第7話
葉月ちゃんの過去の恋愛・・・
かなり暗いです。
ぱさり、と音をたててポストから手紙が落ちた。
差出人の名前を見ると、【水瀬斎】と書かれていた。
「・・・」
葉月はその場で手紙の封を恐る恐る切った。
中には一枚の便箋と封のされていない封筒入りの手紙が入っていた。
【天羽葉月様
突然、このような手紙を送り申し訳ありません。
このたびは息子、水瀬斎のことで連絡をせねばならぬことがありこのような形をとらせていただきました。
一年ほど前、斎の体に癌の腫瘍が見つかりました。
このときすでに体の各部位に転移しており、もって半年と医師から宣告されました。
余りに突然の出来事に私も夫もただただ呆然とするばかりで・・・
どうして息子が・・・そんなことばかり毎日考えてしまうようになりました。
しかし、息子は自分が一番辛いでしょうに毎日笑顔を絶やすことなく私たちの側にいてくれました。
宣告された半年を一ヶ月過ぎ、二ヶ月過ぎ・・・息子は懸命に生きていました・・・いえ、生きようとしてくれました。
もしかしたら息子はこのまま生きてくれるのでは、そんな思いが頭をよぎるようになった矢先。
私たちの思いとは裏腹に先日、息子は眠るように息を引きとりました。
息子の遺品を整理していた中にこのようなものを見つけましたので同封いたします。】
「・・・」
葉月は震える手でもう一枚の手紙を開いた。
【葉月へ
こんな風に手紙を書くのは初めてのことだから、なんだか緊張する。
きっとこれが君に贈る最初で最後の手紙になるだろう。
別にこの手紙を読んだからといって君が後悔したりこの手紙を枷に思ったりしてほしくは無い。
僕はただ純粋に君に伝えきれなかった僕の想いを言葉をここに書き綴ろうと思うんだ。
余命半年、一年前、そう宣告されたとき僕の脳裏に一番に思い浮かんだのはここだけの秘密、両親には悪いけれど・・・葉月、君の顔だった。
それも泣き顔。
僕が一番対処に困る顔だ。(可愛いんだけれどね)
それと同時に思ってしまったんだ。きっとこのことを話せば君は僕から離れられなくなる、僕を忘れられなくなる。
それはとても魅力的なように思えたけれど、僕はそんなことで君を縛ってしまいたくない。
忘れられたくないのは本当だけれど、だからといって君が幸せになることの邪魔はもっとしたくない。
出来ることなら僕が君を幸せにしてあげたかったけれど、それはもう叶わないから・・・
だから・・・あの日、君に別れを告げる決意をしたんだ。
君の顔を見ると決心が鈍ってとっさにあんなことを言ってしまったけれど、そんなことはないんだよ。そして、君の泣きそうに歪んだ顔を見て僕はひどく後悔したんだ。
あのときの僕は、君がいつも心のどこかで僕が君の傍にいることは過去の出来事の贖罪だと思い込んでいるということを忘れていた。
そんなこと決してありはしないのに。僕が君の側にいたのは君が好きで君を愛していたからなのに、君は無意識のうちにそう思ってしまっているようで、けれど、それに気づきながらも僕が何もいわなかったのは・・・嬉しかったんだ。
だって、そう思いながらも君が僕から離れていかないのは僕に君が執着しているということで、そのことに僕はいつだってほの暗い喜びを感じてしまっていたんだ。
ねぇ、葉月、僕の幸せはね、君が幸せでいること、ただそれだけなんだ。
愛してるよ。
君だけを愛してる。
斎】
空からぽつりぽつりとまるで葉月の心を映したかのように雨が降り出した。
郵便受けの前で手紙を開け、読んだ葉月は人目も憚らずその場にうずくまって声をあげて泣き出してしまった。
『好きな人が出来たんだ・・・別れてくれないか』
そう言った彼の声を顔を葉月は今も鮮明に憶えている。
どうしてあの時、もっと彼と話をしなかったのだろう。
彼が自分を裏切るようなことを決してしない人だという事を誰よりも知っていたのは葉月のはずで・・・あの頃彼から向けられていた愛情が償いのためでもなんでもなく、彼の本当の想いだと知っていたはずなのに、告げられた言葉に驚くあまり、葉月はそう告げた彼のほうが震える声を傷ついた表情をしていたことに気づくことができなかった。
いや、違う・・・
自分は怖かったのだ・・・
過去で彼を縛っていると思っていたから、自分が彼に本当に愛されるはずはないと心の何処かでいつも思ってしまっていた・・・
だから・・・別れを告げられたとき、何も言えなかった。
言う資格なんてないと思った。
彼を解放してあげられる、むしろそんなことを思ってしまった自分はなんて愚かだったのだろう。
「いつまでもそうしていたら体を冷やしてしまいますよ」
やっと書きあがった!そんな気分です。(いつも無計画なもので・・・)
今回は葉月ちゃんが恋愛に消極的な理由というか・・・お隣さんと曖昧な関係しか未だに築けていない原因・・・みたいな・・・
かなり端折った取ってつけたような手紙だったと思うので、たぶん葉月ちゃんの過去の出来事は分からかったと思います。細かなところはまた追々書く予定ではいます。
作者的にはどうして東悟さん(お隣さんの名前です・・・出てこないから忘れられてそうなので・・・)と前話のような関係になったかのいきさつを重視して書いたためこのような形になりました。(文才無くてすいません本当・・・)
そろそろ物語りも動き出すはず・・・(もはや人事・・・お馬鹿な作者・・・)