第26話
『パタン』という音がして扉が閉まった。
何も言わず部屋を出て行く男から感じたのは明らかな拒絶だった。
そして、葉月は静かに部屋を後にするその後姿を何も言わず呆然と見送った。
引き止めたかった。
泣いて縋りたかった。
けれど・・・出来なかった。
これ以上言葉を重ねてさらに彼に拒絶されることが今の葉月には何よりも恐ろしかった。
「・・・ふっ・・・」
ぼやけた視界に泣いているのだと自覚する。
その涙を拭い、自身の荷物を持つと葉月は東悟の部屋を後にした。
(引き止めもしないんだ・・・)
その事実が葉月の心を抉る。
自分の部屋に帰ると葉月は玄関にずるずると座り込み、膝を抱えて泣いた。
言ったことは後悔していない。
こうなることも予測していた。
けれど、心の底では、彼が自分を受け入れてくれるのではないかと、そう思っていた。
「大丈夫・・・これからだもの・・・」
そう、これが終わりじゃない。
始まり方を間違えた私はやっとスタートラインに立ったのだ。
ここから先どうなるのかはまだ葉月にも分からないけれど、この先を描くのは葉月自身だ。
『にー』
擦り寄ってくきた猫の頭を撫でる。
「泣いてちゃ駄目だよね。強くならなきゃ」
あの人は弱いから。
葉月まで弱くなってしまったら、ここで終わってしまう。
逃げてはいけない。
今、彼に向き合うことなく逃げてしまったら、葉月自身が後悔する。
後悔はもうしたくない。
きっと、明日からまた笑うから、頑張るから。
今だけ
今だけは
みっともなく泣くことを許して・・・




