魔界の姫と緑園の王子
そのままルーンはルーシフに連れられ後宮を後にした。
兵がルーンを連れていくのを黙って見ていたヴィルは
「なぜバレた!計画は完璧で今ここにいる者しか計画のことは知らないはずだ!くそ!ルーンを助けなくては・・・!」
そう言い部屋を出て行こうとするヴィルを男と侍女達が止めた。
「お待ちください!今行ってはまた捕まってしまいます!」
そう言いながら男はヴィルの腕を掴んだ
「離せ!ルーンをあのままにしてはおけない!!」
「ルーン様のお気持ちもお考えください!」
男がそう言うとヴィルはハッとしたように一瞬体を揺らした。
「だが今の兄上は尋常ではない、手はださぬと言ってはいたがいつ気がかわるか分かったものではない!」
「それでも貴方様まで捕まってしまわれては計画を遂行することができなくなってしまいます!ルーン様もヴィル様の事を思い計画のためにと自らの意思で陛下について行かれたのですよ!」
そこまで言われヴィルはやっと触っていたドアノブを離した。
(計画を進めつつ必ずルーンを助ける!待っていてくれ!ルーン!!)
その頃ルーンはルーシフ率いる兵とともに後宮を離れた王宮の通路を歩いていた。
すると、赤茶色の扉の前まで来ると兵に何やら話をしてルーンと兵をその場に置いて王は去って行った。
王の姿が見えなくなると兵の一人が扉を開けルーンを歩かせ中に入って行った。
扉の中は部屋ではなくまた別の通路が続いていた。そこを兵と共にしばらく歩いていると、今度はとても綺麗な装飾品で飾られた扉の前で止まった。すると今度はいきなり扉が開き黒いフードをまとった男性のような女性のような印象を見せる者が開いた扉の前に立っていた。それを見たルーンは怖くなり後ずさりするが兵は容赦なくルーンの背を押した。
フードをかぶった者にルーンをまかせると兵は扉より先に入らず、扉は閉まってしまった。
ルーンが怯えながらに回りを見渡していると
「この扉より先は王から許しをえた男しか入れない。心配しなくていいよ。あと、私も女だからねそんな怖がりなさんな。」
フードをかぶった者からそう言われてもやはりルーンは怖いのかあまり態度をかえなかった。
扉の中はまた通路になっていて通路の真ん中には光がさした中庭があり、魔界では見たこともないような花が咲いていた。
通路には色々な扉がありルーンはそのうちの一つの扉の前へ連れて行かれるとフードをかぶった女性は扉を開けた。
中は大きな部屋になっていて綺麗に着飾った女性達がルーンを迎えいれた。
「まあ!かわいい子が来たわね。髪なんか見たこともないような色だわ!」
「あら若い・・・お肌なんかピチピチね・・・」
女性はそう言うとルーンの肌を触り自分のそれと比べ、ため息を吐いた。
「あなたどうしてここに?もしかして・・・あなたも妃になったの?」
ルーンの傍までやってきた女性達はいろいろな話をルーンの周りでしだした。それにルーンが困っていると
「この方は第二王子ヴィル様の恋人だそうです。妃様達の話相手にと陛下からここに連れて来るようにと仰せつかってまいりました。」
と、ルーンの後ろ扉の傍に立っていたフードをかぶった女性が言った。
「あら、そうなの?じゃああなたは敵ではないのね?あ~安心した~。」
「ヴィル王子って言うと離宮に行ってしまった方よね?こんなかわいらしい恋人を作るなんてやるわね王子様も。」
と、着飾った女性達は安心したような口調でルーンにまた近づいてきた
「あなた本当に綺麗な髪してるわね、しかも一本一本細いし糸みたいじゃない、どうやったこんなに美しくなるのかしら?」
「そうよね~私達なんかどんなに頑張ってもこんなには綺麗にはならないわよね~」
「あらやだ!瞳の色もきれ~!空の色に少し黒がかかってるわね。あなた生まれはどこ?親は?どうしてこんな身なりしてるの?」
「ねえ、ヴィル王子ってどんな方?かっこいいの?」
「ヴィル王子とは一体どうやって出会ったの?」
とたくさんの女性がルーンの周りにやってきて髪を触りまくり肌を触りまくりその後ろからまた新しい女性がやってきては質問してきたり前の人がまだ触っているルーンの髪をひっぱったりするのでルーンは痛くて泣きだしそうになってしまうと
「皆さんやめてさしあげて、怖がってますわよ。」
少し大人びた、そして冷静とした女性の声が部屋に響いた。
ルーンの周りにいた人達が一転を見つめているのでルーンもみんなが見ているとこを見るとそこには長椅子で寝そべりながら煙管を吸っているとても綺麗な黒髪黒い瞳の綺麗な女性がいた。
「正妃様・・・。」
女性達がそう言いルーンはやっときづいた。
あの女性こそが正妃様なのだと、あとの女性達は妾にあたるのだということを知った。
「怖がらないで黄金色の綺麗な髪を持つお嬢さん、怖がらせてごめんなさいね。私たちはずっとここから出ていないからあなたのような人が来るとついはしゃいでしまうの。そうね・・・皆さん、今日は彼女の歓迎会をいたしましょうか。」
正妃様がそう言うと
「そうですね!しましょうしましょう!新しい仲間の歓迎会ですわ!」
と一人が言い
「それでは侍女に言って食事などを準備させましょう!」
別の女性がそう言うと扉の前にいる侍女の元へ行き何やら話をしていた。
その間にルーンの傍までやってきた女性が
「それではこれからよろしくね。私の名はアリア。」
「私はクルセ!」
「私はブデュールよ。」
「私はマクセ」
と次から次えと自己紹介をし始めるが30人以上もいる女性の名前をいっきに覚えるのは無理だった、そんなルーンを見た女性達は曇った表情をしだすが
「皆さん、その方はまだここに来たばかり。そんな一斉に名前をおっしゃっても分からないのは仕方ありませんわ、ゆっくり覚えていけばいいだけの話です。」
と正妃様が言うと女性達の表情が明るい物へと戻るのが見てとれた。
その日の夕刻、女性達とルーンがいた部屋には大きなテーブルが出されそのうえにはたくさんの食事が出された。女性達は色々な話をしながら食事をしていたがルーンは
(ヴィル、今頃どうしてるのかな・・・・会いたいな・・・)
そう考えているうちに涙が出てきてしまったのでルーンは席を立ち部屋を出た。
そして、部屋に行くときに見かけた中庭の方へと歩いて行き中庭にある花の絨毯の上に座りこむと両手で顔を覆い泣きだしてしまった。
すると
『・・・んで・・・い・・・ているの?』
一瞬聞こえた言葉にルーンは顔を覆っていた手をどけるが声の主はどこにもいない、不思議におもっていると
「どうして泣いているの?」
今度ははっきりと聞こえたと思い後ろを振り返ると中庭を出た通路の柱の闇の中に小さい子鬼のような子がいることに気がつきルーンは驚いた
「あなたはだあれ?」
ルーンがそう尋ねると
「私はマルセス。この王宮の闇に住んでるの。あなたは・・・魔界の住人?」
そう問われ
「うん。私の名はルーンよ。よろしくね。」
ルーンがそう言うと子鬼は慌ててお辞儀をした
「ル!ルーン様!?ルーン様と言えばもしかして姫様ですか!?もうしわけありません!知らなかったとは言えため口を使ってしまって!」
そういながら頭を下げる子鬼にルーンは頭を上げるように命令する。
「頭をあげて、私は確かに姫だけどここは魔界ではないわ。だからそんな改まらなくてもいいのよ。私のことはルーンと呼んでちょうだい。」
そう言うと子鬼はおずおずと頭をあげた。
そして
「あの・・・ルーン様・・・ルーンは、本当に何故泣いていたの?」
そう聞かれ、ルーンは正直に何もかもを子鬼に話した。