葉月は不意に頭上から降ってきた声に顔を上げた。
そこで自分を見下ろす海の底のような深い深い藍の瞳と視線が絡まる。
「・・・」
「立てますか」
耳に心地よく優しく響く声と共に差し出された手におずおずと自分の手を重ねる。
引き上げるようにして葉月を立たせた男はそのまま葉月の腕を引き自身の腕に抱きこんだ。
「・・・」
胸にあたる耳からはとくとく、と規則正しい心音が聞え葉月は流れる涙が止まらなくなった。
「・・・ごめんなさい・・・」
服を濡らしてしまうと思い葉月は目を手でこする。
すると、男の手がそんな葉月の手首を掴んで行為をやめさせる。
「無理に泣き止もうとするものではありません。泣きたいときには泣かなくては」
言うと、男はそっと、葉月の紅くなった目元に唇を寄せる。
冷んやりとしたその感触に背中が震える。
そして、子供のように声をあげ、男の腕にすがって葉月は泣いた。
泣いても泣いても涙が枯れることはなく、ようやく泣き止んだのは葉月が顔をうずめていた男の高級そうなスーツの胸元が涙を含み周囲の色よりも濃くなった頃だった。
それでも男は何も言わず葉月の背中をなだめるように撫でていく。
「歩けますか?もう、ずいぶん長いこと居ましたから体が冷えてしまったでしょう」
体の感覚は麻痺していて寒さなんて感じなかったが、自分につき合わせてしまった男はきっと寒かったに違いない、そう思うとさらに罪悪感がこみ上げてきた。
「・・・ごめんなさい・・・」
「謝るようなことではありませんよ。私が勝手にここに居座ったのですから。そうですね・・・体も冷えてしまっていますから温かいものでもいかがですか」
言うと、男は葉月を促しエレベーターに乗る。
「あの・・・」
「申し訳ないと思うなら、お茶に付き合ってください」
そんなのさらに男の迷惑になってしまうと葉月が断ろうと口を開こうとしたときだった。
「そうです。名乗ってませんでしたね。私は高馬東悟と言います。よろしくお願いしますねお隣さん」
「・・・えっと・・・天羽葉月です・・・みっともないところをお見せしてすいません・・・」
泣きすぎで声は出てこないしこのぶんだと化粧も取れてみっともないことになっているのだろう・・・そう思うと葉月は一気に恥ずかしくなった。
しかも、お隣さんとはいえ見知らぬ男にすがって泣くなど素面では考えられない行動もとってしまった。
そんなことを考えながら、ちらち、と斜め前に立つ男を伺い見る。
男性的というより中性的な顔立ちは冷たいくらいに整っていて、綺麗だけれどもどこか陰のある顔をしていると思う。
「どうぞ」
エレベーターを降り、男が葉月を促したのは彼の部屋の扉だった。
「・・・あの・・・」
「どうぞ」
「はい・・・おじゃまします」
有無を言わさぬ声音に負けた葉月は男の家に足を踏み入れた。
なかなか進まない・・・
そして、作者いろいろと忙しく、悲しきかな、なかなか妄想する時間がなかなか取れません・・・
浅はかにも見通しも何もなく書いているため妄想の時間というのは結構重要だったりします。(そこからお話が発展していくので・・・)
今回もどうにかこうにか話をまとめての投稿・・・これでは先が思いやられるってことくらい作者も分かっているんです・・・分かってはいるんですが・・・(言い訳はやめておきましょう)
今のところ2、3日に1話ずつ投稿していますが・・・
この先もこのペースでいけるかは分かりません・・・(精神的に・・・)
読んでくださる皆様のおかげでがんばっておりますので、どうか見捨てないでください。