8.街の成り立ちとおやすみなさい
街で見たこと、前世との街の違い。そして、この街の構造の話をした。
「街の違いは、たぶん、面白すぎる話になりそうじゃから、今は我慢する。それより、この街のエネルギー構造の話も面白いな。当たり前過ぎて気付かなかったが、言われてみれば、ギルドがすべてを掌握し過ぎているな」
「そうなんです。もし、ギルドがこの街に反意を持ったら、一瞬で崩壊させられます」
「そうか。……ちなみにマキトならどうする?」
「いちばん手っ取り早い方法は、ギルドを国営にすることですね」
「そうじゃなぁ。たしかにそれですべてが解決するが……」
「難しいですか」
「いや、うーん」
彼女にしては珍しく歯切れの悪い解答だ。何かギルドと繋がりがあるのだろうか。
「ならば、簡単なところから、具体的には、林業と採掘業を奪います。この2つはギルドに頼んだほうが安いからという理由で依頼を出しているので、それより安価で木材と石材を入手すれば済む話です」
「ふむ。それにはどうすれば良い?」
「アリシアさんに魔法道具を作ってもらえれば。と」
「ほう。魔法を知らぬお主が、私に魔法道具を作れと。面白い、申してみよ」
私は、図にモーターを描き、その仕組みを詳しく説明した。
「仕組みはなんとなく理解できるが、磁石というのは、たぶん、鉄とかがくっつくロードストーンというやつじゃろ? 私も面白いと思って調べてみたが、力が弱くて子ども向けの玩具くらいしか作れんかったわ」
そうか。自然界にある磁石では威力がなさすぎる。それにそもそも極の切り替えができないから作れないか。
「まあよい。仕組みがわかれば、いずれ作れるようになるかもしれん。それより、これがあると、どのようにギルドの需要を奪えるのだ?」
「これを使うと、少ない力で大きな力を得られます。たとえば、先程のモーターなら、このようにして、チェーンのようにして、このチェーンに細かい刃をいくつも付けます。このチェーンが回れば、斧で切るより、数倍早く、それも斧より力を使わずに切ることができます」
「ほう! 弱いものでも木を切れるようになると。それは夢のような話じゃな!」
「ま、作れないみたいですけどね」
「わかった!」
突然アリシアは大きな声を出した。
「どうしたんですか?」
「お主に助手としての最初の仕事を与える!」
「な、なんでしょうか?」
「魔法を覚えよ!」
「え? いや、それは」
街に行く前に衣食住と学べる環境を提供すると約束したはずだが。
「うむ。そうじゃそうじゃ。私からお主には衣食住と学べる環境を提供する約束じゃったな。なら、良いではないか!」
たまにこの人はエスパーになるな。さすがに魔法ではないだろうけど、単純に洞察力が優れているのだろうか?
「え、ええ。はい」
「そういえば、そこにある包みは何が入っておるのじゃ? 形からして本か?」
「ええ。そうです。本屋に行って、この歴史の本や街のガイドブック、それから小説にあとは、魔法の本です」
そう言いながら、今日買ってきた本を見せた。当然、その中にはアリシアの本も入っている。
「なんじゃ、私の本も買ったのか。言えばあげたのに」
「いえいえ。こういうのは買ってこそ学びになるので」
「ふむ。良い心がけじゃ。でも、この本があれば魔法の基礎は問題ないな。よし、明日は、魔法の勉強に費やすが良い!」
「はい、ありがとうございます。あ、それでですね」
私は切り出した。本屋で見た、アリシアの正体に繋がるヒントの話だ。
「アリシアさん。いえ、アリシア・ベイランドさん」
「何じゃ?」
「王族の方なんですね」
「ほれ、今日中にわかったじゃろ?」
「ええ。この国の名前はベイランド。そしてここは学術都市アリシア。街に名前を冠するということは、王族の中でも王に近い。それこそ、王位継承者の上の方の人で合ってますか?」
「うむ。私は、先々代の国王の子どもであり、先代女王の妹という立場じゃな」
「王女様ですか」
「元な。王位継承件第二位じゃった。じゃが、姉も息子に王位を譲ったから、今のわしはただの無冠じゃ無冠の帝王じゃ!」
「帝王って。それにしても、王女となると、逆に教師3人の態度はなんというか、近しいですね」
「うむ。あいつらにとって、わしは王女の前に先生じゃからの。というか、昔から私のことを王女扱いする奴なんぞいなかったぞ」
なるほど。彼女の性格がそうさせているのは間違いない。
「あと、地図を見ていて気になったのが街の場所です。この街、王都のすぐ隣。壁なんか、一部共有しているじゃないですか。なぜ、わざわざ、ここを新しい街にしているのですか?」
「いいところに目をつけたの。でも、そんな難しい話じゃない。……ウザいんじゃ」
「へ? ウザい」
「うむ。王宮にいると、姉が泣きついてくるんじゃよ。アリシアー、これやってー、あれやってーとな。それで、街のインフラも整えてやったり、硬貨を新調したりと、めちゃくちゃ働かされるんじゃ」
「なるほど。便利に使われてたわけですね」
「50年ほど前じゃが、その硬貨の新調で国は莫大な利益を得たんじゃよ」
見た目のせいで忘れそうになるが、彼女は75歳だ。
「硬貨で莫大な利益。どういうことですか?」
「ほれ、さっき、古い硬貨見せたじゃろ? あれだと偽造も容易いのはわかるな?」
「はい」
「だから、新調したのじゃが、あんな精巧な硬貨どこの国にもない。すると、他国も我が国の硬貨を使いたがる。そうなるとどうなるかわかるか?」
わかる。金融支配や他国通貨建て国債発行など、金銭的、外交的なメリットは多いが、儲けという意味だと、大きいのはシニョリッジだ。
これは、通貨発行益と呼ばれるもので、たとえば、この国でもっとも効果のある高価な硬貨は10万ベイだ。この硬貨を作るコストが100ベイだとする。
100ベイで作った硬貨を他国は10万ベイの商品などと交換することになる。するとベイランドは99900ベイの儲けとなる。
自国の経済が成長し、発行量が上がるだけでも儲けになるが、他国がベイを使うことで、通貨発行量は跳ね上がり、天文学的な儲けが転がりこんでくる。
「わからないほど儲けていることがわかります」
「じゃろ? 本当にわからないほど儲けておってな。でも、もともとは偽硬貨対策なので、他国が我が国の硬貨を使って出た儲けは、私の手柄じゃ。だから、その報酬として街を1つ作らせてもらったわけじゃ」
それで、王都の隣に街を作ったのか。物凄いスケールの大きな引きこもりみたいだ。
「なるほど。この街の冒険者ギルドは物凄い大きさですけど、王都にも同じかそれ以上のギルドがあるということですか?」
「いや、王都にギルドはない。冒険者ギルドも、ほんの50年前までは、小さい組織でな」
そう言いながら、アリシアは紙に図を書き出した。大きな四角を書き、そこに「王都」と記す。北側の中央に簡単なお城を書き、そこに「王宮」と書いた。
「そこで、各国の冒険者ギルドが連携を図り、国際組織化し拡大を狙ったんじゃ。当時、この国は新硬貨で財政が潤うどころか溢れまくっておったからの。ギルドに頼むなら王様に頼めば良い。みたいな流れがあって、ギルドが潰れていたんじゃよ。そこで、国際化したギルドが、もう一度、この国にも冒険者ギルドを作るように直訴し、許可ももらえたんじゃが……」
ここで話を区切り、アリシアは先ほどの紙に向かった。王都と書かれた大きな四角の外側、王都から少し離れた南東部に小さな四角を書いた。
「許可をもらったはいいが、王都の土地は高過ぎてな。当時の冒険者ギルドでは、王都に土地を買う金もなく、泣く泣く王都の外にギルドを建てることにしたんじゃ。ここなら土地代がかからんからな」
アリシアは小さな四角に「ギルド」と書き込む。そして、また王都の外、ギルドから南南東、少し離れた場所に、ギルドより少し大きい四角を書いた。
「で、わしも街作りの手始めに学校を建てた。やっぱ、新しい街を作るには、ランドマークとコンセプトは大事じゃからの。そこで、私は大きな学校というランドマークと学術都市というコンセプトを用意したわけじゃ。どうじゃ? 格好いいじゃろう? じゃが、王宮から遠すぎると、変な噂を立てられかねん。私の魔法技術は世界的に有名になっているからの。ならば隣接させてしまえ。と、ギルドの近くに学校を建て、そこに街を作ったんじゃよ」
そこに「学校」と記し、学校とギルドを囲むように四角で括った。大きさは王都の3分の1くらい。そして、その四角に「アリシア」と記す。
たしかに、力があり過ぎる人間が中央政府の近くにいないと、すぐに叛意を噂されそうだ。
「こうしてできたのが、この街アリシアじゃ!」
「と、言うことは、アリシアさんは町長ですか?」
「は? なんでそんな面倒くさいこと私がしないといけないんだ? 私はここの校長。それで十分じゃ」
どうせ、校長の仕事もしてないだろうに。
そう思っていると……。
「あ、今、どうせ校長の仕事もしてないだろう? とか思ったじゃろ」
エスパー発動。というか、さすがに顔に出すぎていたか。
「ふふふ、じつは、私が校長の仕事をしないのにも秘密があるんじゃよ。というか、私はそのために街を作ったんじゃ」
そう言って、アリシアは今まで書いていた紙を裏返して私に見せた。
「これじゃ!」
その紙にはこう書かれていた。
アリシア学術都市条例
1.この街に入る者すべてにアリシア学術都市条例が適用される。
2.アリシア・ベイランドの研究を邪魔するものは極刑に処す。
3.その他条例は王都の条例と同様のものとする。
以上。
「……なんですか? これ」
「この街の条例じゃ。素晴らしいじゃろう」
「これって、公式の条例なんですか?」
「そりゃそうじゃ。だから私は研究さえしていれば、校長の仕事をしなくて良い。ということじゃ」
めちゃくちゃ自分勝手だ。でも、それが許されているのは、実績ゆえだろう。
「それにしても、最初は大変そうですね」
「いやいや。金は唸るほどあったからな。学校を作りながら、街の設備も整えたんじゃ。最初っから家とか店とかも全部作ってな」
すごいな。たぶん、街作りゲームの感覚でリアルに街を作っちゃったのか。この人。
「でも、それだと街の流動性が損なわれたり、問題に対処できなくなったりしません?」
「ん? 何かあったら、壊して作り変えればよいだろ?」
そういうものなのか? さすがの私も街作りの経験はない。だが彼女のことだ移住に関する条件は相当緩く設定しているのだろう。土地代だけで上代はタダとか。それなら、希望者は殺到しそうだな。王都に隣接しているから交通の便は良い。でも、新設の街だから土地代も安い。それに、彼女の知名度も抜群だ。たしかに前世の私がこんな街を見つけたら、飛びついて何件か物件を抑えようとするだろう。
「それで、最初の入居希望者はどれくらい集まったんですか?」
「えっと、5万人くらいか?」
「ご、5万?」
この街はせいぜい2km四方の小都市だ。東京で言えば、渋谷から原宿という小さな範囲だ。しかも、東京のように高層ビルがないので、人口もせいぜい1万〜1万5000人くらいしか住めないだろう。すでに飽和している。抽選でもしたのか?
「だって、私、この国最大の功労者じゃよ? それに移住に関する費用は土地代と後は、それぞれの引っ越し費用だけだからの。そりゃ集まるじゃろ」
やっぱり上代はタダだったか。
「でも、大勢の人が申し込みに来たせいで、面談に次ぐ面談じゃ。こればっかりは私以外にできないんでな。で、面談している間も希望者は増え続けるし。たぶん、私の人生でいちばん働いたわ」
なるほど、抽選ではなく選別か。
例のエスパーを発動させて、人を選んだのだろう。私も洞察力には相当の自信があるが、彼女には敵わない。そのお眼鏡にかなう人を選別したとあれば、街はすぐ活気にあふれるだろう。
「街で言えばやはり魔石が大きかったな」
「魔石ですか?」
「うむ。学校も盛況での。しかも私が、教えるということで優秀な人間も多く排出できたんじゃよ。実際に、卒業生の魔力は一般人とは比較にならんくらい高めたしな。そんな奴らを魔石作りの職に就かせたみたら、今までの魔石の5倍くらい出力が違うものができてな。魔石輸出国として、またガッポガッポよ」
街を歩いているとき、マリアから「魔石文化」って言葉を聞いたけど、それも、彼女がもたらしたものか?
というか、ここまで来ると、だいたいこの人のせい。って言いたくなってくるな。
あ、私が話した、ギルドが産業を掌握し過ぎている。というのも元を正せばこの人のせいじゃないか。
「ま、そんなわけで、最初に人が集まって、その後も魔石やら契約書やら、他にも街の商店からブームになった物があったりして、今では、王都より若者が憧れる街になったというわけじゃな」
「そして、ギルドも急成長した。というわけですね」
「そのとおり。ギルドの成長も私のせい。だから、お主のギルドの話で私の歯切れが悪かった理由もわかったな」
「はい。すいません」
「いやいや、謝る必要はない。言われてみればたしかにその通りじゃからなぁ」
しばしの沈黙。この人でも多少の後悔はあるのだろうか?
「ま、そのときになったら、考えれば良いことじゃ。それより、お主は、明日から、魔法の修行をせい!」
「はい。かしこまりました。では、そろそろ御暇します」
と、私は二階に向かった。
ご丁寧に私の部屋のドアには「マキト」と書かれたプレートが飾られていた。
そこまでしなくていいのに。
部屋に入ると、そこは完全な暗闇だった。
そうか、蛍光灯なんてない。おそらく光の魔石は付いているだろうが、付け方も知らない。ドアを空けた瞬間に見えた家具の配置を思い出しながら、本を机に置き、私はベッドを探し当て座った。
その瞬間、猛烈な睡魔が襲ってきた。
……考えてみれば、今日は転生初日なのに、色々なことがありすぎた。
ここで、私の意識は途絶え、信じられないほどの深い眠りについていた。
本当に長い一日なってしまいました……。
明日から、タイトル回収ゾーンに入ります。……入れればいいな。




