第5話
「・・・」
マンションに着いた葉月はエレベーターを待つ人物を見て、驚いた。
それもそのはず、そこにいたのは先ほど公園で会った男だった。
どうしてだろう。先に公園を出たのは葉月のはずで、その後、すれ違った覚えも抜かされた記憶もない。
「・・・」
「同じマンションの方だったのですね」
「そうですね・・・」
男も葉月に気づいたようで、声をかけてくる。
その声になんとなく嫌な予感がする。
何かが引っかかるのだ。・・・けれど、それが何なのかが分からない。
『フーッ』
先ほど男の腕に抱き込まれていたのが嫌だったのか男を見るなり威嚇するように鳴く猫を見下ろし
「・・・どうするんです、その猫?」
と男が聞いてきた。
「まだ、子猫ですし、弱っているようなので、病院に連れて行って飼おうかと」
「そうですか・・・いいですね、帰る場所が出来て・・・」
そう、猫に向けて言う男の横顔は迷子の子供のようにひどく頼りなく見え、心が騒ぐ。
頭を撫でようと手を伸ばした男の手を、猫はまるで『いやだ』とでも言うように引っ搔いた。
「・・・」
「・・・嫌われてしまいましたね」
男は血の滲む手を押さえながら苦笑する
「あの、これ、ハンカチ・・・」
慌てて鞄を探りハンカチを取り出して男に差しだそうと声をかけた時だった。
「東悟!てめぇ、ふざけんなよ!!!!」
エレベーターの中から降りてきた男性は葉月の横に立つ男を見るなりつかみかからんばかりに詰め寄った。
「おや、御代さん」
「・・・おや、御代さん、じゃねぇよ!」
「カルシウム不足ですか」
「ふざけんなよ、お前。どっかの誰かさんがこのくそ忙しいときに置き手紙一枚残して消えてるもんだからこっちはあちこちお前を探し回るはめになったんだよ」
「それは、とんだ労力をかけさせてしまいましたね。失礼しました」
「で、どこにいたんだ、東悟」
「公園」
「・・・」
「一人になりたかったので」
「・・・」
青筋が額に浮かんでる人なんて初めて見たかも・・・
「それで」
「気づいたら寝てました」
「・・・」
「・・・」
「俺は、今日、行くとあらかじめお前に伝えていたはずだが?」
「急に思い立ったので」
「・・・」
会話を聞くなり、自分の横に立つ人物に明らかな非があると思う。
そして、部屋に帰りたいのだが、目の前に立つ男の威圧感が半端なく、葉月はその場を動こうにも動けなく状態になっていた。
『なうっ!』
「そこをどけ」そんな風にも聞こえる声で沈黙を破るように鳴いた猫に男達の視線が集まる。
「おっと、これはお見苦しいものを見せてしまいましたね」
今気づいたとばかりに御代は葉月を見る。
そして、先ほどまでとは一転した声音で葉月に話しかてきた。
「いえ・・・」
「御代さん、ここでは何ですから、部屋に移動しましょう」
「そうだな」
その言葉に御代も頷く。
「何階ですか」
「えっと、14階を・・・」
「お前と同じ階だな」
「・・・」
『声』だ。
唐突にこの男の声は毎朝聞く隣に住む男の声と同じなのだということに葉月は気づいた。
嫌な予感的中。
先ほど感じた引っかかりの正体はこれだったのかと葉月は小さく唸った・・・
・・・爆死・・・
やっと、やっと、お隣さんの名前が出てきた!!!
まさかここまで引きずるとは思わなかった・・・
そして、ここで急展開をむかえるはずもなく、お話はまだまだゆっくりと進む予定。
がんばっているのだが・・・いかんせん作者が忙しい・・・(涙)
そして、なかなか話がまとまらないため脳みそがオーバーヒートを起こしてしまい、ここのところ更新が滞っておりました。(申しわけない)
まだまだ過去編続きます。
よろしくお願いします。