第13話
前話とのつながりがイマイチだったので手を加えてみました・・・
「忘れたりしません・・・出来ません・・・だから・・・あなたも無かったことになんてしないでください・・・」
そんな言葉と共に男は葉月の肩口に額を押し当ててきた。
肩にかかる重みに葉月は胸が締め付けられる。
感情だけが葉月の心を置いて男へと向かっていっているのを感じるからだろうか・・・葉月は男へ今にも手を伸ばしてしまいそうな自分自身を怖いと感じる。
そんな思いから逃れるように身体をよじると、それを拒むように抱きしめてくる腕に力が篭る。
先ほどまでの甘く穏やかな雰囲気はいつの間にか消え去り、どこか切羽詰ったような雰囲気の中、葉月の背にまわされた腕だけが男を今、この世界につなぎとめているそんな不思議な感覚が葉月を襲う。
そう、まるで男の命綱を今まさに自分が握っているそんな感じだ。
それを離してしまったら最後、男は夢のように消えてしまうのではないか、そんな不安を葉月に抱かせる。
「あの・・・」
「・・・名前」
「えっ?」
「名前を呼んでくれませんか」
懇願する声に葉月は男の名を呟く。
「・・・高馬さん」
「・・・」
返事がかえってこない。
「・・・東悟さん」
「はい・・・」
呼び方を変えると返ってきたのは囁きのようなどこか嬉しそうな声だった。
その声がまた葉月の心を締め付ける。
忘れ去っていたはずの甘く、切なく、苦しい感覚が呼び起こされる。
一度呼び起こしてしまったそれは、伸びる蔦のように葉月に絡み付いてくる。
「葉月・・・葉月・・・」
まるで存在を確認するかのように何度も何度も繰り返し名を呼ばれる。
今だけ・・・
そう思い応えるように葉月もまた東悟の背に腕を回す。
ふわりと鼻腔をくすぐるのは爽やかなシトラスの香り。
迷子のように揺れる男の瞳を覗き込み、安心させるかのように何度も何度も背を撫でながら、腕の中にいる互いの名を呼び、そこに互いが存在しているということを確認する。
たった一度、それも衝動的に肌を重ねただけの相手。
昨日まで自分の人生と交わることすらないと思っていた男。
互いのことなど何一つ知らず、唯一知っていることといえば互いの体温だけ・・・
それなのに・・・
どうして、どうしてこんなにもこの腕の中は心地よいのだろう。
どうしてこの腕を自分は振り払えないのだろう。
視線をあげれば絡む瞳に宿るのはどこか自分と酷似したほの暗い色
はたして壊れそうな心を抱えているのは私なのか、彼なのか・・・
ひとまずここで葉月ちゃんの回想というか二人の出会い的な過去編は終了。
予想したよりも長くなってしまった・・・
そして、なかなか話がまとまらず、進まないため読んでくださっている皆様には申し訳ないです・・・本当・・・
次話からはひとまず現在に戻ります。
そろそろ話も動くはず・・・
行動に出そうな方もいらっしゃいますし。
来週には作者の忙しさもだいぶ緩和するのでがんばって話を進めるしだいです。
寒波が来ているので、皆様お風邪など召しませんよう。
作者は寒いのが苦手なので防寒対策はばっちりです!




