第12話
葉月がマンションへと帰宅したのは深夜を回った頃だった。
斎の家で散々泣いた顔は化粧も取れ朝以上にひどい有様となっていた。
「・・・」
エントランスの明かりは暗闇の中どこか世界から切り離されたように見える。
「・・・っ」
「お帰りなさい」
近づくにつれたたずむ人影が見えた。
近づくにつれはっきりとしてくる人影は隣人・・・葉月が縋りついた男・・・だった・・・
「・・・どうして」
「・・・」
いったいつからここに居たのか。
前に立ち頬に触れる男の手は氷のように冷たくなっており、葉月は熱を分け与えるようそれに自分の手を重ねる。
「・・・ました」
「えっ」
「心配しました」
「・・・」
「起きたら君は腕の中にいなかった」
「・・・ごめんなさい」
たったそれだけのことで目の前の男は自分の心配をしたのか。
場慣れしていそうな雰囲気を持つ男なだけに葉月は男の言葉に笑いそうになった。
「仕事かとも思ったのですが、それにしても私はあなたの帰ってくる時間を知りません」
「・・・それでここにいたと、こんなに手が冷たくなるまで!?・・・あなたは馬鹿ですか!秋はじめの夜は思う以上に冷えるんです。それをこんな時間まで・・・いったいいつからここに居たんですか!!」
そうまくしたてていた葉月を男は抱きしめた。
「・・・っ」
「本当によかった・・・帰ってこないかと思いました」
搾り出したような声音に葉月の心臓が締め付けられる。
「・・・・・・どうして・・・どうして、そこまで気に掛けてくれるんですか」
目の前の男にとって葉月は隣人とは言え、昨日あったばかりの他人のはずなのに・・・
「どうしてでしょうね・・・私にも分かりません。ただ・・・しいて言えば、あなたの隣はよく眠れる」
「ふふ・・・なんですかそれ」
楽しそうな男の声に葉月もつられて笑う。
「やっと、笑ってくれましたね」
「えっ・・・」
「昨日から泣き顔しか見ていなかったものですから」
「・・・」
どっと昨夜の記憶がよみがえり、葉月は真っ赤になった。
「っ・・・」
涙を流して縋りついた。
うわ言のように時折言ったのは別の男の名前・・・
凍てつく男の瞳から流れた涙の味に素肌に感じた男の体温・・・
鮮明に思い出せるそれらに、葉月は穴があったらもぐって二度と出てきたくない衝動に駆られた。
「昨日とは逆ですね」
くるくると葉月の髪を指に巻きつけ笑う男は火照りを冷ますように頬に手をあてる葉月を見ながら目を細め楽しそうに笑う。
「・・・昨日はすいません・・・間が指したんです・・・できれば忘れてください」
搾り出した声は蚊の鳴くような小さな小さな声だった。
葉月としてはこのまま元のとまではいかないにしてもただのお隣さん同士という関係を崩したくはない。
認めたくはないが、葉月は自分とどこか似通った・・・瞳に孤独を宿す目の前の男に惹かれはじめている。
そんな抗いがたい重力のようなものを葉月は感じている。
だから逃げたいのだ。
逃げられなくなる前に・・・
深みにはまるその前に・・・
逃げられる、まだ引き返せる今のうちに葉月は逃げてしまいたい。
疲れた・・・
忙しかった・・・
土日にも関わらず本当に忙しかった・・・
そして、やっと内容がまとまった・・・気がする(気のせいだよ)
まぁ、どうでもいいや!!(よくない)
十二月になりましたね。月日が飛ぶように過ぎていきましたよ、それはもうびっくりするほどに。
一年を振り返ろうと思ったのですが・・・昨日の夕食すら危うい作者の記憶力・
もちろんすぐに断念しました。(大変な一年でもあったので)
今年も残り一ヶ月、たった一ヶ月、されど一ヶ月です。
どうぞ、今年最後の皆様の一ヶ月がよきものでありますよう、作者、願っております。




