王都の下級騎士
何故私はこのような場所にいるのだろう?
任務を受けて数度目の自問を繰り返す。
見渡す限りの木、木。
人の腰ほどの丈がある草々。歩く度にからまる蔦。
我々一行の鎧の音や息遣いの他、時折獣や鳥の鳴き声が聞こえる。
ここはテオテル村がある山の中、すでに入山してから十数日が経過している。
テオテル村に行くには『ロープウェイ』なるものがあり、通常ならば村まで八日は掛かるはずが、数刻のうちに村へ着けると聞いていた。
だが、どこを探してもそのような人造物は無く、かろうじて村人が作ったであろう山道が見えるだけだ。
……今ではその山道すら見失ったが。
兵糧はすでに尽きた。ただ頻繁に出る獣やラクシュ湖から流れる小川のお陰で飲食の危機はまだ無い。
しかし、山の中とは言え夏の暑さや予定以上の長丁場は心身ともに疲弊するのには十分だった。
当初は百人程の人数が居たが次々に脱落していった。
森は深く、魔物の出現率は高く、それに対抗するかのように村人が仕掛けたであろう罠も多いが、精巧すぎて引っ掛かる騎士も居た。
このような過酷な場所に村がある事に疑問すら抱く。
上級騎士ですら脱落していき、今は十数人になった一行に何故か下級騎士の私も食らいつく事が出来た。
下級騎士である私だ。任務に就く時には「王太子殿下の見聞の旅にテオテル村を視察に行く」としか聞かされていなかったが、今では大体の事情が分かってきた。
『テオテル村』や『テオテル村の神童』、あるいは『テオテル村の賢者』の話はよく聞く。
特にテオテル村の神童が生まれてからの十数年でこの国の生活水準は格段に上がった。
だが、あくまで『テオテル村』発の知識や技術だ。王都すら追いついていない部分もある。
それを補うため、また急成長したテオテル村を抑えるために、村長の娘を妾妃にという前代未聞の話が上がった。
しかし、内々に提示されたそれに村長とその娘は謙虚に辞退したようだ。
そこで王太子殿下とそのご学友がお忍びで視察隊に同行する事になった。
これが実情のようだ。
王太子殿下と言葉を交わす機会こそ無いが、今では王太子殿下を含めた十数人の一行の中に、連帯感のようなものが出来ている。
それほど、テオテル村への道程は過酷なのだ。
周りの張り詰めた空気を感じ思考を戻すと、鬱蒼とした茂みから大型動物らしき物音が聞こえる。魔物だ。
「……またか」
珍しく疲れきった声を出した隊長が剣を構える。
隊長の声に動かされるかのように私達も剣を構えた。
2012/09/01 加筆