24.突然の展開と王都散歩
目覚めたときに、ふとこれまでのことを振り返りたくなった。
ここに来てから5日目の朝。
濃い。毎日が濃すぎる。
初日。
異世界に転生(?)し、学校の時計台の上に現れる。これについてはまったくの謎。
レオンに助けられ、応接室でレオン、ノルド、マリアの3人の教師から尋問さらた後、学校の校長であるアリシアに引き合わされる。
なんだかんで、アリシアの助手として雇って貰えることになり、アリシアが居住する研究棟、つまりここでの生活を保証される。
2日目。
初めて魔法を使う。その後、魔法の仕組みを知り、何でも無詠唱で唱えられるのではという説を解く。その後、自分の過去を語る。
3日目。
この世界のことを知り、経済から平和が壊れる可能性を感じ、アリシアと話した上、作戦を練る。その後、校長代理のブルーレット・ハーランとその娘ミユキと出会う。
ミユキに魔法を使えるようにしたあと、ブルーレットの協力を取り付ける。
4日目。
思いついた魔法の実験をするために狩りに出る。
その後、鍋とフライパンを作り、定食屋にて強度テストを行う。
出来事だけを並べると、それほど多くはない。
私の前世のスケジュール帳に比べたら、真っ白だ。
だが、異世界に来てからは1つ1つの事柄にかける時間が長いし、濃いし、新しい。
いくつもの要件を薄くこなすよりも、数は少なくとも新しく濃い要件をこなすほうが、疲れは大きい。
そのせいだろうか、起きてからずっと体が重い。
だからといって、休むわけにはいかない。
働けなくなるまでは労働時間。
そんなライフイズワークな人生を送ってきた私にとって、休むという選択肢は、最終手段としての認識しかない。
とにかく、私は働いて生きてきた。そして、アリシアからもまったく同じ匂いを感じる。私と同じように彼女もただ働いて生きているだけだろう。
周囲の人からは不思議に思われるが、仕方がない。何しろいちばん楽しいことが働くことなのだから。
この感覚を理解できる人は少ない。
ま、そんなことはどうでもいい。顔を洗って、スッキリした。鏡を見たら頭の中の私とは違う。小さな僕が映し出されていた。
階段を降りる。
何やら話し声がする。
「おはようござ……」
「なんじゃと!」
アリシアの突然の大声が鼓膜を揺らした。
「間違いのない事実でございます」
「うーむ」
「おはようございます」
話の相手はブルーだった。隣にはミユキの姿もある。だが、二人の話についていけないようで、僕の挨拶に会釈で返しただけで、ちょこんと座っている。
「お、おはよう」
アリシアの声はいつもと違い、どこか沈んでいる。一体何があったのだろう?
「どうしたもんかのぉ」
「あの、何があったんですか?」
アリシアの珍しい、というか、初めてみる深刻な顔から、何か大きな出来事があったのかもしれない。
「じつは、お主に話していないことがあってな。私の姉が元女王だったという話はしたよな」
おそらく、気持ちを落ち着かせるためであろう。お茶を煎れながら、アリシアは僕に事情を説明してくれた。
「ええ。継承権で言えば、アリシアさんは第二位だったとか」
「そうじゃな。じつは、その下に第三位がいたんじゃ」
「えっと、それはアリシアさんの弟、ですか?」
「そうじゃ。と言っても、ここ40年ほど会っておらんがの」
「40年も? 仲が悪いとかですか?」
「どうじゃろうなぁ。奴は私を嫌っているかもしれんが、私は別に嫌いじゃないぞ。たった一人の可愛い弟じゃしな」
「でも、それならどうして40年も……」
「会えなかったんじゃ」
「それは、遠い場所にいるとか?」
話しぶりから死んではいないようだが、一応、最悪の確認はしておく。
「いや、今も王都におる」
「では、なぜ?」
「会いたくても会えない場所におるんじゃよ」
「ご病気で面会謝絶とかですか?」
「いや、人から隔離されているという点では近いが、体は健康そのものらしいぞ」
「そうですか。すいませんさっぱりわかりません。どこに居るんですか?」
アリシアは答えない。が、ティーカップを口に運びながら、目線を軽く動かしブルーに向けた。自分の変わりに話せとでも言わんばかりの視線誘導だ。
「王弟様の現在の居住地は……」
ブルーは一度、話を溜めた。
「王都ベイランド地下……収容所です」
「はい?」
「ま、刑務所じゃの」
僕も驚いたが、ブルーの隣に座っているミユキも驚いている。
あまり知られていない話なのだろうか?
「40年会ってないということは、40年刑務所にいるということですか?」
「そういうことじゃの」
「40年も服役する罪?」
日本で言えば、無期懲役のレベルだ。
「いったい何をしたんですか? その人は」
「いや、何と言えばいいのか。まあ、奴も私と似たような人種での」
「弟さんも変人と言われるような人だった?」
「私よりもタチが悪いというか。私は、一人で部屋に篭もって、黙々と魔法研究をしていた人間じゃが、奴は、社会そのものを変えようと動いていたからの」
「社会を変える? 具体的にどんなことを?」
アリシアはチラリとブルーを見る。話を引き継げという意味だ。
「市場の独占による社会体制の変革です」
「???」
市場の独占はよくわかる。日本には独占禁止法と言う法律があるくらいだ。
これは、自由な経済競争を阻害する人や企業、団体などに対して罰せられる法律で、たとえば、いくつかの企業が組んで、小売や問屋に圧力をかけ、新規参入しようとする会社を締め出すなどが顕著な例だろう。
ちなみに私も前世でこれに近いことをやられそうになった。
ただ、もしこの国にも同様の法律があるにしても、40年は明らかに重すぎる。
「すいません。この方はどのような罪で服役されているんですか?」
「国家転覆罪です」
国家転覆罪。日本では「内乱罪」という名称が使われている。
その名の通り、国家機能を阻害し、転覆を図ろうとする行為だ。たしか、計画をしただけでも罪になったはずだ。
実行に移した場合、罰も重く、内乱の首謀者は死刑か無期懲役の二択だ。
「……」
わからない。市場の介入が国家転覆? イマイチ繋がりが見えない。
「まあ、奴は国の金で買い占めを行ったからのぉ。それで国の制度を勝手に変えようとしたのだから、罪としては妥当よなぁ」
ここでようやくミユキが口を挟む。
「すいません。あの、私、その魔法が使えなかった分、勉強くらいしっかりしようと、この国の歴史についてかなり詳しく勉強しましたが、その、事件? いえ、アリシアさんの弟さんの存在すら何も知らないのですけど」
「そうじゃろうな。誰が好んで王族の恥部を知らせたいと思うか。そんなもんもみ消しじゃ。もみ消してもみ消しまくって、おそらく、王族の側近レベルでしかこの事件のことを知らんわ」
さすが王政。これは地球でもよくある話だ。何十年も経ってから王族の恥部が明らかになるなんて、よくある話だ。
「じゃがのう。もみ消し過ぎて、王族は面会を禁止されているんじゃ」
「なるほど。そういう事情だったんですね」
「あーーーーーーー!」
突然、アリシアの大声が研究室に響く。そして、僕の肩を両手で揺さぶりながら、わけのわからないことを言い出した。
「おい、マキト。マキトや!」
「はい? なんですか?」
「お主はマキトではないか!」
「はい。確認せずともマキト・ハザマですが」
「お主! 会いに行け! ギルのところに行け!」
「なるほど。それは名案ですね!」
わけのわからないアリシアの提案にブルーも賛同してきた。ギルというのが弟の名前だろう。が、何も意味がわからない。
「え? どういうことですか?」
「どうもこうもない。ギルの奴は、あれはあれで天才での。しかも、私と違い、政務や経済の天才なんじゃ。そのせいで、私や姉、ここにいるブルーでも話にならんのじゃ。いや、正直、奴の考えを理解できるものなどおらん! そこでマキトじゃ!」
「じつは、本日、ギルバード様の死刑執行が決定し、その通達が私のもとに届きました」
「え? そうなんですか?」
そうか、アリシアの大声は、このことが原因だったのか。
「我が国では、懲役から死刑に至る場合、再度、申開きの機会が与えられるのです。それは、本人による申開き以外にも、この件に異議を申し立てる人でも可能となっています」
「はい」
「じゃが、ギルの言っていることはさっぱり理解ができんのじゃ。しかもあのバカは、こっちが理解できないとわかるとフッと冷淡な笑みを浮かべて、これ以上議論の余地はありません。みたいなことを平気で言う嫌味な奴なんじゃ」
「つまり、申開きはしたいけど、ギルバード様が犯罪に至った経緯や動機がわからず、申し開こうにも開けない。という状況になってしまうわけです」
ブルーが華麗に話に入り、アリシアの言動の意図を正確に翻訳してくれる。
「なるほど。それで僕に話を聞いて来い。というわけですね」
「そうじゃ。金のことなら黒マキト! じゃ!」
変なキャッチコピーをつけられてしまったが、たしかにこの世界で僕より経済や経営について詳しい人は、そうはいないだろう。
「じゃから行け。今日行け、今から行け!」
「え? はい? 今からですか?」
「そりゃそうじゃ」
「えーと」
ブルーの翻訳が入る。
「慣例ですと死刑宣告から実行までの期間が3週間。異議申し立ての期限が執行の2週間前まで。つまり後1週間ですね。そして、死刑執行までに再審査の必要ありと認められれば、死刑は撤回され再審査の結果を待つという形になります」
「なるほど。申し立てから調査を開始するため、再審査の必要ありと判断されるまでに時間がかかる。この時間が重要なんですね」
「そのとおりでございます。さすがマキト様」
「で、そんなときに、議論の余地はありませんね。なんて言われてみい」
「それは、たしかに異議が唱えられませんね」
議論の余地は……のところだけ、アリシアは妙にキザな言い方になる。きっと、弟の真似なのだろう。
「そのとおりじゃ。でも、マキトが言って議論が進んだとしても、それを理解しなければいけないのは、裁判官たちじゃ。奴らが理解するにも相応の時間がかかるじゃろ?」
「なるほど。一度、話を聞いて、その内容を噛み砕き、裁判官に伝えなければいけないというわけですね」
「わかればよろしい。では、行くが良い! マキトよ」
「いや、その行けと言われましても、どこに行けばいいのかすらわからないのですが」
「それならご安心を。私が案内いたします」
「え? いいんですか? 校長の仕事は」
「そんなもの帰ってからでも出来るわ」
この一言、胸に刺さる。仕事人間にとっては、仕事をすることは苦痛でも何でも無い。ただ楽しいからしているだけ。だから、睡眠時間なんて削って当然。
私も生前はそう考えていたし、最初に立ち上げた3Dデザインの会社では、社員も同じようなテンションだったため、他の事業をしたときに、初めて働かない人たちに遭遇し、扱いに心底困ったものだ。
「そういうことでございますので、マキト様さえ良ければ、今からでも出発できます」
「えっと、僕は何か準備が必要ですか? たとえば、学校の制服を着るとか」
今、来ているのは、以前、マリアと街に行ったときに買った安物の綿素材の服だ。ボタンもなく柄もない。無地のロンTみたいな服だ。
「問題ない。服は喋らんじゃろ」
「いや、しかし……」
「いえ、制服を着ていったら学生が来たと余計に舐められます。ですので、その格好でも大丈夫です。私も付いて行きますから」
「そういうことじゃ。ブルーは王宮ですら顔パスで入れるくらいじゃからな。牢獄なんて向こうが赤絨毯でも敷いて歓待するレベルじゃ」
「え? ブルーさんってそんなに偉いんですか?」
「偉いというか、アリシア様が作り、私が売る。という流れが周知されているだけです」
ほう。言わば、二人のスティーブの世界か。ウォズニアックが作り、ジョブズが売る。
むしろ、表立った場所に行くことが多いジョブズのほうが世界的な有名人になった。そんな流れなのかもしれない。
「新しい魔石を世に売り出した時、ブルーが各所で公演を行っていたんじゃよ。あなたが今、困っていること、何でも解決できます。そう。魔石ならね。の決めゼリフとあの決め顔。お主にも見せたかったのぉ」
そう言いながらアリシアがケタケタと笑う。まんまスティーブじゃないか。
「あ、そのセリフ私も知ってます!」
ミユキも嬉しそうな顔で話に加わってきた。
「あれは、もう30年も前の話ですよ? ミユキはまだ生まれてないですよね?」
実の娘にも丁寧な言葉を崩さないブルー。さすがだ。
「近代史の本で読んだんです。第二次魔石革命の挿絵に載ってました」
ミユキは目を瞑り、そのページに書かれたことを思い出しながら声に出した。
「魔石革命の功労者とも言えるブルーレット・ハーランは、各地で公演会を重ね、新しい魔石の普及に務めた。このとき彼の発した一言。そう、魔石ならね。は、大変なブームとなり、当時、巷で聞かない日はないほどに多くの人に用いられ、この流行語も魔石革命を後押ししたと言われている。って書いてありました」
「え? 本に書いてあることをそんなに完璧に覚えているんですか?」
「あ、いえ、本を読んでたら突然お父様の名前が出てきたんで、その驚きで全部覚えてしまっただけです」
「さすが、ブルー。有名人よのぉ」
「公演会の台本は全部アリシア様が作ったものですので」
「なに、私は脚本家に過ぎん。あそこまでブームになったのは、やはり役者の力よ」
「わかりました。では、マキト様。行きましょう」
「え? あ、はい」
このやり取りがとりとめなく続くと判断したのか、ブルーは即座に私を連れて外に出ようとする。その背中に声がかかる。
「今日は、お主が作ろうとしていたチェーンソウとやらをミユキと作っておるから、安心して行くんじゃぞ。よろしくな」
最後のよろしくな。だけ妙に感情がこもっていたように聞こえたのは、僕の思い違いだろうか。でも、思い違いだろうが、これからやるべきことに少し気合いが入ったのは確かだ。
「いきなり訪れて大丈夫なんですか?」
ふと頭に浮かんだ疑問を聞いてみた。普通、受刑者との面会はアポを取ってからだろう。
「ええ。もうアポイントメントは取ってあります」
「え? 僕が行くことって、今、決まったんですよね」
「ええ。マキト様が行くことはさっき決まりましたが、どのみちアリシア様は、今すぐ自分で行くか、今すぐ誰かに行かせるかの違いだけです。そして、どのみち、私は同伴しますので、伝達が届いた時点で、お昼に伺うとアポイントメントを取っておきました」
ほんと、痺れるくらいに優秀だな。この人は。
「それで、面会まではまだ時間がありますので、食事でもいかがでしょう?」
「ええ。朝から何も食べてないので、そうしてくれるとありがたいです」
「わかりました。では、刑務所近くのお店にでも適当に入りましょう」
学術都市アリシアと王都は一部壁を共有しているので、門をくぐるだけで王都に入ることができる。当然、門番が居るが、さすがはブルー。顔パスで通り抜けることができた。
王都を歩く。街並みはアリシアとさほど変わらない。
しかし、アリシアで感じた日本のような安心感のある街並みとは違い、少しだけ不穏な空気を感じる。
「やはり、アリシアとは違いますね」
「ええ。王都には職にあぶれた人もいますから、多少の治安悪化は感じると思われます。ただ、これでも世界の中では格段に治安は良い方なんです」
「そうですか」
言いながら周囲を見渡す。
街並み自体はアリシアと変わらない。中央北部に王宮があり、そこからまっすぐ南の出口まで石畳の通路が敷かれている。縦横4kmほどある王都。そこにまっすぐな道を敷くだけでも大変なお金と労力がっかると思うが……。
私がまじまじとまっすぐ敷かれた石畳を見ているとブルーがこの疑問に答えてくれた。
「これは、第二次魔石革命時に行った公共事業の1つですね」
なるほど。国が儲かればその分、公共事業という形で国民に還元する。インフラは整い、街並みはキレイになり、より使い勝手の良い街へと変わる。しかも、これらで労働者の需要を増やすことで、失業率も減らす。
ちなみに、日本の場合、公共事業による中抜きの割合は10%ほどと言われている。
中には、東京電力の原発作業員のように、東京電力は1人1日5万円ほど支払っているのに、中抜きに次ぐ中抜きで、原発作業員に渡る金額は日15000円になる。つまり、中抜き率70%という驚異的な数字を弾き出している。なんてケースも聞いたことがあるが、なかなかに国がきれいにお金を回すというのは難しいようだ。
「こういう公共事業って、発注した会社が下請けに丸投げして、また丸投げして。という二次請け、三次請けと仕事が下がっていき、そのたびに中抜される自体が多いようですが、大丈夫だったんですか?」
「はい。公共事業における支払いは、少々特殊な形を取るようにしていますので……」
と、ブルーはその仕組みを説明してくれた。
ベイランド王都には、民間の銀行がなく、王都に住む国民全員が、王立銀行に口座を持っている。そして、公共事業を頼む際には、現場作業員の給料は国が各作業員に支払うという形を取っている。
そして、各公共事業の現場作業員の給与額は、王都から発布される。
この発布により、騙して安く働かさせたり、給与を手にした後で保証金などの名目で会社がお金を取ろうとする行為などもなくなり、公共事業に関してはかなりスムーズに行うことができるようになったという。
「個人的に下請けをさせる。なども考えられますが、かなり良い仕組みですね」
「あ、個人的な下請けもないですね。あえて悪党と呼ばせていただきますが、悪党の中にも倫理観というものがありまして、力による上下というのが生まれにくいんです。ですから、上下あるとしたら、それは男気とかそういう面ですね」
「それはなぜでしょうか?」
「冒険者です。暴力によって人を支配するなら、冒険者で一攫千金を目指したほうが効率が良いのです。それもしないで、他人を暴力で支配する。このような人は悪者同士の中でも尊敬されません。この悪党のイデオロギーのおかげで、個人的下請けという現象も起きずに済みました」
なるほど。地球では暴力を商売に出来る人は、一握りのアスリートだけで敷居は高い。また、相応の倫理観も求められる。しかし、冒険者ならベースは暴力でありつつも敷居が低く、また、街で見かけた冒険者を見る限り、倫理観も求められてはいないようだ。
「そういうこともすべて見越して、ギルバード様はこの仕組みを築き上げたようです」
「え?」
「ええ。今お話した仕組みは、ギルバード様が若い頃に作ったと聞かされております」
「なるほど。政治と経済の天才ですか」
「ええ。このとき、まだ20代ですからね。本当にベイランド王家の血は恐ろしいです」
「でも、そのギルバード・ベイランドさんが今は死刑執行を待つ身になっていると」
「はい。私にも事件の詳細はわかりません。というか、聞いたことはあるのですが、全容を把握するのが難しく、単純に考えると、国のお金で魔石を買い取ろうとした。だけなのですが、それが国家転覆になるという流れが、話を聞いた私でもよくわからないのです」
「しかし、よくわからないなら罪にならないのでは?」
「いえ、ギルバード様ご自身が、この国は一度終わらせなければならないと主張し、実際に制度のいくつかを勝手に変えていましたから。それが国家転覆罪へと繋がったと聞いております」
「ブルーさんでもわかりませんか」
「ええ。当時私は15歳で、ちょうどアリシア様にお使えした年でございます。王宮でギルバード様のお姿を見ることは何度もありましたが、いつも何か考えているようで、ブツブツと何か呟いており、当時、それほどギルバード様にお声がけをしたこともされたこともなかったのです」
そんな話をしながら、石畳を歩くこと30分ほど。気付けば王宮が目の前に来ていた。
「すごいですね」
真っ白。だが、表面の石材は少し透明になっていて、そこに入り込んだ光が反射することによって、まるで王宮自体が輝いているように見える。
「ええ。元女王様は華美な王宮を嫌っておりましたが、これも公共事業の一環ということで、30年前から着工を始め、20年前に完成しました」
「さて、刑務所はあちらになります」
王宮の正面入口から100メートル先に小さな建物が見える。
どうやら、あれが刑務所の入口らしい。
「では、この近くで食事をとりましょう。マキト様は苦手な食べ物はありますか?」
「大丈夫です。ふつうの食べ物であれば、嫌いなものはありません」
「作用でございますか。ならば、私のおすすめのお店をご案内します」
そう言って、近くのお店に入っていった。
王宮の白とは対象的に黒で塗られたお店。見た目的には高級レストラン。
席に付くと、僕の好物や今、食べたい物を聞き、店員と少し会話して、オーダーを終えた。とにかく手際が良い。
「さて、まだ少々お時間がございます。食事しながらでも構わないので、1つ私のお願いを聞いていただけないでしょうか?」
「え? なんでしょう?」
「アリシア様から、マキト様の前世? とでも言えばよいのでしょうか? そのときの話を伺いました」
いつ聞いたのかが気になったが、なんとなくブルーの研究室の佇まいの自然さを考えると、しょっちゅう訪れているのだろう。
そう考えると、私が寝ている間に、この話をしていたとしてもおかしくはない。
というか、この二人いつ寝てるんだ?
「是非、その続きを聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ。構いません」
「私もアリシア様の作った物を売っていたということで、商売というものに片足は入っている身でございます。そのため、アリシア様から聞いたマキト様の話は、興奮冷めやらぬ冒険譚として、私の記憶に鮮明に残っています。ですので、ぜひ、この機会に続きをお願いします」
「いや、そこまで言われると照れますね」
おそらく、アリシアのことだから、きっと脚色も含まれて、より物語性が強くなっているのだろう。
「いえいえ、すべて私が感じた率直な感想でございますので」
「わかりました」
もちろん、依存はない。それに、これから会う人は、政治と経済の天才らしい。ならばこちらも商売の話をして、頭を経済寄りにしておいて損はないだろう。
ということで、私は、前世の記憶を掘り起こしながら、最初の事業を終えた後のことを話し始めた。




